第200話・秘密の吐露(1)

プリームスは試したくなった。

テユーミアがプリームスに愛念を抱いているなら、自身が知りうる秘密を語ってくれるのかと。


その為には先ずプリームスから曝け出さねばならない。

相手に求めるならば、自らを差し出さねば信を得られないのだ。



ゆっくりと顔を近付け、ソッとテユーミアの唇へ口付けをした。

少し驚いていたが、嬉しそうな表情を浮かべるテユーミアへプリームスは語りかける。



「私が全て曝け出せば、テユーミアも全て話してくれるかい?」



するとテユーミアは迷う事無く笑顔で答えた。

「勿論です」




プリームスは自分がこの世界の住人では無い事を伝えた。

そしてこの大地より遥かに広大な魔界を、100年もの歳月をかけて統一した魔王であった事も。


それらを聞いたテユーミアは随分と驚いた様子だ。

「プリームス様は一体お幾つなのですか? こんなにも可愛らしくて・・・失礼ですが幼く見えるのですが・・・・」



「350歳になる。だが今はこんななりで、テユーミアが言うようにまるで子供だな・・・。まぁ元は年相応?の容姿をしていたとは思う」

とプリームスは苦笑いをする。



更に驚いた表情を浮かべるテユーミア。

「350・・・・」

そうして少し思案した後に首を傾げた。

「元と仰いましたよね? では今のお身体は・・・・」


プリームスは困ってしまった。

「う~む・・・詳しく話せば長くなる」

と言っても全てを曝け出すと告げた手前、話さない訳にもいかない。

そこで掻い摘んで端的に説明する事にした。



「世界を二分する戦争が起きて数年後に終戦に至ったが、私がその責任を取らされる事になってな。命かながら此方の世界へ逃げて来た訳だ。いや・・・私を討伐に来た優しい人間が条件付きで私を逃がしてくれたと言った所か・・・・」

まだ一月も経っていない自身の終焉の時を感傷的に思い出すプリームスは、言葉が止まってしまった。

あの時、命を失う覚悟が出来ていたが、まさかこうして生き永らえられるは考えもしなかったからだ。



そんなプリームスを心配そうに見つめ、続きを話し出すのをテユーミアはジッと待つ。



「フフ、今更過去の感傷に浸ったところで何もならないのにな・・・。只、私が居なくなり残された者達が幸せに暮らせているかは心配ではある。皆私を慕い信じて付いて来てくれた者達ばかりゆえ・・・・」

そう言ってプリームス溜息をついた。


そしてテユーミアへ苦笑いを向け、

「話が逸れてしまったな・・・。兎に角私はこちらの世界へ落ち延びた訳だが、最後の戦いで受けた傷が強力な呪いを含んでいてな、折角生き延びたのに再び命の危機が私に迫った。それは身体に受けた呪いと私の魔力根源・・・つまり私の魂と反発し合い生体活動を蝕んでいたのだ」



余りに滅茶苦茶な展開にテユーミアは唖然とする。

「そんな・・・それではもう残された方法は・・・」



頷くプリームス。

「うむ、肉体を捨てるか、肉体と共に魂も滅ぶか・・・その2択しか無い。私が取った方法は持ち勿論前者で、部下の為に用意していた私の複製を今こうして依代にしている訳だよ」



テユーミアは自身の常識を超え過ぎたプリームスに、只々驚き納得するしか無かった。

自身の複製を作り出す技術、また自身の魂を別の肉体に移動させるその術・・・どれをとっても最早禁忌であり神域の業と言えたからだ。



ふと1つ気になる事がテユーミアの脳裏に浮かぶ。

「元のお身体はどうなされたのですか?」



「”部下の為に用意した”と言っただろう。 戦で身体を失った忠臣が居てな、それに”元の私の身体”を託して管理して貰っている」

などとプリームスはさらりと言ってのけた。


もう驚きの連続で呆れるしかないテユーミアは溜息をつく。

「では此方の世界に共に来られたのですね? その忠臣の方も?」



「その通りだ。いつも私の傍に居るが今日は学園の方で留守番をしている。スキエンティアと言ってな、私の元の姿を見たければ会ってみるといい」



そのプリームスの言葉にテユーミアは想像の翼を羽ばたかせる。

今ここに居るプリーウスの身体が”元”の複製と言うなら、その元の肉体も絶世の美女であるに違いないのだ。

恐らく”魔王”に相応しい威厳に満ちた様相も含んでいる筈で、是非とも会ってみたいと思わずには居られない。


しかし今ここに居るプリームスは、とても魔王などと言う恐ろしい存在には見えない。

触れれば壊れそうに儚く、そして神が造形したように美し過ぎる。



テユーミアの中である欲望と衝動が芽生えた。

何者にも触れさせず、強固で透明な壁に囲われた部屋に閉じ込めたい・・・。

そして自分だけが傍から愛でていたいと・・・・。


だがそんな事はきっと許されない。

忠臣であるスキエンティアが必ず現れ、テユーミアを殺しプリームスを救いだしてしまうだろう。

プリームスが元ある肉体を託すほどの相手なのだから。



テユーミアは愚かな思いを払拭するように深呼吸をすると、

「他に私に伝えておきたい事は御座いますか?」

笑顔でプリームスに尋ねた。


少し逡巡するプリームス。

「う~ん・・・他には特に秘密にしている事もないしな・・・。テユーミアが疑問に思った事があれば、その都度訊いてくれれば答えよう」

そう少し思案しながら言って、何か思い当たったように続けた。


「出来れば何事にも縛られずに自由に生活したいな。敢えて言うなら隠遁生活がしたい・・・・」



「えぇ・・・・?!」

とテユーミアは唖然とする。

何を今更・・・と言った感が有るからだ。

ボレアースの聖女として名を馳せ、箝口令がしかれて伏せられてはいるが、国王の命を救い謀叛まで未然に防いだ立役者なのだ。

それを今更隠遁とは難しい話だと言わざるを得ない。



それに今プリームスは、各国から注目されている魔術師ギルドのギルドマスターでもあるのだ。

本人に自覚が無いのかもしれないが、どうしてもその才覚と能力が目立つ原因になっている。

故にプリームスを利用したいと周囲も放っておかないの筈である。


『でもプリームス様にも原因があるでしょうね・・・ひょっとして物凄いお節介なのでは?』

テユーミアの推測が正しければ、プリームスの願いと行動が噛み合わない。

そう思うとテユーミアは笑いがこみ上げてしまう。



そしてこれからテユーミアが打ち明ける内容が、プリームスの興味とお節介に火を点ける事は明白であった。


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