第186話・国交手段

リヒトゲーニウス王国と魔導院が魔術協定を結ぶ事になった。

それに基づき両国からの出資で魔術師ギルドが新設されるのだが、1つ大きな問題に直面する。



それは距離である。



魔導院は極東に位置し、リヒトゲーニウス王国は大陸の最南にある。

そして両国間の行き来は道程にして2週間もかかってしまうのであった。

これは非常に遠く一般的な通信手段である伝書鳥でも危険な距離なのだ。



またどちらの国にギルド本部を置くかも議題に上がる。

ギルドは人が集まる拠点になり易く、その地にもたらす経済効果や情報収集率が格段に上がると言われている。

この為、元首は自身の国の首都にギルドを置きたがるのが一般的だ。



しかしネオスは、

「魔術師ギルド本部は、南方連合の議長国であるリヒトゲーニウス王国に置く方が良いでしょう。人の往来が盛んですし、そう言った意味では開国して間もない魔導院では足元に及びませんからね」

と下手に出た。

要するに自国の発展より魔術協定を優先し、それらから得られる物の方が旨味が有ると考えたのだろう。



『フフフ・・・ネオスは中々ずる賢いな・・・』

プリームスはほくそ笑む。

新設されるギルドと言うのは色々と諍いがつきものである。

そう言った面倒事を、リヒトゲーニウス王国に押し付けたとプリームスは見抜いたのだ。



ニヤニヤしているプリームスに気付いたネオスは苦笑いすると、自身の唇に人差し指を立てて添えた。


『お茶目な奴め・・・』

とプリームスはネオスが可愛く思えて笑みが漏れそうになるが、何とか堪えるのであった。



「話が逸れてしまいましたが、距離の問題をどう致しましょうか? 先程プリームス様が”何か”策が有るような事を仰ってましたが・・・」

と困ったようにエスティーギア王妃がプリームスに告げた。



プリームスは疲れて来たのか、それとも飽きてダレて来たのか、

「策も何もネオス達が来た手段があるだろう」

とフィエルテに抱き着いたまま面倒臭そうに言う。

どうもプリームスにとって抱き心地が良いらしく、最近は隙が有ると頻繁に抱き着いている始末だ。


抱き着かれているフィエルテはと言うと、主に触れられてご満悦である。



もう殆どやる気の無いプリームスに呆れつつもエスティーギア王妃は真面目に尋ねた。

「え~と・・・あの姿見ですよね? 魔道具のようですが制限無しに行き来が可能なのですか?」



「そんな訳ある筈無かろう! その様な万能な魔道具が有ったら、既に誰かが世界を制しておるわ」

真面目に訊いたのにプリームスに怒り気味で返事されてしまうエスティーギア。

何ともご無体な話しである。



「そんな言い方しなくても~・・・」

とエスティーギアは項垂れる。

最早2人のやり取りは短い笑劇の様で、傍に居たネオスは笑いを堪えるのに必死だ。



ここで放置しても距離の問題は解決しないので、プリームスは魔道具である姿見の説明をする事にした。

「これはな遠来の水面鏡と言う魔道具だ」


一同はプリームスの言葉に静かに耳を傾ける。

何だかんだ言ってプリームスの行動や言葉には、1つ1つに意味が有るのを皆理解しているのだ。



「フフ・・・」と小さく微笑むスキエンティア。

付き合いが長いスキエンティアとしては、そんな事は当然の事で今更感が強い。

そして本当のプリームスは大雑把でだらしが無い。

それをスキエンティアだけが知っている事に少し優越感を感じるのであった。


更にこの魔道具に至ってもスキエンティアは把握している。

代りに説明しても良かったのだが、折角やる気を出して説明を始めたプリームスの為にも、『ここは黙ってお任せするとしよう』と思うのだった。




”遠来の水面鏡”

それは大昔、プリームスが凄腕の錬金工と共同制作した魔道具だ。

基本的に2対で1つの魔道具で、利用したい離れた場所にそれぞれ設置する。

そうして片方の水面鏡からもう片方の水面鏡へ一瞬で移動する訳である。


今回はプリームスが先日魔導院へ赴いた時に、水面鏡を設置しリヒトゲーニウスに戻って来ていたのだ。

故にこうして魔導院から法王ネオスが簡単にやって来れたのであった。



これに一同は驚いてしまう。

「ではこの状況になる事を見越してプリームス様は魔道具を魔導院に・・・」

とエスティーギア王妃は感心したように呟いた。



プリームスは自嘲するように苦笑いをする。

「只な、これは大人数を移動させたり出来ない。鏡面同士の空間を繋いでいられる時間はほんの2分程度だからな。それと再使用は24時間毎に1度だ。理由はその時間を利用して”遠来の水面鏡”が空間から魔力を取り込んで蓄えるからだ」



つまり遠来の水面鏡を使用すると、この魔道具の魔力が枯渇してしまうのだ。

そして魔力が枯渇すると鏡同士を繋げられなくなってしまう仕組みである。



ここでアグノスが疑問を投げかけた。

「では、この姿見に人が魔力を流し込めばいいのでは? そうすれば時間を気にせず何時でも使えると言うものでしょう?」



全くその通りではあるが、その程度の事をプリームスが考えない訳が無かった。

これにはプリームスの代わりにネオスが答えた。

「恐らくですが、これは時空魔法の応用では? となると相当な魔力を消費するでしょうね・・・・我々が計り知れないほどの魔力量が必要なのかと思いますよ」



プリームスは頷いた。

「流石ネオス、その通りだよ。もしこれを人の魔力で補おうとすれば、2分使用するのに並みの術者が1000人は必要となるだろうな」



そのプリームスの言い様に苦笑いをするネオス。

「と言う事は、プリームス様は一度それを検討か実験をされたと言う事ですか?」



惚けた表情でプリームスは言い放った。

「まぁ随分昔の話だがね、危うく死ぬところであったよ」



正直な所、プリームスとネオスのやり取りに一同は唖然とするしか無かった。

時空魔法など聞いた事も見た事も無く、一見して只の姿見が1000人もの魔術師が保有する魔力量を必要とするのだ。

これらの会話自体が最早規格外と言えた。



「だがこの水面鏡は移動だけが主な使用方法では無い。通信手段として常時使用可能ではあるのだよ」

とプリームスがドヤ顔で告げる。


一日に2分しか使えない魔道具となると、燃費が悪すぎて正直欠陥品である。

それを見越して”もっといい使用方法があるよ”と言うドヤ顔なのであろう。

ハッキリ言って子供っぽい今のプリームスに、一同は微笑ましく感じてしまうのであった。

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