第185話・首脳会談

一番重要な事をおざなりにしていた一同。

それは魔導院とリヒトゲーニウスの首脳による挨拶である。

どうしてかと言うと、イディオトロピアの妹や法王とその娘の再開に機を逸してしまったのだ。



そして業を煮やしたエスティーギア王妃が、

「あのぅ・・・そろそろご挨拶と自己紹介をさせて頂きたいのですが・・・」

とプリームスへおずおず告げた。


苦笑しながらネオスがエスティーギア王妃へ歩み寄る。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません・・・エスティーギア女王陛下であらせますね? 魔導院法王ネオス・エーラです」



慌ててエスティーギアもペコペコと頭を下げて挨拶を返した。

「こちらこそ申し訳ありません、リヒトゲーニウス王国女王エスティーギア・リヒトゲーニウスです」

まるで庶民の人間のように腰が低いエスティーギアを見て、プリームスは笑ってしまう。


どうもエスティーギアは庶民臭さがあって面白いのだ。

恐らくだが常日頃、学園の生徒や傭兵ギルドの傭兵と接する機会が多い為なのだろう。

またそもそもが王族では無く、古代迷宮に拠点を構える魔女であったのだから。



ネオスはプリームスへ向き直ると、

「プリームス様、早々にエスティーギア女王陛下と魔術協定の擦り合わせを行いたいと思うのですが宜しいですか?」

そう丁寧に尋ねる。


頷くプリームスはソファーで微動だにしないメルセナリオを見やった。

「うむ、すまないな・・・色々任せてしまって。あとメルセナリオ殿も一緒に頼む。彼には魔術師ギルドの顧問になってもらう予定だ。運営運用にあたっての助言を貰ってくれ」



正直な話しプリームスは何処の馬の骨か分からない人間なのだ。

なのに一国の王であるネオスは、目上の者に伺いを立てる様にプリームスへ話し掛ける。

そんな状況にバリエンテ達は驚くばかりであった。



「プリームスさんは一体何者なんだ?!」

とついついバリエンテが口走ってしまう。

因みにメルセナリオもプリームスの出自が気になって仕方なかった。


だが藪蛇と言う言葉がある通り、余計な事に首を突っ込んだり知ろうとすれば、悪い結果に繋がると言う物である。

故に本人が語ってくれるまで大人しくしておくべきだとメルセナリオは考えていた。



一応プリームスの事を色々と知っている”身内”等は、どうしたものかと顔を見合わせる。

するとプリームスが何気なく口にした。

「以前は王で在った事も・・・・まぁ今更どうでも良い事ではあるがね・・・」



その言葉に事情を知らない面々は騒然となる。

何よりプリームスは見た目が15歳程の超絶美少女で、王と言われても全く説得力が無いのだ。

しかしながらその洞察力、見識、魔術技能、武力、どれをとっても規格外で、統治者であったとしても違和感が無く何とも矛盾した存在と言えた。



「もう何を言われても驚かないつもりでいたが・・・今のは流石に驚いた・・・」

と呟くメルセナリオ。



バリエンテに至っては深々と頭を下げて、

「知らなかったとは言え、今ままで失礼な振舞いをして申し訳ありませんでした!」

などと言う始末。



そしてイディオトロピアとノイーギアは、

「もうさん付けじゃなくて様を付けないといけないわね・・・・」

「ですね・・・・」

と少し寂しそうに言った。



ネオスも驚いた顔をしたが、直ぐにニヤリと笑顔を浮かべる。

プリームスが只者では無い事は明らかであり、ネオスからすればプリームスが王で在っても何ら不思議では無いと思っていたからだ。


だが彼らはプリームスが”魔王”で在った事を微塵も思い至らないであろう。

それを語るべきか否かは、やはり”身内”という固い信用の元で無ければ、プリームスも躊躇われるのであった。



「まぁそう畏まるな。今まで通り接してくれて構わんゆえ」

と苦笑いしながら一同に告げるプリームス。

すると周囲は少しホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。



そうしてネオスとエスティーギア、更にメルセナリオは魔術協定にあたっての会議を始める。

魔導院とリヒトゲーニウスがどう言った形で協力し合うのか、そして互いの求める物と差し出せる物を提示し合うのである。



またプリームスはこれに先立って大まかな方向性を幾つかネオスへ伝えていた。

1つ目は、この魔術協定は魔術師ギルドが基礎と主軸となり結ばれる。

2つ目は、魔術師ギルドは両国の資金によって運営される。

3つ目は、魔術師ギルドの中核人事は両国から同数の席を持って行われる。


そしてすべての判断と実行権、要するに最高意思決定権は建前としてプリームスが有する事となる。

しかし実質的な権限はギルドマスターの補佐が行うものとする。

これはプリームスが只々サボりたいだけであったのは言うまでも無い。



ここで誰がギルドマスターの補佐をするかになるのだが、両国の意思も取り入れたい為2人にする事にした。

魔導院側からはメンティーラを、そしてリヒトゲーニウスからはアグノスを据える。

これでプリームスは楽が出来る上に両国を尊重できる訳であった。



しかしながら、これらを法王伝えで聞かされるエスティーギアは良い気分では無い。

知らぬ間に事が進んで協定の方針も決められていたのだから。

”後は細かな調整を2人でやってくれ”、と言わんばかりのプリームスに腹が立っても仕方が無いと言う物である。



「プリームス様、これは後々それなりのご褒美を頂きませんと割に合いません!」

などと突如言い出すエスティーギア。

これにはネオスも苦笑するしか無かった。



中々の威圧感を放つエスティーギアに流石のプリームスも気圧されて、

「う、うむ・・・私が出来る事なら何でも言ってくれ。ただしあれだぞ、ややこしい事とか面倒な事は止めてね?」

と何故か最後は疑問形で返事をしてしまう。



言質を得たとばかりに大喜びするエスティーギア。

そしてそんな状況を見て頭を抱えるスキエンティアと溜息をつくアグノス。

フィエルテに至っては少し楽しそうに、

「何だか大所帯になって賑やかになりましたね!」

などと呑気なことを言ってしまう。


独占欲が無いと言うのは、傍から見れば能天気に見えるものである。

そんなフィエルテを見やってアグノスは問いかけた。

「お母様にプリームス様を独占されるのに腹が立ちませんか?」



「え・・・あ、う~ん・・・。プリームス様は”私達”のプリームス様ですから。それに私は身を捧げた従者ですので、そう思うのは恐れ多い事で・・・・」

そうフィエルテは殊勝に答えた。



再びアグノスは溜息をつく。

『はぁ・・・これも一種の愛の形なのかもね・・・』



そうこう身内でバタバタしていると、メンティーラがおずおずと尋ねて来た。

「あのぅ・・・両国の距離は非常に離れています。連絡手段や人事に関しても色々と時間と手間がかかるかと・・・何かお考えが有るのですか?」



これはプリームスにだけで無く、この場に居る全員に問うている様であった。



魔導院とリヒトゲーニウス王国の距離は、道程にして2週間と言われている。

この距離は余りにも遠すぎ、連絡に伝書鳥を使うにしても事故が懸念された。

更に人材の行き来にしても、着いた頃には事情が変化していて無用であったなども起こりうる。



一同が頭を抱える中、プリームスだけが呑気に首を傾げる。

「あ、言って無かったか?」



「え? 何を?!」

一同は声を揃えて訊き返してしまうのであった。

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