第179話・提案と新たな組織

発動すれば対象をほぼ確実に死へ誘う雷撃弾ライトニングボルト

ネオスが放ったそれを、プリームスはいとも簡単に防いでしまった。



「一体どうやって・・・・。それに魔封じの腕輪もしてあった筈です。何故魔法を使えるのですか?!」

自身の知る常識を上回ったプリームスに、ネオスは呆然と問いかけた。



「雷は空気がある状態より真空の方が伝播が早いのだ。故に空間に真空の断層を作り放電させ防いだだけの事だよ」

とプリームスはアッサリ言いのける。


それからドレスの胸元に押し込んでいた腕輪を取り出した。

「これは魔封じの腕輪と言うのか・・・身に着けた者の魔法集中を妨害する効果がある様だが、私からすれば只の玩具だな」



奇跡の様なこの状況にラティオーは驚愕する。

プリームスが言った通り、プリームス自身もそして法王をも傷付けずこの場を制してしまったからだ。


更に魔封じの腕輪は見る事も触れる事も出来ない様、魔法を施した筈である。

それを何事も無かったように手に持っているとはどういう事か?!

ラティオーはプリームスの実力を完全に見誤っていた事に愕然した。



一方プリームスは、そのままネオスの胸に人差し指を当てると軽く押す。

するとネオスは、よろける様に玉座へ腰を下ろしてしまうのであった。



「さて、これで私の話を真面目に聞く気になったかな?」

プリームスは何事も無かったように笑顔でネオスに告げる。


そんなプリームスへ今度は唖然としてしまうネオス。

先程まで命を奪おうとしていた相手に、特に反撃もする事無く話を聞けと言うのだから。


兎に角、力ではこの絶世の美少女には勝てない事は明らかである。

ならば黙って従うしかない。

「分かりました・・・・武力による制圧や抵抗は諦めましょう・・・・話しもちゃんと伺います」



漸く落ち着いて話が出来る状態になり、プリームスは小さく溜息をついた。

「では再び言うが、学園への干渉を止めて欲しい。それと学園へ潜入させた傭兵等も解放してやってくれ」



ネオスは少し困った表情を浮かべる。

魔導院にとってリヒトゲーニウス王国は、南方諸国最大の軍事国家なのだ。

そして魔術においても潜在的な危険を感じており、仮想敵国として想定していた。


つまり魔術師学園に諜報的干渉を行うのは、魔導院の国策で「止めて欲しい」と言われて止めれる物でも無いのであった。



ネオスが答えあぐねているのを見てプリームスは、

「魔導院としての立場も分かる。ならば互いに妥協できる所を考えてみないかね?」

と察したように告げる。



妥協と言う事は互いに譲り合う訳だが、この状況はどう見てもプリームスが優位だ。

魔術的な強さと武力でこの場を制してしまっているのだから、説得力に欠ける。



いまいち決め手に欠けると分かっていたプリームスは、ネオスの警戒を解く為にある提案を持ちかけた。

「魔術師学園、いやリヒトゲーニウス王国と魔術協定を結んではどうかね?」



突飛な事を言い出すプリームスに驚いたネオスだが、"協定"と言う言葉に興味が湧く。

「魔術協定・・・ですか・・・?」



「うむ・・・魔導院は魔術の権威として他国に出し抜かれたくないのだろう? ならば学園と魔法技術を共有すれば良い。今の段階では魔導院の方が引き出しが多く、得をするのは学園側かもしれんが・・・・」



プリームスの語る内容にネオスは"悪くは無い"と判断する。

魔導院が共有したくない技術があるなら隠せば良いだけの事。

逆に学園側には協定を盾に、技術の出し惜しみをさせないよう迫る事が出来る訳だ。


そしてプリームスの言うように、今の段階では魔術師学園の保有する技術には魅力が無いかもしれない。

だが国内のみならず他国からの入学した者も数多く、入り口が広いだけに発展途上と言えども今後の伸びしろは魔導院以上だと思われた。



ネオスはほくそ笑みながらプリームスの申し出に頷く。

「良い提案だと思います。詳しい話を聞かせてもらえますか?」



プリームスはバリエンテ達と出会い、そして魔術師学園の現状を目にした時から考えていた事を話し出した。

先ず提案内訳の1つ目は、魔術師学園が職員の人員不足問題を抱えている事だ。

これを解消する為に在野に居る熟練した魔術師を確保したい訳だが、それを魔導院に頼るのだ。

そうすれば魔導院は、内部から堂々と魔術師学園を監視出来ると言う訳である。



2つ目は両者の間に組織を設ける事だ。

この組織は魔術師を集め把握する趣旨が有り、あわよくば在野に眠っている秘匿された魔術を得るのが目的になる。

学園の目的と違う所は潜在的な人材では無く、在野に眠っている”熟練した”魔術師を集める点にあるのだ。


只、在野に隠遁している魔術師達はしがらみを抱えたくない為に隠れ潜んでいるのだろう。

そう言った事を考慮して傭兵ギルドのように、特に強制的な事は無く所属していれば有用な仕事を得られる様にする。

そしてその斡旋する内容は”魔術師専門”の仕事にすれば良いのだ。



またこの組織は学園と魔導院双方から管理者を選出し運営する。

これで両者の考えが反映された組織を作る事が出来る訳だ。



ネオスはプリームスの語る内容に再びほくそ笑んでしまう。

魔導院としては永世中立国を貫き、他国からの制約を一切受けたくは無い。

故に南方連合に所属する事無く、その連合の議長国のみと協定を結べるなら願ったり叶ったりだからだ。



「で、その新に作る我々と魔術師達の為の組織は、どう言った名称にする予定ですか?」

そのネオスの問いかけにプリームスは即答した。



「魔術師ギルドでどうかね?」


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