第180話・魔術師ギルド
魔術師学園と魔導院の協定によって運営される新たな組織。
その組織の名称をネオスに問われてプリームスは直ぐに答えた。
「魔術師ギルドはどうかね?」
ネオスは「なるほど・・・」と感心する。
今までネオスの知る限り魔術師の為のギルドは存在しない。
理由は魔術師達が冒険者や傭兵として生業を立てるのが一般的で、傭兵ギルドが有れば取り合えずは何とかなっていた現状だからだ。
また気難しい魔術師達を纏める物好きも居なかったからだとも言えるだろう。
そしてこの現状は相当数の魔術師を在野に野放しにしている事になる。
それをプリームスは分かり易い”魔術師ギルド”と名打って、魔術師を呼び集めようと言う訳だ。
「素晴らしい・・・ではその魔術師ギルドの長は誰を据えるのか考えられているのですか?」
先程まで命のやり取りをしていたのを忘れたように、ネオスはプリームスへ尋ねた。
するとプリームスは少し悩むような様子で答える。
「う~ん・・・運営管理の中枢にはバリエンテ達を据えたいと思っていた。だがギルドマスターとなると荷が重いかもしれん」
全てを見通し何もかもを凌ぐようなプリームスでも、判断が決まらない事が有るのかと驚くネオス。
そしてその悩む仕草が可愛らしくて抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
慌てて自身の気持ちを払拭し、ネオスは冷静に今思い至った事をプリームスへ告げた。
「貴女が魔術師ギルドの長をすれば良いではありませんか? ねぇボレアースの聖女様・・・いえプリームス様」
ネオスの感情が切り替わった事にプリームスは気付く。
敵対から屈服し話し合いへ、そこから好感へと今変化したのだ。
余りの変わりようの速さに、流石のプリームスも引いてしまった。
『・・・・様・・・・?!』
またギルドマスターにと言われても困ってしまう。
プリームスとしては矢面に立ちたい訳では無く、出来るならひっそりと隠遁生活をしたいくらいなのだ。
今回の事も気まぐれが過ぎた只のお節介なだけである。
「うむむ・・・それはちょっと・・・。私は自由奔放に、出来れば柵を持つことなく暮らしたいのだ」
そんなプリームスの言い様にネオスは首を傾げる。
ここまで来て、更にここまでやっておいて矢面に立ちたくないとは・・・正直無責任な話だ。
しかしこの絶世の美少女に無理強いする事は出来ない。
超絶超越者と言って良い程の強さを持っている相手である、無理強いすれば逆にされ兼ねないだろう。
なら妥協案を提示するしかない。
「南方諸国でボレアースの聖女の名は轟いていますから、プリームス様が絶対にギルドマスターになられる方が良いでしょう。煩わしいのでしたら実質の業務は他の者に任せて、プリームス様は名前だけお貸頂ければ宜しいかと・・・」
プリームスは「う~む・・・」と悩むと、
「そんなに私の二つ名が独り歩きしているのかね?」
そう不思議そうに告げた。
余り嬉しそうでは無いプリームス。
しかし事実を伝えねば話は進まないので、出来るだけ当たり障りなくネオスは言う事にした。
「はい、"死熱病"と呼ばれている混沌の森特有の病を治したのです。各国はきっと血眼になってプリームス様の所在を追っている筈です」
死熱病が治せるなら、英知や秘宝の宝庫と言われる混沌の森への本格的な侵攻が行えるのだ。
そう考えればネオスでなくとも、他国の首脳等はプリームスが喉から手が出る程に欲しいに違いない。
そしてネオスとしてはそれらを見越して、プリームスを新設する魔術師ギルドのマスターに据えて唾を付けておきたい訳であった。
『しかしこの魔導院よりリヒトゲーニウス王国の方が親しい筈・・・。となれば、やはりリヒトゲーニウス王国と確固たる協定を結び、ボレアースの聖女の力を得られるようにしなければ!』
目まぐるしく思考する法王ネオス。
もはや学園への干渉など、プリームスの存在に比べれば取るに取らない些細な事である。
故にこの機会と出会いを最大限に利用し、プリームスの力に肖る事を優先にすべきなのだ。
その為にもプリームスの要求には出来うる限り応えなければならない。
渋るプリームスへネオスは更に一押しする。
「プリームス様が魔術師ギルドのマスターになって頂ければ、魔導院とリヒトゲーニウス王国の関係も上手く行く事は間違いありません。それから学園へ潜入工作させている傭兵等を退かせ、プリームス様が言われた"枷"も取り払いましょう」
状況で言えばネオスの言い様はお門違いである。
プリームスの強大な武力に因って話し合いの場に持ち込まれたのだから。
しかしそんな事はお構い無しに、自分が優先権を持つが如く自然に会話を進めて行く。
更に言えばネオスは論点が違う物を混ぜて語っている。
本来交渉事では有り得ない事である。
これにはプリームスも流石と思い苦笑いをするしかなかった。
交渉事や取引は自身に有利な空気を作った方が結果を出し易いのである。
それをネオスは巧みに行おうとしているのだ。
『まぁここは乗ってやるか・・・・』
そうプリームスは思い諦めたように頷く。
「建前だけのお飾りならギルドマスターを引き受けても構わんよ。只、こちらからもお願いしたい事がある」
思惑通りに進みネオスは笑顔で答える。
「何でしょうか? 出来うる限りの事は致しますよ」
「そちらが学園に潜入させたバリエンテ達"など"を、ギルド中枢の人事に充てたい。構わないかな?」
プリームスの申し出に、ネオスはほんの少し逡巡した後に答えた。
「・・・・・・。分かりました。問題ありませんので如何様にもお使い下さい」
プリームスは笑顔で軽く礼をする。
「ありがとう、ではネオス法王陛下のお言葉に甘えるとしよう」
するとネオスは、
「プリームス様、私の事はネオスと呼び捨てで構いません。と言うか、そう親しみを込めて呼んで頂いた方が嬉しいです」
とプリームスへせがむように告げた。
余りの展開に唖然とするラティオー、そして同じく黒装束の法王警護隊の面々。
フィエルテはと言うと、
『あぁ・・・また1人プリームス様の魅了の犠牲者が・・・・」
そう内心で呟き溜息をつくのであった。
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