第175話・理事長室への招集(2)
自身一人の命ならまだいい。
しかし愛する女性、そして大事な仲間の命おも奪われかねない状況にバリエンテは意を決する。
「王妃様が言われる通り、俺たちは諜報工作員と言っていいだろう・・・。立場を詳しくいば、魔導院の依頼を受けた傭兵工作員だ」
そうバリエンテが端的に告げると、プリームスが促す様に問いかけて来た。
「魔導院からどう言った”仕事”を請け負ったのだね?」
プリームスは尋問しないと断言したが、このまま一つ一つ聞き出されたのならば取り調べと一緒だ・・・と内心で苦笑してしまうバリエンテ。
取り調べと尋問は同義と言っても過言ではないのだから。
しかしプリームス自身はバリエンテ達を尊重しているようにも見える。
短い間とは言えプリームスと共に行動し、そしてそのお人好しな為人をバリエンテは見ている為の錯覚かもしれないが・・・。
それでも優しく話し掛けてくるプリームスを見ていると、ひょっとしたら自分達を助けてくれるのかもしれないと思ってしまう。
ここに来て自分一人の考えでは踏み切れなくなり、バリエンテは傍に居るノイーギアとイディオトロピアへ視線を向けた。
するとイディオトロピアは険しい表情を浮かべて見返すのみ。
ノイーギアはと言うと、不安そうな申し訳ないような複雑な表情をしていた。
どちらにしろ2人は”不安”なのだ。
全てをプリームスへ委ねる事に・・・。
そしてバリエンテの脳裏にある事が過った。
それはバリエンテ達を魔術師学園側に引き入れて、魔導院に対して逆に諜報的な事をさせようとしているのではないかと思ったのだ。
引き入れようとしているなら、こう言った丁寧な扱いも合点がいくと言うものである。
あれこれ考えてしまった為か逡巡では済まず、プリームスの問いかけを放置する状態になってしまった。
これには再びエスティーギアが静かな怒りを露にする。
「プリームス様がお尋ねになっているのです。早く答えねば我々には必要ない者と
つまり暗に”口を割らないなら粛清する”と言っているのであった。
この状況に慌ててしまうプリームス。
「おいおいおい・・・・そこまでだ! エスティーギアは黙っていなさい! 脅して話を聞き出そうなど無粋な事はするな」
今度はエスティーギアが慌てる。
「も、申し訳ありません・・・出過ぎた真似をしてしまいました・・・」
そう言うと二歩ほど後方へ下がってしまった。
戸惑うバリエンテ。
エスティーギアはこの学園の理事長であり、この国の王妃でもあるのだ。
要するにこの国で一番偉い人間の一人なのである。
そんな相手を出しゃばるなと一喝できる者が、国王以外に居よう筈が無い。
故に驚き戸惑ってしまったのだ。
プリームスは疲れたように小さく溜息をつくとバリエンテへ告げる。
「バリエンテ・・・何か余計な事を考えているようだな? 私はな、君達を”その様な国家間の諜報事”に付き合わせる気は無いのだよ」
「うっ!」とバリエンテは口ごもってしまった。
『見透かされている・・・・』
もはや誤魔化そうと頭を捻るのは無意味と確信する。
「魔導院からは魔術師学園へ入学し、その中枢に潜り込めと言われた。更に5年間の活動期間を想定して結果を出すようにも指示を受けたよ・・・・」
バリエンテの答えにプリームスは再び尋ねた。
「ふむ・・・では学園の中枢に潜り込む理由は、"干渉する為"と言う事だな? それと活動期間を過ぎればどうなるのだ?」
バリエンテは頷くと補足するように話し出す。
「その通りだ。魔導院は魔術的な優位を南方諸国で常に誇っていたいようだしな。その為には先を行く可能性のある学園を監視しなきゃならん。それが俺達の役割と言う訳さ」
そして後者の問いかけには少し躊躇う様子を見せた。
「それを話す前に俺達の状況を知って貰うべきだろうな・・・・」
つまり魔導院の依頼を受けるに至ったバリエンテ達の状況と言う事だ。
それを語る事をノイーギアとイディオトロピアから承諾を得て、バリエンテは徐に話し出した。
バリエンテはノイーギアの手助けをして今に至る。
そしてノイーギアは政治犯である両親の免罪と、取り潰された魔導院貴族としての権利を復活させる為に、魔導院から依頼を受けた。
一方イディオトロピアは、難病を抱える妹の治療を魔導院に頼るしか無かった。
そんな妹の永続的な治療と引き換えに、魔導院の依頼を受けたのであった。
バリエンテが語る内容はメルセナリオから聞いた事と同じで差異は見当たらない。
正直に話してくれた事にプリームスは胸を撫で下ろした。
『これで漸く腹を割って話せると言うものだな・・・』
「魔導院が定めた5年という活動期間だが、それを過ぎれば交換条件が白紙にされてしまうんだ」
とバリエンテは険しい表情で告げる。
つまりイディオトロピアの妹は治療を放棄され、ノイーギアの両親は牢獄で一生を終える事となってしまうのであった。
プリームスはバリエンテ達の潜入工作が、魔導院にとって成就しなくても問題ないと洞察している。
理由は"他の方法"で既に干渉しているからである。
またバリエンテ達が失敗すれば、担保にしている妹や両親を再利用して再びバリエンテ達へ使命を課せばいいのだ。
要するに達成が困難な任務や使命を課して、程良い成果をバリエンテ達から吸い尽くし使い潰そうとしているに違い無いのだ。
それに気付いてしまった以上、プリームスとしては放っておけなかった。
『言い訳をするなら幾らでも理由はつけられる。だが詰まるところ、これは私の自己満足なのだろうな・・・・』
プリームスは自分がお節介なのは自覚しているつもりである。
故に自嘲してしまうのであった。
そしてプリームスはバリエンテ達を見据えて告げる。
「そのしがらみを解いてやろうと言ったら、どうするかね?」
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