第164話・ヒュペリオーンの決闘

アロガンシア王子が率いる魔法戦術連盟と、バリエンテ達の団体ヒュペリオーンが決闘する当日が来た。

時刻は午後の2時、放課後である。


決闘の舞台である野外演習場は、既にアロガンシアが呼び寄せた生徒達でごった返しの状態になっていた。



決闘の方法は両団体から4名ずつ選出して、1対1の試合方式で決闘を行う。


バリエンテ側の面々は、バリエンテが中堅、イディオトロピアを先鋒、そしてノイーギアが大将を担当する。

ノイーギアが1番最後の大将なのは、食当たりで体調が万全ではないため、少しでも時間を先延ばしにしたいからだ。



更に4人必要な所、3名しか団員が居ない為に、全勝しなければ勝利にならない。


つまり1敗した時点で引き分け以下が確定し、2敗すれば負けが確定する。

何とも分が悪い勝負になってしまった。

しかも引き分けでは両者の言い分は通らなくなり、痛み分けとなる。


この事からバリンテ達は退学を回避するために、決闘にはなんとしても勝たなければならなかった。



一方、決闘相手の魔法戦術連盟は、アロガンシア王子を筆頭に実力者を4人揃えたようである。


対戦する順番は、団長であるアロガンシア王子が何故か先鋒。

そして上級学部在籍の団員2人が中堅と副将を担当する。

大将はと言うと、何と副団長のメンティーラらしい。


副団長と言うだけあって実力はある筈だが、団長を差し置いて大将へ据えるのは、恐らく人数合わせだと思われた。

そもそもバリエンテ達は3人しかおらず、4人目まで決闘が行われる事が無い。



バリエンテ達に不利な決闘ではあるが、観戦に集まった生徒等の反応は違っていた。

下級学部の生徒達は、その殆どがバリエンテ達へ応援の言葉を掛けたのだ。


下級学部の生徒には学部外活動の権利が今の所は無く、不満に思っている者も多い。

その為、皆、バリエンテ達が何かやってくれるのではないかと期待しているようだ。


何とも他人任せで情けない話である。



また中級学部より上の生徒達は、アロガンシア派の傾向が強い。

そう言った事から自分達の優位性を損なわない為に、アロガンシア王子を応援しているようであった。



決闘の舞台となる場所だが、野外演習場の中央に存在する。

簡易的ではあるが安全に試合が出来るよう、20m四方の範囲に芝生で覆った敷地が用意されているのだ。

そしてそのスペースを挟み込む様に、決闘する両者が対峙していた。



プリームスはと言うと、バリエンテ達の団体顧問として付き添う形で傍に立っている。

その出で立ちは昨日とは違い、艶やかではあるが簡素な意匠の服装だ。

黒を基調とした裾の長いドレスで、スカートには膨らみが無く腰の辺りまでスリットが入って妙に色っぽい。

また肩から腕に袖は無く、一見露出が高い様に見えるが動きやすそうではあった。


そんなプリームスに周囲の生徒達の目は釘付けになってしまう。

この学園には女子生徒も沢山いるが、プリームス程美しい者など一人も居ないのだ。

故に見惚れてしまうのは仕方ないと言えるだろう。



フィエルテやスキエンティアの姿は傍には見当たらない。

あの2人が生徒に混ざってこの場に居ると異様に見え、周囲が警戒すると思いプリームスが来させなかったのだ。



「3人とも体調はどうかね?」

プリームスがバリエンテ達3人へ抑揚の無い声で尋ねる。

今更心配しても仕方なく、あくまで確認の為だからだ。



するとバリエンテは全く気にした様子も無く、あっけらかんと答えた。

「おう、全快では無いが随分体調はマシになった。昨日は嘔吐やら下痢で大変だったけどな」



「私も何とか大丈夫よ」

イディオトロピアも少し元気が無さそうだが、元々玄人の傭兵だっただけに決闘自体はこなせそうであった。


しかしノイーギアは余り顔色が良くない。

これは下手をすれば対戦どころでは無いかもしれない。



「ノイーギアさん、無理そうなら棄権しても良いのだよ」



プリームスがそう言うと、ノイーギアは弱々しい声で詰め寄って来た。

「そ、そんな事は出来ません! 私が棄権しては、引き分け以下が確定してしまいます! そうなれば、折角ここまできたのに・・・」



そんなノイーギアを落ち着かせるように抱き寄せるプリームス。

そして背中を優しく撫でてやった。

「君がそう言うなら、私はもう止めないよ。自分の納得がいくようにするといい。だが無理はし過ぎない様にするのだよ」



ノイーギアはプリームスに抱きしめられ、何故か不思議と気持ちが落ち着く。

その柔らかで温かい感触と、ほのかに香る優しく甘い匂いに、まるで鎮静効果がある様だ。


「はい・・・」

少し興奮気味だったノイーギアも途端に大人しくなり、素直になってしまう。




次の刹那、野外演習場の上空に眩い光が溢れ出した。

その場にいた生徒達は驚き上空を見上げる。



すると30m程上空に1つの人影が浮いているのが目に取れた。

それは巨大な光球を掲げ空に浮かぶエスティーギア王妃であった。

そしてその光球を弾けるように消失させると、周囲に光の粒が拡散し野外演習場に降り注ぐ。


恐らく生徒達の注目を集め、静観させる為の演出であろう。



エスティーギアは良く通る澄んだ声で眼下へ言い放った。

「魔術師学園理事長、エスティーギア・リヒトゲーニウスである。魔法戦術連盟とヒュペリオーンの決闘を見届けに参った。両者とも学園が定めた公式の決闘規定に基づき、正々堂々と対戦を行え。またこの私が自ら不正の有無を確認し決闘を注視する。故に不正を確認次第、この私が力ずくで制止しその者を失格とする。以上だ・・・」



空中で浮遊したままエスティーギアは何も言わなくなる。

決闘を上空から監視するつもりなのだろう。


そんなエスティーギアが飛行魔法を使い続ける事にプリームスは感心する。

持続継続型の魔法は非常に魔力消費が激しいからだ。

詰まる所、エスティーギアの魔力量は相当な物と言える。

『流石、古代迷宮の魔女と恐れられるだけの事はあるな』

とプリームスはほくそ笑んだ。



そうすると野外演習場にいる生徒達面々が、畏怖したように口々に呟く。

「理事長・・・」


「古代迷宮の魔女・・・」


「凄い、飛行魔法だなんて格好いい!」


「王妃様をこんな間近で見たのは初めてだ」


「凄い綺麗!」



どうやら理事長のエスティーギアは生徒達に人気があるようだ。

その英雄的な存在感と容姿の美しさが、生徒達を虜にしているのかもしれない。



生徒達が理事長を見上げる中、その娘のアグノスが演習場の中央に躍り出た。

何処に隠れていたのやら・・・。


そして声を張り上げて告げる。

「魔法戦術連盟とヒュペリオーンの決闘を行います。両者先鋒、前へ!」



こうしてバイエンテ達の運命が決まる決闘が始まった。

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