第139話・弟は敵役(2)

バリエンテ達の実力を試すと啖呵を切ったアロガンシア。

つまり立ち合いを申し出て来たのだ。

しかも顧問であるプリームスまで含めてであり、更には最初の1人目として指名されてしまう。



だがあっさりとプリームスは拒否する。

それは魔術師として生業を立てている者なら、当たり前の事であった。

生死をかけた戦いならいざ知らず、腕試しのような事で"魔術の技"を見せるのは自殺行為に等しいからだ。


故に一般的な魔術師は孤独であり孤高なのだ。

魔術師を目指す者達が大勢で学ぶこの学園は、そう言う意味で言えば異端と言えた。



そしてアロガンシアを煽るだけ煽っておいて、プリームスは自分が引き下がるとバリエンテ達をその立ち合いに指名してしまう。



自信過剰に見えるアロガンシアではあるが、流石に3対1の勝負はしてこないだろう。

そう考えたプリームスの思惑通り、アロガンシアは面白い提案をしてきた。


「公式の方法で決闘を申し込む! 君達が勝てば、学部外活動を認めてやろう。だが僕達が勝てば、君達はこの学園から去ってもらう」


そして馬鹿にしたような笑みを浮かべて続けた。

「どのみち君達は近い内に退学なのだろう? なら僕が引導を渡してあげよう」



『”達”、、、?』

と訝しむプリームス。

『この期に及んで一人で戦えないとは、やはり子供か。と言うか、公式の決闘とは何だ??』



アロガンシアの言い様に嫌そうな顔をするバリエンテとノイーギア。

イディオトロピアはと言うと、少し怒った様子で反論した。

「随分と勝手な言い様ね。それでは私達の方が負けた時の損失が大き過ぎるわ。とても公平な決闘とは呼べないわよ!」



するとアロガンシアは「う~ん・・・」と考え込むと、

「分かった・・・では君達が勝てば、この学園内で限って君達の願いを叶えてやろう。勿論それは常識範囲でだ」

渋々そう条件を言い変えた。



『おお! でかしたイディオトロピア!』

と言いそうになるのを咄嗟に堪えるプリームス。

うっかり口に出して、この絶好の展開をおじゃんにするのは馬鹿である。


兎に角、この学園内の生徒で権威をかざしている輩の言質を取ったのだ。

これでプリームスが思い描く第一段階雌は上手く行ったと言えた。



頷くバリエンテとノイーギアを確認し、イディオトロピアはアロガンシアへ尋ねる。

「それで結構よ。で、日時はどうするの?」



自身満々の不敵顔でアロガンシアは答えた。

「自分達に引導が渡される日ぐらい、自分で決めたいだろう? 日時はそちらに任せる」



先程、イディオトロピアに腕を掴まれて動きを封じられたのに、どこからそんな自信が湧いてくるのか・・・。

プリームスは呆れてしまった。


そんなプリームスをイディオトロピアが目配せして来る。

プリームスの判断を仰いでいるのだ。

バリエンテ達の猶予はもう一週間を切っている、行動するなら早いに越した事は無い。



「明日の放課後でどうだ? 場所はこの野外演習場だ」

プリームスが端的に尋ねる。



「分かった。明日の放課後は皆を集めて、盛大に君達が負ける姿を見て貰うとしよう」

そう言いアロガンシアは踵を返して野外演習場を出て行ってしまった。



「・・・・あの馬鹿王子、何で演習場を出て行ったのだ?」

プリームスは首を傾げてノイーギアへ訊いた。



少し慌てた様子のノイーギアは、プリームスを諫める様に答える。

「ちょ、ちょっと、そんな言い方は止めて下さい! 周りの生徒が見てますよ。え~と、アロガンシア王子は恐らく決闘の申請をしに行ったんだと思います」



いまいち要領を得ないと言う顔をするプリームス。

「その決闘がよく分からんのだが・・・まさか学生同士が殺し合いをする訳でも無かろう?」



苦笑いするバリエンテ。

ノイーギアは周りが騒めき始めて、少し居た堪れない様子だ。

そんな中、平気そうな顔でイディオトロピアが言った。

「決闘は騎士や貴族が行う、揉め事解決方法の1つね。この王国では正式な決闘であれば、結果死人が出ても裁かれないわ。でも正しい決闘かどうかの審査が有るので、普通だったら即決闘が認められる事は無いの」



イディオトロピアの説明では、明日の決闘は無理のように思えた。

死人が出る可能性がある故に双方から話を聞き、審議の上で決闘の許可を出すのだろが、それでは時間がかかり過ぎる。



「明日の放課後に設定したが、大丈夫なのね?」



プリームスの問いにイディオトロピアは頷く。

「多分大丈夫だと思う。そもそも生徒同士の戦闘は模擬戦以外は禁じられているから、建前は模擬戦で略式の決闘になるわ。この場合は命のやり取りは禁止されるから、すぐ許可は下りるかな」



魔術師の卵として大切に管理されているのだ、諍いで命を落とすような事をさせる訳名が無い。

つまりイディオトロピアは、そう言いたいのであろう。



しかしこの世界に来て色々と以前と異なる事が多く有り、楽しいと思ってしまうプリームス。

先ずはこの世界の常識を出来るだけ把握しておかないと、予想外なところで足をすくわれ兼ねない。

そんな事を考えていた為か、プリームスはニヤケ顔になっていたようだ。



バリエンテが嫌そうな表情を浮かべてプリームスへぼやく。

「他人事と思って楽しそうだな・・・プリームスさんは一応俺達の顧問なんだぞ! 運命共同体なんだからな!」



ぼやきながらプリームスへ詰め寄って来るバリエンテ。

暑苦しくて堪った物では無い。

「分かっている、上手く行きそうで笑みが漏れただけだ。暑苦しいからあまり詰め寄って来るな」



そんな様子を見てイディオトロピアは、笑いを堪えつつ尋ねた。

「上手く煽れた感じだと思ったんだけど、あれで良かったのよね? まさか王子が出てくると思って無かったから・・・やり過ぎた?」



「いや、あれで構わない。上手く煽れたよ、こういう時は女の方が肝が据わっていて良いな」

そうプリームスはバリエンテを見てしたり顔で言った。



その後はバリエンテがへそを曲げる。

しかし結果的に何もしていなかったので、ノイーギアに諭され項垂れる始末。


更に理事長補佐のアグノスにバリエンテは呼び出されてしまう。

勿論、決闘に関しての説明をさせられるのであろう。

バリエンテ達を救う為とは言え、面倒事を全てバリエンテやアグノスに投げてしまっている事に、申し訳なく思うプリームスであった。


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