第140話・魔術技能(1)

バリエンテが理事長補佐のアグノスに呼び出され、取り残されてしまうプリームス達。


どうしようかとノイーギアとイディオトロピアが戸惑っていたので、

「2人の魔術技能を見ておきたい。実演してみせてくれるかね?」

とプリームスは尋ねた。



ノイーギアは苦笑する。

「あ、はい。昨日は魔法の発動さえ、させて貰えませんでしたからね・・・」



昨日は城壁の上でバリエンテ達3人の実力を確認したプリームス。

"実力"とは飽く迄、実戦を想定した動きの事で、魔術自体の技能を確認した訳ではなかった。

故に今は「魔術技能」と言ったのだ。



壁際に立つ木の的を指すノイーギア。

「あれに対して何か攻撃的な魔法を放てばいいですか?」



「出来れば威力が高い物と、最速で発動し放てる物の2つを見たい。出来るかね?」

プリームスの具体的な注文にノイーギアは頷く。



周囲の少し離れた位置から、他の生徒達の視線を感じた。

問題生徒とは言え、ノイーギアは傭兵あがりの玄人なのだ。

皆、その実際の実力に興味がある様であった。



ノイーギアが10m程離れた位置にある的に手をかざして集中し始める。

特に詠唱が無い所を見ると、無詠唱の集中型のようだ。


本来は自身の魔力を高め、詠唱を鍵にして魔法発動の切っ掛けとする。

これは安全装置も兼ねており、無意識に魔力が高まり魔法が発動してしまうのを避ける為だ。


しかし欠点もあり、詠唱を邪魔されれば集中が解けて魔法が不発に終わる。

また対象にバレ易い短所があるのであった。



一方、ノイーギアのように無詠唱は、対象に悟られ難い。

だが難易度が高く、脳内で描く魔法の具体性が重要になる。

故にちょっとした雑念や、外部からの刺激で乱され魔法を失敗してしまう可能性があるのだ。



1分程の集中の後、ノイーギアは言い放つ。

「コールライトニング!」



凄まじい轟音が周囲に響き渡り、壁際に立つ的に落雷が落ちた。

ほんの一瞬の出来事であった。

的は黒焦げになり、その地面には黒い落雷の跡が残っている。



周囲の生徒が轟音に耳を塞ぎ、驚きの表情を浮かべた。

ノイーギアのそれは、明らかに魔術を学ぶ生徒の"技"では無かったからだ。



「うむ、中々だな。流石、実戦を十二分に経験してきた傭兵だけの事はある」

とプリームスは素直にノイーギアを褒める。



少し照れ臭そうな笑顔を浮かべるノイーギア。

「ありがとうございます。次は最速で放てる魔法をお見せしますね」


そう言ってノイーギアは、黒焦げになった的へ片手をかざす。

その刹那、突然その的が砕け散った。



プリームスは感心して声を漏らす。

「おおっ! 空気を魔力で圧縮して無詠唱で放ったのだな」



プリームスの言い様に驚くノイーギア。

「その通りです、よく分かりましたね」


そして補足するように、

「これは気弾(アエラススフェラ)と言う魔法です。威力と射程はあまり有りませんが、発動速度は多分随一かと思います」

と笑顔でプリームスに告げた。



傍で見ていたイディオトロピアも誇らしそうに、

「ノイーギアはね、色んな魔法が得意なのよ。その分、白兵戦は苦手なのだけどね」

そう自分の事のよう言う。



『ノイーギアが後方から支援し、バリエンテが切り込む。そしてイディオトロピアが、その間を補うように動く。バリエンテ達3人は、良く均等のとれた仲間と言えるか・・・』

プリームスはそう3人の事を分析し感心する。



そしてこの学園の生徒が、バリエンテ達と同等の水準とは程遠いだろうと思い溜息がでた。

傭兵や冒険者として在野で生活し活躍するには、命を危険に晒す必要が出てくる。

そう言った意味でも学園の卵たちは、余りにも微温湯ぬるまゆなのだ。



それにアロガンシア王子の事も心配だ。

今回はバリエンテ達の境遇を改善する為に利用するが、アロガンシア王子はアグノスの弟であり、この国の時期国王なのだから。


『バリエンテ達の件が済めば、王子の事もどうにかしてやるか・・・』


ふと自分がお節介過ぎるのでは、と思ってしまった。

正直な話、バリエンテ達の事を捨て置いても、プリームスには何の影響も無いのだ。

その上、アロガンシア王子の面倒まで見ようと言うのだから物好きもいいところである。



今のところ、プリームス自身が苦心する事も苦悩する事も無い。

逆に楽しい位である。

『だがスキエンティア辺りが文句を言いそうで少し心配だな』



プリームスが考えに耽っていたせいか、イディオトロピアが心配そうに顔を覗き込んできた。

「プリームスさん、どうかした?」



「あ、いや、やれる事は多いが、それを全て身内が許してくれるとは限らんなと思ってな」

そう苦笑いしてプリームスが答えると、イディオトロピアは思い出すような仕草をして言った。


「あ~、あの護衛? 付き人の事かな?」



スキエンティアだけでなく、その内アグノスも心配してぼやき出すかもしれない。

そう思うと嬉しいやら、煩わしいやらでプリームスは再び溜息が出てしまった。

「まぁ、そんな所だ。それより、次はイディオトロピアさんの魔術技能を見せてもらおうかな」



プリームスの言葉に、イディオトロピアは少し自信無さげな表情をする。

「私はノイーギアみたいに派手な魔法は使えないのよ。どちらかと言うと白兵戦での火力上げみたいな感じで、補助的で地味かな・・・」



『ほほう、これは面白いな・・・私やスキエンティアのような事が出来ると言う訳か』

「ならば実戦的な方式で見せて貰おうか」

そう告げてプリームスはイディオトロピアに掌を上に向けて差し出し、クイックイッっと指を動かした。


「かかってきなさい」


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