第137話・学部外活動開始(2)

突然プリームスの背後に現れた少年が、尊大な様子で声をかけて来た。

「君達、下級学部の生徒だな? 一体ここで何をしている?」



少し恐縮してノイーギアが少年に恭しく頭を下げた。

「これは、アロガンシア王子・・・おはようございます」



『王子と言う事は、こいつがアグノスの言っていた弟か・・・姉と違って随分と雰囲気が違うな』

プリームスがアロガンシアに挨拶する事無く考えに耽っていると、気に障ったのかやんわりと詰め寄って来た。


「美しいお嬢さん、見たところ部外者のようだけど・・・君は何者かな?」



微妙に気障ぽいアロガンシアに、イラっと来たプリームス。

なので少し意地悪がしたくなった。

プリームスはツーンっとした態度で言い放つ。

「相手に名前を聞く前に、先ずは自分が名乗るべきでは?」



「・・・」

ムッとした表情でアロガンシアは黙り込んだ。


そして溜息をついた後、

「僕はこの国の王子でアロガンシアだ。また特級学部の生徒で、魔法戦術連盟の団長も務めている。これでいいかい?」

と少し不満そうに告げる。



「私はプリームスだ。彼らの学部外活動の顧問をしている」

プリームスはバリエンテ達を見やって答えた。



すると驚いた表情をアロガンシアは浮かべた後、

「はぁ? 顧問だと? 冗談はやめてくれ! 僕とそう歳が変わらんように見えるのに、あり得ない」

とプリームスを馬鹿にしたように言った。



しかしプリームスは特に気にした風も無く、辛辣な言葉を言い放つ。

「自分が知る常識のみで判断しない方がいい。器が知れるぞ」



「なっ!?」

絶句するアロガンシア。


アロガンシアは王族なだけに、今まで自尊心を傷付けられるような事を言われなかったのだろう。

まさに箱入り息子である故に、簡単に取り乱す。


「無礼な! 僕を誰だと思っている!」

そう言ってアロガンシアは、顔を真っ赤にしてプリームスに更に詰め寄る。



少し離れた位置で見ていたバリエンテは、王族に歯向かうプリームスが、不敬罪で罰せられないか気が気でない。

『勘弁してくれぇ〜俺達の為に無茶をしないでくれよ』



一方、イディオトロピアはバリエンテと違って、慌てる事なく状況を静観している。



ノイーギアはと言うと、やんわりした物腰で、

「まぁまぁアロガンシア殿下、そんな怒り顔では折角の美しいお顔が台無しですよ」

と大人の対応だ。



『確かに王妃や姉に似て美形ではあるな。だが中身が残念だ・・・身分や地位、それに権威こそが最も重要と考る馬鹿な人種だな』

プリームスはそう内心で呟き呆れてしまう。



そうしてアロガンシアは、ノイーギアの諫め方が良かったのか少し機嫌を直す。

「プリームスとやらの無礼は許してやろう。僕の寛容さに感謝するのだな」



自尊心が強い馬鹿は、少し褒めてやるだけで簡単に操れる。

ノイーギアはそれを良く知っているようだ。

やはり只の傭兵稼業では無いようにプリームスは思えた。


身分が高い者の傍にいたのか、あるいは自分がそのような立場だったのか・・・。

気にはなるが、取り敢えず今はこの馬鹿王子の対応が先である。



「だが君達がこの演習場を使うのは許可出来ない。下級学部の生徒は、学部外活動に参加出来ない筈だが? それなのに何故ここにいる?」

と対応する前にアロガンシアが突っ掛かって来た。



「何故と言われてもな。それよりも、お前の許可が要る必要も分からん。只の一生徒が何を言っているのやら・・・」

バリエンテ達に煽らせるつもりが、プリームスが煽る事態になる。

正直、世間知らずの王子を、精神的に伸してやろうと言う気持ちが芽生えたのは否めない。



再び怒りで顔を真っ赤にするアロガンシア。

「な、何だと! 無礼にも程がある! 下手に出ていれば調子に乗りおって!」



更にプリームスは追い討ちをかける。

「この学園は王子と言うだけで特権を得るのか? 違うだろう? 学生であれば、その枠組みで皆公平な筈だ」


そしてプリームスから詰め寄り、

「それとも王族に生まれた事で、全てに対して自分が特別で特権が有ると勘違いでもしたか? なら世間知らずの童貞小僧だな」

とアロガンシアに言い放ったのだ。



これには傍に居た一同が青ざめてしまう。

学園外なら王族に対する完全な不敬罪である。



離れた位置に居る他の生徒達も、何事かと騒めきはじめた。

プリームスとアロガンシアは注目の的である。

そして巻き込まれた形のバリエンテ達は、居た堪れない気持ちになるのだ。



怒りが頂点に達したアロガンシアは、真っ赤だった顔が青く変化してしまった。

プリームスはそれを見て笑いそうになる。

『人は怒り過ぎると顔色が青くなるのだな・・・クククッ』



笑いを堪えたつもりだが、顔に出ていたらしくアロガンシアを更に煽り立てる結果になった。

ここまでコケにされた男子がとる行動は、もう1つしか残っていない。


アロガンシアは、目の前で不敵に立つプリームスへ平手を振り上げたのだ。


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