第136話・学部外活動開始(1)
プリームスとバリエンテ達は早々に演習場へ向かった。
勿論、学部外活動をする為である。
野外演習場は魔法の発現などを起こす練習の用途に使用される。
また剣などの武術を絡めた魔法の実践演習にも使われるのだ。
その為、敷地の広さは学園内で最も広く設けられていた。
そして野外演習場の周囲は5m程の頑丈な壁で囲われている。
理由は演習場敷地外へ攻撃系の魔法が飛び出さない様に配慮したからであった。
野外演習場の直ぐ傍には道を隔てて、教室棟や屋内演習棟が有るので当然の措置である。
バリエンテの説明によると、1つの団体に割り当てられる広さは20m四方だそうだ。
そう考えると団員が多い団体はどうなるのだろうか?
人数が多ければ多い程、訓練や演習が出来ない人間が出てくる筈である。
大手の団体は活動に支障が出そうで、大手に所属する意味が無いように思えた。
だがその疑問も直ぐに解消される事となる。
プリームス達が野外演習場に到着し、囲まれた壁に空いた入り口を抜ける。
すると広大な敷地に思った以上に生徒がまばらであった。
その為、プリームスが疑問に思ったような事態にはなっておらず、逆に敷地が余っている程だ。
「意外と少ないのだな・・・野外演習場を使っている生徒は」
そうプリームスが呟く。
するとバリエンテが告げた。
「そりゃ、今は授業中だからな。俺達の様に修学課程が全て済んだ生徒しか、この時間は利用できんわな」
全くその通りだ。
つまりこの時間に演習場を使える生徒は、魔術の座学的に言えば優秀なのだろう。
しかし実践力となると、また別の話である。
少し観察させて貰い、お手並み拝見といきたい所だ。
そして大手の団体は人数が多いだけに、その優秀な生徒の比率が多いとも言える。
故にこの時間に野外演習場を利用する事で、人数の多さを帳消しにしているのだろう。
そう思いプリームスが野外演習場を見渡していると、青い腕章を着けた生徒集団が居る事に気付く。
「何だあの青い奴らは?」
プリームスがぶっきら棒に言うと、バリエンテが苦笑した。
「あれはね、団体最大手の魔法戦術連盟よ。ああやって所属する団体の腕章を着けるの」
とイディオトロピアが教えてくれる。
「ほほう、では君たちは何故お揃いの腕章をつけない? 作ってないのか?」
プリームスがイディオトロピアに尋ねると、バリエンテと再び苦笑した。
「まぁ団体結成が急だったから作ってないのもあるけど・・・何て言うか、あんな感じにお揃いにするって恰好悪くない? 私達みたいな弱小団体ならまだ良いけど、大手の団体だと権威を主張してるみたいで嫌だわ」
そうイディオトロピアは歯に衣を着せずに言い放つ。
『この娘は私が躊躇う事をハッキリと言う。私的には面白いから良いが、相手によっては喧嘩になりそうで心配ではあるな・・・。まぁ目的がその諍いだからな、問題無いか』
とプリームスはほくそ笑んだ。
そうしてプリームスは、生徒達がどうやって演習しているのか観察する事にする。
一方、バリエンテ達は徐に空いている場所へ割り込み、準備運動を始めた。
野外演習場の敷地は、地面に20m四方の線が区切られるように引かれている為、何処が空いているかは一目瞭然である。
しかし今の時間は混んでいないので、その境目もあやふやで皆適度に離れて演習を行っていた。
故にバリエンテの行動は、空気を読まない新参者と言った感じになってしまっている。
生徒達の様子を見ていると、攻撃的な魔法の演習は壁に向かって行っているようだ。
壁付近にカカシや的を置いて、それに目掛けて生徒は魔法を放っている。
そして剣などを用いた戦闘訓練も行っていて、それは魔法演習をしている後ろの空間を利用していた。
『魔法演習と実戦演習を同じ敷地内でさせるとはな。これでは狭くてままならんだろうに』
プリームスは生徒達が少し不便に感じた。
放課後となると、更に生徒が増える筈なのでもっと狭く感じる筈だ。
また違和感も感じた。
よく観察すると、講師などの学部外活動に対する顧問が見当たらないのである。
バリエンテとイディオトロピアは練習用の木剣で模擬戦を始めたので、手が空いているノイーギアに尋ねてみた。
「顧問らしき人間が居ないようだな。生徒達だけで大丈夫なのか?」
「そうですね~、先生方は今授業をなさってるので、放課後でしか顧問の役目は果たせませんね。ですが団体の団長や、元生徒の職員の方達が監視されてますから、大丈夫かと思います」
そうノイーギアが笑顔で答える。
『ノイーギアは物腰が柔らかで接しやすい。それに元冒険者と言う割には上品だな・・・』
少し気になって勘繰ろうとしたが、プリームスはやめておく事にした。
誰だって語りたくない過去や秘密があるものだ。
その代わりプリームスの悪い癖が出てしまう。
可愛い娘を見ると少し悪戯したくなるのだ。
「ノイーギアさんは、上品で可愛いな」
そう言ってプリームスはノイーギアのお尻を撫でた。
「きゃっ!?」
小さく声をあげるノイーギア。
その様子を視界に入れていたバリエンテは、一瞬見惚れてしまい動きが止まってしまう。
美女同士のキャッキャウフフに目が奪われたのだ。
その隙をイディオトロピアが見逃す訳も無く、バリエンテの頭に木剣が直撃する。
「ぐおっ!?」
バリエンテは悲鳴をあげると、頭を押さえて屈み込んだ。
「何よそ見してるのよ! 手加減したんだから、そんなに痛くないでしょ」
と呆れるイディオトロピア。
イディオトロピアを恨めしそうに見上げるバリエンテは、文句を言い出した。
「馬鹿を言え! こんなもんで殴られたら、手加減云々関係なく痛いわ! 何で寸止めしない?!」
「ふ〜んっだ・・・仲が良いからって見とれ過ぎよ、公私は分けなさいよね!」
そうイディオトロピアが言い放つと、バリエンテは何も言えなくなる。
『おやおや、出来上がってるのは一応公認な訳か』
プリームスがほくそ笑み、ノイーギアを見やると恥ずかしそうに困った表情を浮かべていた。
「君達、下級学部の生徒だな?」
プリームスの背後から突然声がかかった。
"君達"とはバリエンテ達3人なのか、プリームスを含めての事なのか・・・?
どちらにしろ釣り針には掛かったようだ。
プリームスが振り返ると、そこには深い藍色をした髪の少年が立っていた。
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