第134話・「ヒュペリオーン」活動初日(2)

身支度を整えて本館内の職員用食堂に向かうプリームスとスキエンティア。

時刻は7時である。



一階のだだっ広いフロアーに着くと、フィエルテとアグノスが待ち構えていた。

「おはようございますプリームス様、スキエンティア様。朝食をご一緒しようと思いまして、丁度良い時間でしたね」

とアグノスが笑顔で告げた。



フィエルテも軽く頭を下げる。

「おはようございます」

少し疲れたような表情だが、どうしたのだろうか?



昨日の夕食と同じように4人で食堂へと向かう。

するとアグノスがプリームスの出で立ちを見て、

「今日もまた艶やかでありますね」

そう言って何かに気付く。

「うんっ?」



そしてプリームスのスケスケ闇色ケープをめくり上げる。

「あっ! 薄らと痕が付いてますよ・・・。 ・・・・・・スキエンティア様と随分楽しまれたようで、何よりです」

少し不機嫌そうにアグノスは言った。



オープンバックドレスなので、腰の辺りから背中が丸見えののプリームス。

その露出した腰に近い脇腹に、手で強く締め付けられたような痕が薄らと付いていたのだった。



『スキエンティアに結構強く抱きしめられたからな』

プリームスは昨夜の睦事を思い出しながら溜息をつく。


だがアグノスもプリームスの体に薄くアザを付けている前科があるのだ。

ここで反論したいところだが、

『火に油を注ぐ事も無いか・・・』

と思いプリームスは愚痴を甘んじて受けておく事にした。


そんな事を考えていると、

「次はフィエルテさんの相手をしてあげて下さいね」

アグノスが自分では無くフィエルテを指定して言ったのだ。



これには少し驚かされるプリームス。

アグノスを独占欲が強い嫉妬深い性格かと思っていたが、それ以上に面倒見が良いことに感心したからだ。

詰まり身内に対しての協調性と気遣いが、しっかりあるのだ。


そしてよくよく考えれば、この魔術師学園で理事長補佐をしているくらい面倒見がいい。

その上、理事長代行であるプリームスの仕事まで、今はアグノスがしてくれている。

人一倍に気遣いと目利きを利かせないといけない立場なのだ。


『下手に反論しなくて良かった・・・』

プリームスは自嘲してしまう。



プリームスがフィエルテを見やると、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。



そんなフィエルテが可愛らしく見えて、プリームスに悪戯心が芽生える。

プリームスはフィエルテの傍にソッと近付き、その耳元へ囁く。

「今夜はお前と過ごそう。可愛がってやるぞ」



プリームスのそんな言葉にフィエルテは増々顔を赤らめて照れてしまった。

「プリームス様、このような所ではお控えください。周りの者に聞かれてしまいます」



そんなやり取りを二人でしていると、

「そうですよ、そう言う事は2人きりの時にして下さいませ。それよりも今日から問題児の学部外活動でしょう? 早く朝食を済ませて向かわれた方が宜しいのでは?」

そうアグノスに窘められてる。


これでは何方が大人で、何方が主か分からない。

しっかり者に対して形無しのプリームスであった。




食堂に着くと、昨日と同じで職員は誰も居ない。

「また誰も居ないな、時間が早すぎたのか?」

プリームスが不思議そうに呟くと、アグノスがその理由を教えてくれた。


「職員はもっと早くに来ますよ。たぶん6時半くらいでしょうか。講師は授業前の準備で特に忙しいですからね、早起きで朝食も早いんですよ」



何とも学園の講師は大変である。

朝は早く終業も遅いとは・・・それに講師不足も問題になっている。

改善してやらねば人的に破綻しかねないのではないか?

しかし行動を起こさねば何も解決しない。


プリームスは魔術師学園の今後の憂いに思を馳せ、せわしなく焼き立てのパンと温かいスープを掻き込む。

そんな様子を見てスキエンティアが顔をしかめる。

いくら超美少女と言えど行儀が悪いと、品格を損なってしまうからだ。



『本当に夢中になると周りを気にしなくなるのですから』

スキエンティアは内心でぼやきつつも、プリームスの汚れてしまった口の周りを拭う。


そして一番先に食べ終わったプリームスが、席から立ち上がろうとした時、アグノスが1枚の書面を差し出して来た。

「これはプリームス様が学部外活動団体”ヒュペリオーン”の顧問となる証明書です。他の生徒や講師などに何か文句を言われたら、これを見せてやって下さい」



その証明書にはプリームスへ顧問を委託する旨が記されていた。

ちゃんと理事長であるエスティーギア王妃の印も押されている。

これはどちらかと言うと、顧問を委託委任する為の書面と言った所であった。



「ありがとう、アグノス。これで要らぬ諍いも避けられるだろう」

そう言ってプリームスはアグノスの頬に軽く口付けをする。



甲高い金属音が周囲に響いた。

不意打ちで少しビックリしたアグノスが、持っていた匙を落としてしまったのだ。

再びアグノスの傍に近づくプリームスは、匙を拾うのかと思えば、

「私の唇に付いていたスープが、頬に付いてしまったな」

と言ってアグノスの頬をペロリと舐めてしまう。



更に驚いて硬直するアグノス。

その表情は真っ赤である。



『やれやれ、無意識にした事なんでしょうが、あざといですよプリームス様・・・流石、生まれ持っての女たらしですね』

そんな事を口に出すと、どちらからも顰蹙ひんしゅくを買いそうで内心でぼやくスキエンティアであった。


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