第133話・「ヒュペリオーン」活動初日(1)
翌日は思ったより早く目が覚めてしまうプリームス。
疲れていた為か、質の良い深い睡眠をとれたようだ。
時刻は朝の6時である。
しかしながら一般的な生活であれば、この程度の時刻に起きるものだ。
業種にもよるが仕事なら早い所で8時には始業する。
またこの魔術師学園の1限目は8時から始まるらしいので、淑女であるなら身だしなみを整える事も考え、この時間が妥当であるだろう。
だがスキエンティアは、プリームスが起きるより早く湯浴みを済ませていた。
「早いな、私の世話を考えて早起きしたのか? 自分の事くらい自分で出来るのだがな」
と少し不満そうにプリームスはスキエンティアへ告げる。
甲斐甲斐しく世話をされると、どうも子供扱いされているようで嫌だからだ。
「それに私に構わずノンビリしたら良いのだ」
そうプリームスがスキエンティアへ言うと、
「いえ、プリームス様のお世話をする事が私の楽しみと言うか・・・まぁ趣味みたいなものです!」
などとスキエンティアは笑顔で答える始末。
本人が楽しいと言うなら、それ以上プリームスにどうこう出来る訳が無い。
そうしていつも通りプリームスは、スキエンティアに湯浴みと身支度の世話をさせてしまう。
後は着替えて食堂へ行くだけなのだが、何着かベッドの上に並べてプリームスは悩む。
「適当に出したはいいが何にするかな・・・。外は暑い故、涼しい恰好の方が良いだろうし」
プリームスが下着姿でブツブツ言っていると、スキエンティアが迷い無く、それらの中から一着を手に取った。
「これが宜しいかと。また、この地は日差しが強うございます、帽子も召された方が」
それは極薄ワインレッドのロングドレスだ。
赤髪のスキエンティアなら似合いそうだが、銀に近い白髪の自分に果たして似合うのだろうか・・・とプリームスは考える。
すると返事をしないのが承諾と受け取ったのか、早々に着せられてしまう。
「着心地がいいな・・・」
と、つい正直な感想が出てしまうプリームス。
着てみて思ったが、布地が絹で相当に肌触りが良いのだ。
このドレスは背中が丸見えのホルダーネックで、裾は腰近くまでスリットが入っていた。
かなり布地が少ないので涼しく、また動きやすい。
ただ問題が有るとするなら露出が多い事だろうか・・・。
更に背中が丸見えの為に、上の下着は着けれない。
不格好に下着が見えるのは、ある意味品が無いと言うものである。
少し心許ないが下着無しだ。
スキエンティアを見ると既に着替えを済ませていた。
昨日と同じプリームスが用意した黒の上下だ。
プリームス程に露出は無いが、少し色気がある服装である。
そしてその手には、プリームスの身に付ける為の帽子と長手袋が持たれている。
帽子はつばの広い黒の物で、手袋は黒のレースで涼しげな意匠だ。
「後は昨日使われていたケープを羽織れば問題ないでしょう」
とスキエンティアが言うのだが、そのケープも闇色でスケスケなのだ。
露出を抑える役目は皆無と言える。
しかし余り自身の見た目に拘らない質のプリームス。
流石に裸や貧相な格好は問題があると認識はしているが、多少露出が多いくらいは気にしない。
「まぁこの程度なら大丈夫だろう」
そうプリームスが言うと、スキエンティアが嬉しそうに続いた。
「これなら大概の殿方は悩殺ですよ。バリエンテさんへ試してみましょう」
その言葉にプリームスは呆れてしまう。
『スキエンティアは私に何をさせたいのだ?』
「馬鹿な事は言うな。あれは想われ人がいる、余計な真似はせん方が良い」
とプリームスが諭すと、スキエンティアは少し驚いた様子であった。
「プリームス様は自分の事は疎く鈍感なのに、他人事には敏感であられますな。で、どちらの女性なので?」
スキエンティアの言い様はプリームスを馬鹿にしているようにも聞こえるが、面倒なので敢えて詰めない。
それよりもバリエンテの恋愛事情へ、興味津々なスキエンティアに溜息が出てしまった。
『いつもは他人に興味を持つような奴ではないのだが』
少し不思議に思いプリームスはスキエンティアに率直に尋ねた。
「スキエンティア、浮かれている様に感じるが・・・何か良い事でもあったのか?」
「何を仰いますか! 邪魔者も無く、プリームス様と二人きりで過ごせたのです。浮かれない訳が無いでしょう!」
と然も当たり前かのようにスキエンティアに返される。
「は、はい・・・そうですか」
スキエンティアの迫力に押されて何故か敬語になるプリームス。
「兎に角、見ていれば分かる。お前の事だから茶化す事はせんだろうが、余計な手出しはするなよ」
そうプリームスはスキエンティアに釘を刺す。
まぁ、今浮かれているだけで外に出れば、直ぐに何時ものスキエンティアに戻るだろう。
スキエンティアは少し考える素振りを見せて、深刻そうに呟いた。
「ふむ・・・分かりました。では女性2人のどちらかが
確かに女性2人の男性1人の組み合わせだと、恋愛が成就すれば1人女性が余る事になる。
余るとは、言い方が悪いが。
「う~む、だがあの3人の絆は強いように見える。その程度の事で仲間関係が崩壊するものだろうか?」
プリームスは首を傾げてしまう。
少し呆れたような溜息をつくスキエンティア。
そんな様子を見てプリームスはムッとするが、スキエンティアは気にせず説明を始める。
「プリームス様は慕われる側ですからね。そういった事で揉める気持ちが分からないかもしれませんが・・・。詰まり、3人の関係が当事者2人と部外者1人と言う構図になってしまうんです。そうなると1人取り残された気持ちになり、居た堪れなくなるかもしれませんよ」
確かに恋愛事だけでは無く、色々な状況で似たような事は起こる。
特に仲間内で孤立するのは、精神的に辛いものが有るに違いない。
だが長い歳月を生きて来たプリームスにとっては些細な事であり、どうでもいい事でもあった。
「人とは本当に面倒な生き物だな」
と呟くと、疲れたような表情を浮かべるプリームス。
『いやいや、貴女様も相当に面倒臭い生き物ですよ』
そう言いそうになったが、なんとかスキエンティアは堪えるに至るのであった。
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