第115話・問題児の実力(2)
プリームス達が案内されたのは、何と外郭と外側の城下町を隔てる城壁の上であった。
この外郭城壁は15mも高さと5mの厚みを有しており、それが外郭を全て覆い囲んでいるのだから大した土木建築技術だと唸らされてしまう。
人とは不足した物があれば、それを補う全く別の力を見つけ出す生き物だ。
この世界では万能に近い魔術学がそれ程発展していない代わりに、物理的な技術、特に建築学が突出して進歩している様に思えた。
そして城壁の上は見晴らしが良いだけでは無く、ちょっとした訓練用の空間としても十分活用出来そうである。
詰まりバリエンテ達の実践的な実力を見るに耐え得る場所と言えた。
バリエンテは見晴らしの良い城壁の上から城下町を見渡すと、
「この城壁は戦後に作られた物でね、まだ一度も戦争を経験していないんだ。今では国内外からの観光の要所になっているよ」
そう言って笑みを溢した。
確かに城壁の上には見張りの兵士らしき者は1人も立って居ない。
それだけ平和でこの城壁もその象徴と言う訳だろう。
「では始めるとするか」
プリームスは透き通る闇色のケープをはためかせて、バリエンテ達から10m程離れた位置に立った。
「「「えっ?!」」」
と同時に声を漏らすバリエンテ、イディオトロピア、そしてノイーギア。
どう言う事か理解出来ないイディオトロピアが、堪らずプリームスへ問いかけた。
「えっと、何を始めるかな?」
逆に首を傾げるプリームス。
「君達の実力を見るに決まっているだろう。実践的・・・いや実戦方式で行こう。3人同時で構わん、かかって来なさい」
すると心配そうにフィエルテがプリームスへ駆け寄った。
「プリームス様・・・お身体の具合が悪かったと言うのに、お止め下さい」
プリームスは戯けた様子でフィエルテのお尻を撫でると、
「お前は心配性だな。だが問題ない、魔力も身体も酷使する必要は無さそうだしな」
そう安心させるように笑顔で告げる。
これがバリエンテの癇に触ったようで、少し不機嫌そうに言い放った。
「プリームスさん、これでも俺達は元傭兵で戦闘の玄人だ。舐めてかかって怪我でもされたら困るんだが」
バリエンテの言い様に気にした風も無く、不敵な笑みを浮かべるプリームス。
「舐めているのは君達かもしれんぞ」
するとイディオトロピアも頭に来たようで、片手を掲げると火炎魔法を発動させた。
それは人の拳大で発現した火球で、見る見る大きさを増してゆく。
「多少の火傷はノイーギアが治してくれるから心配いらないわよ!」
「ほほう」
と少し感心した表情をプリームスは浮かべた。
『無詠唱で魔法を発動させられるのか・・・流石、元傭兵と言った所か。だが・・・』
イディオトロピアが人の頭程まで大きくなった火球を放とうとした瞬間、それが消失してしまう。
「?!」
訳も分からず宙を仰ぐ片手を呆然と見つめるイディオトロピア。
プリームスはニヤリと笑む。
「魔物ならまだしも、人に対してそれでは遺憾な。今から攻撃するから対応してくれと言っているような物だぞ」
バリエンテとノイーギアも目を見張った。
プリームスの言い様からして、イディオトロピアの火炎魔法を消し去ったと判断したからだ。
『どうやって消したんだ?!』
正にその疑問に尽きた。
兎に角、魔術に関する能力は自分達を上回ると判断したバリエンテ。
『ならば魔術を駆使した実戦的な立ち回りを見せてやる』
相手の実力が不明瞭な以上、やれる事を最善で実行するしかない。
バリエンテはイディオトロピアとノイーギアへ小声で言った。
「縦一列で特攻して時間差で近接から魔法を仕掛けよう。2人は出来るだけ俺の背後に隠れて、魔法発動の挙動を悟られないようにしろ!」
無言で頷くイディオトロピアとノイーギア。
そして一呼吸置いた後、バリエンテは背後に片手を回し3本指を立てた。
それをイディオトロピアとノイーギアのみ見えるようにする。
更にその立てた指が2本、1本と減ってゆき、全ての指が折られた時、バリエンテはプリームスへと突進を始めていた。
イディオトロピアとノイーギアも半呼吸置いてその後に続く。
プリームスは驚いた表情を浮かべる。
「ほほう!」
それはとても学生が出来るような連携と動きでは無かったのだ。
『実に面白い。洞察して直ぐに対策を立ててくるとは!』
バリエンテがプリームスに迫る。
その姿勢はまるで体当たりするように突っ込んでくるだけで、魔法を使用する素振りは見えない。
その上バリエンテの背後で隠れる様に並んで迫るイディオトロピアと、ノイーギアの挙動も全く分からない。
これでは実力を見ると言った手前、プリームスから攻撃が出来ない為に非常に不利だ。
バリエンテの狙いはプリームスに組み付いて、その動きを完全に封じると言う物だ。
もしプリームスがバリエンテから逃れようと後方に飛びのけば、後方の2人からの魔法で狙い撃ちにされる。
左右にプリームスが逃れようとしても結果は同じ。
更に何らかの方法でバリエンテを無力化しても、その間に後方の2人からの魔法を受けてしまう。
どちらにしろプリームスには打つ手がない。
「どれだけ自信があるのか知らんが、大言を吐いた落とし前はつけさせて貰う。擦り傷、打ち身程度は我慢してくれよ!」
そうバリエンテは言い放ちプリームスへ掴みかかった。
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