第108話・下級学部(2)
プリームスは国外からの視察見学と称して、下級学部への体験入学をする事となる。
案内された最も新しい10教室は少し軽々しい所も有るが、親しみやすい雰囲気を持った生徒達ばかりであった。
そもそもプリームスが美し過ぎると言うのもある。
普通の人間なら圧倒され魅了されてしまうと言う物だ。
故にプリームスとお近づきになりたい感情が生徒達を親しみ易くしたのかもしれない。
更に少し騒ぎになりかけて授業が直ぐに始められない状況に陥りもしたが、プリームスがお願いした事で一気に生徒達が大人しくなり事なきを得た。
そして授業の内容の方は非常に基本的な物であった。
その為、既に分かっている者達からすれば退屈な内容なのだろう、机に突っ伏して眠っている者もちらほら目に取れた。
そうして1時間ほどの授業は終了する。
本日の午後の授業はこの1時間だけで、この後は生徒達の自由な時間になるらしい。
ここの生徒は全寮制で寮に戻って寛ぐか、街に繰り出し遊びに行くかである。
また真面目な生徒は午後に学部外活動なるものを行うとの事だ。
プリームスはその”学部外活動”が非常に気になってしまう。
授業が終了し放課後となった教室で、プリームスにお近づきになりたい生徒が一斉に群がって来る。
「国外から視察で来られたんですよね? 凄いお若いのに、大役ですね!」
「プリームスさんって呼んでもいいんですかね?」
「握手して下さい!」
「わぁ~髪の毛も真っ白で綺麗・・・触っても良いですか?」
とプリームスを取り囲み口々に生徒達が喋りだす。
これにはどうしたものかとプリームスは困ってしまう。
その時、
「おいおい、そんな一斉に寄り集ったら困っちまうだろう」
と少し野太い男性の声がした。
するとプリームスを取り囲んでいた生徒達が徐々にだが散らばっていく。
そしてクシフォス程では無いが大柄な男性が、生徒をかき分けてプリームスの元へやって来た。
ここの生徒は皆、女子なら黒のスカートに白のブラウスを着用している。
男子生徒なら黒のズボンに同じく白のブラウス姿だ。
この大柄な男性も生徒と同じ格好をしているので生徒なのだろう。
少し意表を突かれて驚いてしまうプリームス。
理由は生徒達の年齢が皆15歳前後と言ったところだったからだ。
それなのにこのプリームスへ近づいて来た男性は、どう見ても30歳は超えている。
訝しんだプリームスは生徒達をよく見渡した。
そうするとチラホラと少年少女に混じって大人の男女が居るのに気付く。
そんな様子を見て察したのか、プリームスの元に来た大柄な男性生徒は、
「俺はバリエンテだ。俺みたいなオッサンが学園の生徒なのが可笑しく見えたのだろう?」
と苦笑顔を浮かべながら手を差し出して来た。
プリームスはバリエンテの手を取り握手を交わすと頷く。
このバリエンテは190cmは有りそうな体格で、魔術師などと呼ぶには様相が違い過ぎた。
また筋肉質な体つきで肌も日焼けなのか色黒だ。
どちらかと言うと冒険者か傭兵と名乗った方がしっくりくる。
「元々傭兵をしていてな、一応今でも傭兵ギルドの登録証は持っている。まぁ魔術の才能が有るからとギルド長の勧めでここで学んでいるが、余り上手く行ってない・・・」
そうプリームスに告げるバリエンテ。
このバリエンテの一声で生徒達がプリームスから離れた所を見ると、10教室ではそれなりに一目置かれているようである。
まあ15歳前後の生徒の中に、30歳のオッサンが混ざったらそうなるのは当然ともいえるが・・・。
「私も挨拶させてよ」
と突然バリエンテの後ろから、20歳半ばくらいの美しい女性が2人姿を現した。
一人は170cm程の身長で、灰色の長い髪をしていて少し性格がきつそうだ。
その彼女が笑顔でプリームスへ手を差し出すと、
「私はイディオトロピアよ、よろしくね」
そう優しげな口調で言った。
プリームスがイディオトロピアと握手を交わすと、直ぐにもう一人が歩み出て手を差し出す。
「わたくしはノイーギアです、よろしくお願いしますね」
と非常に丁寧な物腰で挨拶された。
このノイーギアは顎の辺りで切りそろえられた黒髪ボブが良く似合っている。
雰囲気と口調からするに貴族であろうか?、と思ったが彼女の潜在魔力を見てプリームスは違和感を感じた。
ノイーギアとも握手を交わし終えるとバリエンテがプリームスへ告げる。
「この学園に来て間が無いんだよな? 良かったら案内するが・・・」
少し悪戯顔でプリームスは笑む。
「初対面の私に随分と親切だな。何か下心でもあるのかね?」
それを聞いたイディオトロピアは吹き出してしまった。
そしてバリエンテを見やる。
「バリエンテ・・・あんた見透かされてるよ~。超絶美少女に目が眩んだって正直に言ったら?」
困ったような表情を浮かべるバリエンテ。
「いや、別にそう言う訳じゃ無いんだが・・・」
するとノイーギアが苦笑しながら言った。
「プリームスさんの美しさに目が眩んだのは本当だと思います。でもこの人は度が過ぎるお節介な性格でして、只の親切心だと思いますよ」
他の年相応の生徒達と比べて、1枚も2枚も癖が強そうな3人だが、悪い人間ではないようである。
それにこの3人から他の生徒達とは質の異なる魔力を感じ、少し興味が湧いたのも否定できない。
『これも巡り合わせなのかもしれんな』
そうプリームスは思いこの3人の傍に暫く居る事にした。
笑顔を浮かべるプリームス。
「いやいや済まない、今のは冗談だよ。では君たちの気が変わらない内に案内を頼もうか。それと面倒でなければ、この学園の事を色々教えてもらえると助かる」
気を取り直す様に笑顔を見せるバリエンテ。
「おう俺は構わないぞ。じゃぁ~早速構内を案内しよう」
そうしてプリームスは3人の年増生徒に連れられて教室を後にしてしまう。
これには他の生徒達がガッカリしてしまうのであった。
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