第107話・下級学部(1)

プリームスはアグノスに全ての段取りをさせた。

何の段取りかと言うと、魔術師学園下級学部への体験入学の事である。



昼食を終え午後からの授業を取り合えず受けてみる事になったのだが、その前にプリームスは基本的な下級学部の情報をアグノスから説明される。



下級学部の総生徒数は500人にも上り、魔術師学園全体生徒の5割を占める。

そして教室は10室に分けられ、1教室につき約50人の生徒で構成されていた。


また中級学部への進学が決まり、下級学部の教室から生徒が減ると定員割れとなり新たな生徒が入学する事となる。



詰まり魔術師学園には入学したい生徒や、保護された人材の待機生徒が溢れている状態にあった。

更に国外からの入学を希望する者も多くあるという。

それだけ魔術は未知数ながらも、先見的な期待が大きいと言えるのだろう。



プリームスが国外からの視察見学として体験入学する教室は、10教室に決まる。

そこは増設されて最も新しい教室で、それでも定員は50人在籍の満員であった。

教室は50人の生徒を余裕をもって収容できるように講堂並みに広いらしい。

いわば大教室と言ったところか。



そうして粗方、アグノスから説明を受けたプリームスは下級学部10教室へ案内される。

プリームスに付き添うのは学園理事の補佐であるアグノスと、10教室の担当魔術講師だ。

因みにスキエンティアとフィエルテは学園の出入許可証をアグノスから渡され、学園内で自由行動中である。



先に担当講師が教室に入り、この教室に国外から視察見学に来た来賓がある旨を伝える。

すると生徒達は少し戸惑い嫌悪する様子を見せた。

視察するなら上級や特級学部へ行けば良いのに・・・と皆が考えたからだ。


要するに自分達は一番下の学部で、出来損ないか素人しか居ないと自覚しているのだ。

そんな魔術師の成り損ねが集う学部を見て何になるのだ?!

嘲笑いにでも来たのか?、と思ったに違いない。



しかしそう言った不満や訝しみは、プリームスが教室に姿を現した途端に消え失せたようであった。

壊れてしまいそうに儚く、まるで妖精のような全てが真っ白な美少女。

華奢で身長も150cm程しかない。


なのに女性らしい身体付きと、あどけない顔に似合わない大きな胸。

その様相は正に絶世の美と断言出来、そこに居る全ても者に扇情的な感情を植え付けてしまった。



アグノスが教壇に立ち、教室に居る生徒達を見渡して少し強い口調で言った。

「国とこの学園が賓客として迎えたお方です。皆さん失礼の無いよにお願いしますね」

そう言った後、プリームスを見やってその場を譲る。



『心配なのは分かるが、いきなり威嚇とは・・・』

苦笑いを浮かべるプリームスは教壇横に立つと、

「私の事はプリームスと呼んで欲しい。所属国など身元に関する詳しい話しは出来ないが、仲良くして貰えればと思っている」

そう言って生徒達に向けて小さく頭を下げた。



そうすると一斉に大教室内が湧きあがった。

「すげぇ~めちゃめちゃ美人じゃん!」


「何あれ!? まるで妖精みたいに綺麗なんだけど!!」


「うお~マジで仲良くなりてぇ!」


「何て役得なんだ~! こんな最下層の教室に~」


などと生徒達が口々に大声で話し出す。

しかもそれが男女問わず、皆プリームスに魅了されてしまったようである。



これにはアグノスも担当講師も頭を抱えてしまった。

予想はしていたが、プリームスの魅力がここまでの影響を出すとは思っても居なかったのだ。


流石にこんな大騒ぎになりかけた状態では授業を始める事が出来ない。

授業を体験したいのに、授業が始められないとは本末転倒だ・・・。


そう思ったプリームスは少し困ったような表情で生徒達に訴えた。

「盛り上がっているところ済まないが、君達の授業の様子を見せて欲しいのだ。これでは私の目的である視察見学が進められない」



絶世の美少女が困った様子でお願いしたのだ。

更にその儚そうな様相が相まって、生徒達の後悔を煽り上げる。


『この超絶美少女に嫌われたくない!』


『こんな美しい人を困らせる事なんて出来ない・・・』


『何でも言う事を聞いて甘やかしたい!』


生徒達は皆、そう似たり寄ったりの思いを抱き一斉に静かになってしまった。



可愛さ、美しさは正義である。

それも絶世で超絶が付く程の美少女なのだから、それに比肩する程の正義でなければ誰も否定できない。

そう思わせる程の衝撃力がプリームスから魅力となって放たれているかの様であった。



「はぁ・・・」と大きく溜息をつくアグノス。

正直こうなる事が嫌だったのだ。


プリームスはアグノスの最も愛しい人であり大切な伴侶。

しかしそれはプリームスとアグノスの間柄の話であって、他人が個々でどう思おうが関係無いのだ。

故にプリームスへ密かに思いを寄せる者が居ても止める事は出来ない。



詰まりアグノスは手出しが出来ない他人の心の中深くに、プリームスを刻まれるのが耐えがたいのだ。

それは只の自分勝手な嫉妬と言えた。



だからアグノスは我慢をする。

自分勝手な思いの為に、プリームスの行動を妨げたくない。


『本当なら私の為だけにプリームス様を部屋に閉じ込めて、一生愛でていたい位なのに・・・』


そんな恐ろしい事を考える己を自覚してアグノスは自嘲してしまう。

そしてソッと教室を後にした。

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