第101話・拠点と今後の方針

フィエルテの気迫が籠った強い申し出に、少し怯んでしまうプリームス。

急にどうしたのかと驚いたからだ。


スキエンティアは何か察しているのか、特に表情に出すこと無くフィエルテの話を待っているようであった。



フィエルテはプリームスとスキエンティアの前に跪くと首を垂れて話し出す。

「私は自身の未熟さを痛感致しました。この機にプリームス様を守れるように鍛えて頂きたいのです」



恐らくプリームスの今の状態を見てそう思ったのだろう。

そもそもフィエルテは従者以前に護衛として”身内”にしたのだから、それが機能しなくては意味が無い。

またポサダの町でアポラウシウスに襲来されて、フィエルテ自身の手で守れなかったことを後悔しているのかもしれない。



「私は構いませんよ。プリームス様が学園理事を代行されている間は、私自身特にやる事がないですから」

とスキエンティアに異論はないようだ。



しかしプリームスは考え込んでしまった。

フィエルテはプリームスにも鍛えて欲しいと言っているからだ。


正直やりたい事や、しなければならない事が山積みなのである。

『困ったな、基礎的な事はスキエンティアに任せるか。そうすると短い時間でも私が教えられる物に限られてしまう』


そう思案していると、ある事に思い至る。

『そもそも私が理事を代行している短い間と言う話だ。それが終われば直ぐに旅立つとでも思っているのだろうか?』



「フィエルテ、何か勘違いしているのかもしれんが、今のところ私はこの王都から出る予定はないぞ」

とプリームスが言い放つとフィエルテだでは無く、そこに居た皆が少し驚いた顔になる。



丁度その瞬間にエスティーギアが屋上から戻り、それを耳にした。

「ま、誠ですか!? プリームス様!」



更にエスティーギアが嬉しそうに詰め寄って来て、若干引き気味になるプリームス。

「そ、そんなに私が王都に居る事が嬉しいのか?」



エスティーギアは興奮したように鼻息荒く答える。

「嬉しいに決まってます! こんなに可愛く美しくて、その上私の知らない英知を秘めている方が傍に居るのですから!」



『いや、誰もお主の傍に居るとは言っていないのだが・・・』

内心でプリームスはぼやいてしまう。



ご満悦のエスティーギアは思い出したように言った。

「私が割って入った形になりましたが、何か大事な話の途中だったのでは?」



そうだった・・・。

兎に角、直ぐに旅立ちたい訳では無いので、急ぐ事は無いとフィエルテへ告げようとした。

しかし今度はアグノスが詰め寄ってくる。



「王都でゆっくり出来ると言う訳ですね! でしたら御案内したい所があります!」

と嬉しそうに言い出すアグノス。



『今度はお前か・・・』

そう思いプリームスは頭を抱えた。

この親子は見た目だけでは無く気性も似ているようだ。



「分かった分かった、落ち着いたらアグノスに案内して貰おう」

プリームスからそう言われてアグノスはご満悦になる。


『聞き分けが良い所も何だかそっくりだな』

苦笑するプリームスに次はスキエンティアが迫ってきた。

「この国に長期滞在されるなら、拠点を構えた方が宜しいのでは?」



「次はおまえか・・・」

と、つい声に出してしまうプリームス。


察していたスキエンティアは苦笑する。

「お急ぎでは無いのでしょう? それに安全な拠点を構えておけば、フィエルテへの修行もつけ易いですし。更に御自身を含める皆の安全も確保出来ますよ」



全くその通りなのでプリームスは言い返せない。

スキエンティアはいつも適切な状況で的確な助言をしてくれる。

大雑把なプリームスとしては非常に有難い事だが、したり顔をされている気がして鼻持ちならない。



『我ながら子供じみた所があるな』

そう自嘲してしまうばかりだ。



漸くおずおずとフィエルテがプリームスへ伺いを立てに来る。

他の3人の個性とあくの強さで、中々フィエルテが話しかけ難かったに違いない。

この中で一番可愛らしくて奥ゆかしいフィエルテをもっと傍に置くべきかな・・・と考えてしまう。



「プリームス様、そう言う事でしたら慌てなくとも良いとは思いますが。それでも”実戦力”としてお役に立ちたいのです」

フィエルテの懇願するような訴えに、プリームスの方が折れてしまいそうだった。



「ふ~む、まぁ私としてもやっておきたい事は急ぎでは無いゆえな。先ずは理事を代行しつつ拠点の計画を練るとしよう。その合間にフィエルテの強さを”引き出して”やるから、基本的な事はスキエンティアから学ぶと良い」

結局プリームスがフィエルテの願いを受け入れる形になる。

以前とあまり変わらない気もするが、詰まる所、積極的にフィエルテの相手をすると言う訳だ。



この処置にフィエルテはいたく感激したようで、深く頭を下げてしまった。

「有難う御座います・・・プリームス様、師匠・・・」



拠点を定める事に関して、エスティーギアがどういった物が良いのか尋ねて来た。

「私としてはこの塔を使って頂いても全然かまわないのですけど・・・」

そう平然とプリームスを自身の傍に置こうと仕向けるエスティーギア。

下心が見え見えで逆に面白い。



「出来れば他人が簡単に出入りできぬ場所がよい。例えば迷宮の最下層と言った場所などだ」

などと突拍子も無い事を言いだすプリームス。



これにはアグノスが嫌そうな顔をする。

「プリームス様のようなお美しい方が、そのような場所は不釣り合いかと。まるで不死者の真似事ではないですか」



恐らく迷宮に拠点を構える不死王ノーライフキングなどの事を言っているのだろう。

本来こう言った者達は研究に没頭する為に不死になったのだ。

そして邪魔をされたくないが為に迷宮を築き、その最下層へ引き篭もる。


基本的に無害であり、ちょっかい出さなければ人類に敵対する事は無い。

しかしいつの世も名声やその英知を得るために、不死王を倒そうとするものが居るのだ。

そして手痛いしっぺ返しを受け、下手をすれば国が滅ぶ訳である。



只々引き篭もり研究に没頭したい・・・。

誰の目にも触れず隠遁したような生活を送りたい・・・。

プリームスは何となく不死王たちの気持ちが今になって分かったような気がした。



「う~む・・・迷宮・・・本当に悪くないかもしれんな」

と独り言のようにプリームスは呟いた。



「ええぇ~!? プリームス様~嫌ですよ~」

そう困ったように食い下がるアグノス。

この後、アグノスを納得させ宥めるのに時間がかかってしまうプリームスであった。

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