第100話・聖剣の呪い
エスティーギアの学園案内は、塔の屋上をプリームスに見せて終わってしまう。
理由は屋上での会話が長過ぎたと言うべきかもしれない。
また体調を崩したようで、それを察したアグノスがプリームスを連れて理事長室へ向かってしまったからだ。
最初は手を引かれていたプリームスだか、足がもつれ始めたので慌てて歩を止めるアグノス。
そしてアグノスはプリームスを支えるように寄り添い、理事長室に到着する。
「体調が優れないのでしたら、気を使わず直ぐに仰ってください! フラフラではないですか!」
と少し怒った表情でアグノスは告げた。
プリームスはソファーに横になると戯けた風に答える。
「アグノスに甘えられると思って、ギリギリまで我慢していたんだよ。直ぐだと何だかがっついている様で恥ずかしいじゃないか」
そんな事をこの絶世の美少女に言われたら怒るに怒れない。
絆(ほだ)されてしまったアグノスは少し赤面させながらプリームスの傍に屈み込む。
「もう、女の子の扱いが御上手なんですから」
フィエルテも遅れてプリームスの傍までやって来ると苦笑いをする。
『ほんと、根っからの女たらしと言うか、自覚が無いようだし、お優しいだけなのでしょうけど』
暫くするとスキエンティアが戻りプリームスを見て少し青ざめた。
そしてアグノスの隣に並ぶように屈むと、
「エンチャントの魔法が身体に負荷をかけたのでは?」
心配そうにプリームスへ囁く。
それを耳にしたアグノスが悲壮な表情に変わる。
身内への証として贈られた指輪。
それが無理をしてプリームスが作ったと考えたからだ。
「こらこら、アグノスに無用な心配をさせるな」
とスキエンティアを叱るプリームスだが、具合が悪いせいか語調に全く力が籠もっていない。
そしてアグノスの手に優しく触れ言った。
「実はなここに来る少し前から調子が悪くてな、お前のせいでは無いゆえ、そう気を病むな」
アグノスは心配そうに何も言わずプリームスの手を握り返した。
「では、体調不良の原因は何なのですか? 隠し事は後で皆を心配させるだけですよ。吐ける事が有れば全て吐いてしまいなさい!」
思った以上に厳しい口調で、今度はスキエンティアがプリームスを叱り付ける。
これにはアグノスが驚いてしまう。
そしてまるで自分が怒られたかのように萎縮してしまった。
叱られた当の本人は何故か急に服を脱ぎ出そうとする始末。
何が何やらよく分からなくなってアグノスは困惑するばかりだ。
「すまない・・・脱ぐのを手伝ってくれないか? 上半身だけでいいのだ」
と少し辛そうに、そしてソファーに横になって苦戦しているプリームスは言う。
言われるがままアグノスはプリームスが服を脱ぐのを手伝うのだが、何の意味があるのか全く分からない。
取り敢えず全部脱ぐのではなく、デコルテ部分が広く開いているを利用して、そこから両腕を抜いた。
すると下着姿の上半身が露出する訳だ。
その姿を見てスキエンティアが驚いた表情を浮かべる。
アグノスは特にプリームスの身体に異変を見つける事は出来なかった。
しかし敢えて言うならその右胸の少し上、鎖骨の下辺りに薄らと紋様が浮かんで見えるくらいか。
それも目を凝らさないと見えない程だ。
「聖剣の呪いがこの身体にも影響を出し始めた。予想はしていたが思ったより早い・・・」
そうプリームスはスキエンティアへ告げた。
その言葉で更に顔を蒼白にするスキエンティア。
「そんな、お身体まで入れ替えたと言うのに・・・。これではプリームス様は・・・」
そしてそのまま茫然自失状態になり視線が何もない宙を仰いだ。
「スキエンティア・・・」
プリームスが静かに呼ぶが、その意識は忘却の途に踏み入れたのか反応が無い。
「スキエンティア!」
強い語調で呼び、漸く我に返ったようにスキエンティアはプリームスを見た。
穏やかで優しい表情をスキエンティアへ見せるプリームス。
「大丈夫だ、以前のように生命の危険は無い。だがこのままでは全くもって無理が利かん。何か対策せねばな」
と告げられてスキエンティアは胸を撫でおろした様子だった。
冷静沈着で鋭いナイフのような印象をスキエンティアに持っていたアグノス。
自失するほど取り乱すとは予想もしなかった。
それ程プリームスの容態は悪いのかと、アグノスも心配でならない。
「プリームス様、本当に大丈夫なのですか?」
プリームスは右胸の紋様に手を添える。
「”以前”は自身の魔力と、この”呪い”が反発し合って死にかけた。今は魔術を使い体内の魔力が活性化すると、これと反作用を起こすようだ。死に至るほどでは無いが、体力と精神的な消耗が激しい・・・全くい忌々しい聖剣の呪いだ」
兎に角、死の危険性は無いと知り得てアグノスはホッとした。
しかし強大な力を持つプリームスが、その能力の大半を封じられてしまったのではないかと不安になる。
恐らく自分達の知らない英知を数多く秘めているプリームス。
その能力と知識を垣間見た者は、必ずを利用しようとする筈だ。
そのような輩から自身を守る為に力を振るえない。
『これは非常に危険な状態なのでは?!』
アグノスはそう思わずにはいられなかった。
スキエンティアが何かに気付いたように呟く。
「プリームス様、ひょっとして御請けになったのは・・・」
プリームスはドレスを着直しながら頷いた。
「うむ、理事長代行を請けたのは安全に滞在できる場所を確保する為だ。クシフォス殿の屋敷に厄介になるのもいいが、この学園にも興味があったしな。丁度よかろう」
「成程・・・そう言う事でしたら各自の立ち回りも決めておかねばなりませんね」
スキエンティアのその表情は冷静沈着な軍師のそれに戻っていた。
一方フィエルテは、プリームスが安全に滞在しているこの機を利用して、行っておきたい事が有りおずおずと告げる。
「プリームス様、それに師匠、お願いしたい事があります」
仮面の奥のその瞳は真剣そのもので、一同を怯ませるほどの決意が秘められていた。
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