第90話・理事長室(1)
一階の広いフロアーから奥の階段を上がって行くプリームス達。
この階段は螺旋になっており、どうやら塔を上っている様だった。
建物の外観を目にした時、大きな塔を奥に見て取れたので、きっとそれだろう。
魔術師は一般的に塔に住居を構える事が多い。
理由は外敵から身を守る事が第一に、研究する為の空間を横にではなく縦に伸ばした結果と言える。
また長い間、魔道の研究を続けている魔術師はその塔が巨大になったり、また塔の数が増えてその塔同士を渡り橋で繋いだりした。
究極まで到達すれば魔道の研究成果を更に試す為、こんどは地下に広大な研究空間を作り上げてしまったりもする。
いわゆるそれが魔物が徘徊する
またそう言った強大な魔力と膨大な知識を持つ魔術師は、不死になった物が多い。
それらは
故に国家にも恐れられ、時代によっては不死王や魔王と呼ばれる事がある程だ。
プリームスは以前居た世界でそう言った強者を屠り、時にねじ伏せ、そして部下へと加えてきたのだ。
今思うと懐かしくも儚い闘争の時代だったとプリームスは感じてしまう。
そして今から会う王妃は、只魔術を探求する者なのか?
それとも得た力で文字通り”魔道”目指す者なのか?
どちらにしろこの国で魔術の権威で有る事は間違いない。
アグノスの母で有ると言う事も含めて、プリームスは会うのが楽しみでならなかった。
予想通り塔の最上階に理事長室は存在し、漸く到着する。
巨大な塔の外壁内部を螺旋状に上がって行くので、中々に時間がかかってしまった。
学園の最高権力者で有るというのに理事長室の扉は簡素な様相で少し驚いてしまうプリームス。
この学園自体、機能重視の構造で建設されており、見た目に関しては恥ずかしく無い程度に装っていた。
要するに王妃は華美な装飾は好まず、実用面に重きを置いた現実主義者なのだと窺える。
「お母様、アグノスです。失礼しますね」
そう言って形式だけのノックをすると、遠慮なしにアグノスは扉を開けた。
そしてさっさと室内に入ると、プリームスと従者2人が続けるようにアグノスは扉を支える。
プリームスが理事長室に入り中を確認すると思った以上に広く感じた。
それもその筈、この理事長室は部屋では無く最早フロアーだったからだ。
そもそもの部屋としての壁が無い為、端から端まで見通せて非常に広い。
一番奥に巨大な執務用の机があり、その後ろに巨大な本棚がそびえ立っていた。
視界を遮るものと言えばそれくらいである。
王妃は何処に居るのかとプリームスが見渡していると、
「お母様、またそんな所で寝て・・・」
とアグノスの少し怒った声が聞こえた。
声の方を見ると大きなソファーが2つあり、その片方に誰かが寝そべっている。
眠そうに身を起こしたその人物は、アグノスによく似ている女性だ。
本当によく似ていて髪の色も同じ深い藍色であった。
恐らくこの人物がアグノスの母で、王妃であるエスティーギア魔法学園理事長なのだろう。
「うぅ、今朝方まで寝ていなかったのよ・・・もう少し寝かせておくれ」
そう言ってエスティーギアは再び横になろうとした。
しかしそれを許さないアグノスは、エスティーギアの両肩をガシッと掴み眠るのを阻止する。
「お母様に紹介したい方がいます。お連れしましたので、ちゃんと起きて会って下さいまし!」
そうアグノスは言い放ち、エスティーギアの肩を揺すりまくった。
「あぁあぁぁぁ、揺さないで~分かったから! 起きますから! 会いますから〜」
とアグノスに揺らされながら悲鳴に近い声で答えるエスティーギア。
言質を取り落ち着いたのか、アグノスはプリームスを見やって笑顔を浮かべた。
「プリームス様! こちらのソファーにお座り下さい!」
何だか王妃を気の毒に思いつつも、プリームスはアグノスに言われた通りにソファーに腰を下ろした。
スキエンティアとフィエルテは従者らしくプリームスの背後に控えるように立つ。
アグノスは自分の母親がだらけないように、傍に座って監視するつもりのようだ。
一方、エスティーギアはオッサンのようにボリボリと頭を掻いて眠そうな様子。
娘とそっくりな美しい様相が台無しである。
かくしてプリームスの王妃への謁見が始まる。
当人2人は謁見などとは然程も感じてはいないようであるが・・・。
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