第89話・王妃エスティーギア(2)

魔術師学園に到着したプリームス一行。

その広大な敷地と、それを押し隠すように覆い囲む高い石造りの壁を目の辺りにする。



アグノスの説明では魔術は兵器としての運用が可能なため、国に委託された”学園”が管理しているとの事だ。

門の傍に受付のような詰め所が併設されていて、そこで入退時の確認を行うようである。

中々に厳重に扱われている施設のようだ。



プリームス達はアグノスの”身内”と言う事で、特に確認される事も無く学園内の敷地に通された。

そして良く手入れされた芝生が覆う外庭を抜け、幾つもある大きな建物のうちの1つに向かう。

その建物は煉瓦造りの少し洒落た様相をしていて、奥に巨大な塔が併設されていた。



アグノスは来慣れているようで、一行を先導するようにどんどん進んでゆく。

建物の玄関を抜けると広く美しいフロアーになっていた。

王宮程に華美では無いが磨き上げられた白い大理石が床や壁を覆い、簡素であっても見る者に造形の良さを感じさせる。



更にこの広い空間の中央に受付のようなカウンターがあり、4人の女性が座っていた。

その女性達は若く、見た目だけで言うならプリームスと同じ歳程度に見える。

皆同じ白のブラウスに黒のスカートを着用していて、どうやら制服のようだ。



カウンターの女の子達は、アグノスを見るなり直ぐに立ち上がると恭しく頭を下げた。

「アグノス王女殿下・・・おはようございます。理事長に御用でしょうか?」



アグノスは受付の女の子達に笑顔を見せた。

「うん、ちょっとお母様に紹介したい方がいるの。直接向かっても大丈夫よね?」



すると受付の女子達は、アグノスの後方にいる2人の異様な従者を見つめた。

少し不安そうに見つめ暫く無言の時間が流れる。

禍々しさは無くなり随分ましになったとは言え、仮面を着けている時点で不信である。

このような反応をするのは当たり前という物だ。



その沈黙を破るようにアグノスの影に隠れていたプリームスが姿を見せた。

「済まない、後ろの2人は私の従者だ。怪訝に思うだろうが悪さなどしない故、安心して欲しい」

そう微笑みながら4人の女子達にプリームスは告げる。



だが女子達の沈黙は続いてしまう。

プリームスの余りにも美しい様相を見て絶句してしまったのだ。

毎度ながら話が進まなくなってしまうのでプリームスは困るばかりだ。



見かねたアグノスが、

「そう言う訳だから理事長室に行かせて貰うわね」

そう言ってプリームスの手を取って歩き出す。



我に返った女子達はアグノスに連れられるプリームスを名残惜しそうに見送る。

何だか申し訳なく思ったプリームスは、

「今日は挨拶に来ただけだが・・・ここには興味があってな、お世話になる可能性がある。その時はよろしく頼むよ」

と優しく4人の女子へ向けて言い放った。



それを聞いた女子達は、まるで腰砕けになりカウンター内にある椅子にへたりっ込んでしまう。

絶世の美しさを持ち魅惑的な様相のプリームスから、”よろしく頼む”と言われてはメロメロにならない訳がない。

そして再びこの超美少女に会えるかもしれない期待に胸が一杯になってしまったのだ。



「はぁ・・・」とアグノスとスキエンティアが同時に溜息をついた。

お互い同じ思いだったのだろう、顔を見合わせて2人は苦笑してしまう。



「プリームス様は、根っからの女ったらしなんですね」

と少し怒った様子のアグノス。


「まぁ、今に始まった事ではないですが無意識なだけに質が悪い」

とこちらも遺憾な表情のスキエンティア。



そんな2人を見て、『結構気が合いそうだな』と思いプリームスは顔をほころばせる。

しかし自分の文句を言われてる辺り納得がいかない。

「社交辞令程度に話しただけだろう? 何か変な事を言ったか?」

とプリームスは反論する。



アグノスはプリームスの手を引いて、フロアーの一番奥にある階段を上がって行く。

そしてチラリとプリームスを一瞥する。

「ご自分がどう見られて、どう評価されているのか分かっていないようですね。それともワザとなんですか?!」



プリームスの後を追って階段を上がるスキエンティアが話に続く。

「プリームス様は自身が他人にどう評価されているかは分かっていますよ。ただ自身の様相で他人に与える影響を面倒臭がって考えないだけです。最近では面倒を通り越して無意識の域ですし・・・」



すると呆れた様子でアグノスは言い放つ。

「まぁ、何と質の悪い! もう一層の事、プリームス様を他人の目に届かない場所に監禁するか、箱に入れて持ち歩くしかありませんね!」



「フフフ・・・」と小さく笑うスキエンティア。

「それは良い考えですね」



プリームスは露骨に嫌そうな顔をする。



そんな3人の様子を喜劇でも見るかのように、苦笑を堪えながら続くフィエルテの姿が有った。

『本当に仲のよろしい事で・・・』

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