第81話・事後処理と懸念
国王を暗殺しようとした黒幕の可能性がある隣国の宰相アンビティオー。
そのアンビティオーが何故それを企てたのか理由が定かでは無い。
それは国の守護者であるケラヴノスにとって不安要素であり、なにより不気味でならなかった。
しかし更に他にも問題が有るとプリームスは言うのだ。
ケラヴノスは不安が増し頭を抱えてしまった。
同じ気持ちであろう父親であるクシフォスは、
「率直に言ってくれ。俺は脳筋ゆえ、まどろっこしい事は苦手だ」
と迷いなく言い放つ。
プリームスとケラヴノスの気持ちが一致したのか、顔を見合わせて笑いを堪えた。
『脳筋を認めたな・・・』
『馬鹿なのを認めましたね・・・』
何とか笑い出さずに済んだプリームスは、息を整えて説明し出す。
「ポリティークは宰相である父親の代行なのだろう? 息子が国王暗殺を企てた逆賊と周囲に知られれば、その父親も只では済むまい。失脚で済めばいいが・・・」
クシフォスの顔が青ざめた。
「不味いぞ! 下手をすれば爵位剥奪、お家取り潰しとなるだろう。さらに市井に知れ渡れば民の不安を煽ってしまう」
アグノスも心配そうに呟く。
「他国に知られるのも良く無いでしょう。今は連合を組んでいますが、我が国を良く思っていない国の蠢動を誘いかねません」
同意するようにケラヴノスも続いた。
「レクスアリステラ大公は、非常に高い政治手腕をお持ちです。今ここで失脚しては国家に多大な損害を与えるのは確実。それに王女殿下の言われる通りレクスアリステラ大公失脚を機に、他国が政治的に何か仕掛けて来る可能性は大きいです」
プリームスはボソリと言った。
「箝口令はひいてあるだろうな?」
ケラヴノスは頷く。
「勿論です! これは王宮中枢で起こった非常に繊細な問題です。解決してもこの件は公になる事はありません」
「では国王が病に伏せった事は?」
とプリームスが続けて尋ねる。
それには王女のアグノスが答えた。
「周囲に無用な不安を煽らない為にも、ごく一部の人間にしか知らせておりません」
するとプリームスは笑顔を浮かべてクシフォス親子を見やった。
まるでこの世の物で無い天上の麗人が微笑んだのだ。
安心しない人間が居る筈も無かった。
そして駄目押しとばかりにプリームスは告げる。
「なら大丈夫だろう。アグノスを擁立して玉座を狙う者も現れはすまい。1番厄介なのは今回のように内で起こる問題だからな」
そうプリームスから言われて、クシフォスとケラヴノスは胸を撫で下ろした。
しかし根本的な問題は解決していない。
ポリティークをどう扱えばよいのか・・・それが問題だ。
またケラヴノスは頭を抱えてしまった。
するとスキエンティアが見かねたように片手を少しだけ上げて言った。
「僭越ながら宜しいですか?」
どうしたものかとケラヴノスが、プリームスとクシフォスを交互に見やる。
まさかプリームスの従者から進言の許可を求めらるとは思わなかったからだ。
クシフォスはニヤリと笑み答える。
「スキエンティア殿はプリームス殿の軍師をされていた腹心らしいぞ。その見識をありがたく聞かせてもらえ」
ケラヴノスは驚きそして納得した。
更にプリームスが"只の聖女"では無い事に気付きはしていたが、ここに来て漸くそれが確信に変わる。
ケラヴノスが見つめて頷くと、スキエンティアが話し始めた。
「今回の国王暗殺の企てを無かったように扱うのです。ポリティークは国外に長期視察に出たなどとすれば、王都に姿が無くとも怪しまれる事は無いでしょう。そしてポリティークは人目に晒さぬように厳重に投獄したままにするか・・・」
ケラヴノスが続いた。
「極刑・・・つまり殺してしまう訳だな」
頷くスキエンティア。
「後は数年経ってから国外で不慮の事故により、ポリティークが亡くなった事にすれば良いのです。そうすれば父親であるレクスアリステラ大公が責められる事は何も起きず、お悔やみの言葉が贈られるだけとなるでしょう」
武官ばかりが揃うと、こう言った政治的な問題は対処に苦しんでしまう。
故に政治の専門家である文官が存在するのだが・・・そう思いケラヴノスはプリームスの従者に脱帽した。
更にスキエンティアは続ける。
「国王陛下にこの処理の許可を頂かねばなりませんが・・・それとアグノス王女殿下のお気持ちの問題もあるのでは?」
そう言われてアグノスは首を傾げた。
思い当たる節が何も無いのだろう。
スキエンティアは呆れたように告げた。
「アグノス王女殿下、失礼ながら昨夜の騒ぎの中、勝手な洞察で申し訳ないのですが・・・。ポリティークとは恋仲であったのでは?」
すると思い出したかのように「あ〜」と反応するアグノス。
そして溜息をつくと、
「確かに優しく言い寄られ、その様な気分にはなりました。ですがポリティークの下心が王権にあると知れれば、百年の恋も冷めると言うものです・・・。元より王になる為の道具としか私は見られていなかった訳ですよ。そんな愛の無い者に未練がありましょうか?」
そう少し怒りを滲ませて答えた。
スキエンティアは申し訳なさそうに少し頭を下げる。
「お怒りの心中お察しします・・・」
だがアグノスはコロリと明るい表情に変え言い放つ。
「ですが、そんな過ぎ去った事など、どうでも良い程に私の気持ちは充実しています。真に私の愛を捧げたいお人が見つかったからです!」
プリームスは嫌な予感がして、アグノスから顔を背けた。
「プリームス様! お慕いしております! どうか私をお傍に置いて下さいませ!!」
プリームスの後頭部に凄じい視線と愛の言葉が突き刺さるのであった。
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