第50話・身内となる者への儀式

クシフォスは王都へ向かう準備をする為に武器庫もとい武器部屋?に来ていた。


因みにスキエンティアも一緒にいる。

それは王都に着いてからの行動を詰めておく為だ。

しかし話し始めて早々、クシフォスは項垂れてしまう事になる。



何故かと言うと、プリームスが王都で身を晒すだろうとスキエンティアが言ったからだ。

このボレアースで死熱病の患者を救った事で、プリームスは一躍有名人となり”聖女”などと呼ばれてしまっている。

そしてその名は国内だけでは無く、国外まで轟いている可能性があった。



そんな有名人が王都で大手お振って歩いたものなら、要らぬ諍いまで招き寄せるのは明白である。

しかもこの世の物とは思えない程の美しい外見。

”聖女”云々を抜きにしてもプリームスを見た者が悪い気を起こすかもしれないのだ。



それらの混乱や諍いの処理を延々しなければならない。

そんな事態が読めてクシフォスは項垂れてしまったのであった。

だがそれ以前に疑問も湧いた。

「そもそもプリームス殿が王都に居ると知らしめた所で、どうなると言うのだ?」



そんな風にクシフォスに言われてスキエンティアは目が点になった。

「え?! そこから説明が必要なんですか?」



「うむむ?! 駄目か?」

と至極真面目に答えるクシフォス。



スキエンティアは諦めたように溜息をつくと説明を始めた。

「王都に死熱病を治療できる聖女が来ている。そうなれば死熱病を使って悪巧みをしている者が動く筈です。例えば国の中枢にいる要人を暗殺しようと死熱病に感染させても、プリームス様が治してしまったらどうなります?」



するとクシフォスは少し思考した後、

「そうか・・・暗殺は失敗してしまう。故にプリームス殿を確保、もしくは殺害しようと動くと言う訳か」

とやっと理解出来た様子で言った。



「そう言う事です。この場合、プリームス様を殺害するのでは無く確保しようと動くでしょうね。対処出来ない”武器”を持つのは使う側も危険に晒してしまいますから」

そうスキエンティアは補足した。



しかし余計に難しくなってしまったのか、クシフォスは唸り出す。

「う~む・・・結局、俺はどうしたら良いのだ?」



スキエンティアは少し意地悪な表情で笑む。

「そうですね・・・プリームス様や私が暴れ回ったあとの処理を、考えておいた方が良いでしょう。細かな所は王都に着いてからプリームス様にお尋ねください」



丸投げだ・・・。

面倒な所だけ自分に回すつもりなのだな、とクシフォスは思った。

だが自分一人では死熱病に関わる陰謀を、阻止することも対応する事も出来ないだろう。


そもそもボレアースの町で起こった死熱病が、作為的であった事も気付かなかったのだから。

ならばやれる者に任せて、自分は裏方に徹するしかないのだろうと割り切る事にした。






一方、プリームスとフィエルテは2人で湯浴みに興じていた。

屋敷には大きな浴場も有るのだが、この時間にはまだお湯が張られていない。

そこで湯浴み用の湯舟へ、侍女達にお湯を満たして貰い浸かる事になる。


湯舟はプリームスとフィエルテが何とか一緒に入れる程度の大きさで、フィエルテはどうしたものかと全裸で立ち竦んでしまった。

それを見たプリームスは、同じく全裸で言い放つ。

「良いから取り合えず先に浸かれ!」



「え・・・あ、はい・・・」

主に言われて仕方なくフィエルテは湯舟にソッと足から浸かった。

プリームスを差し置いて先に入る形になって少し居たたまれない。



そうしてフィエルテが胸まで湯に浸かると、後からプリームスが湯舟に入って来た。

それもフィエルテの前にだ。

小柄なプリームスがフィエルテの胸に背中を預け、もたれる形になった。



小柄だが真っ白で扇情的な肉体が、フィエルテに全裸で密着している。

湯に浮かべられた薬草の優しい香りと共に、プリームスの匂いがフィエルテの鼻腔を刺激した。

何とも柔らかな甘い女の子の香りだった。



堪らずフィエルテはプリームスを抱きしめてしまった。

無意識な自分の行動に驚くフィエルテ。

そして我に返りフィエルテがプリームスから離れようとした時、

「構わん・・・お前は居心地が良い、そのままでいなさい」

そうプリームスが静かに言った。



フィエルテは何だか色々許されたようで嬉しくなってしまう。

『触れ合いも許すと言っておられたが、どの程度の事なのか・・・』

そう疑問が浮かび試したくなってしまった。



プリームスを優しく抱きしめたまま、フィエルテは手をゆっくりと動かした。

別に何をどうこうする訳ではなく、手のひらでプリームスの胸や鳩尾辺りに触れて感触を確かめたのだ。

「プリームス様は美しい肌をされていますね。それにとっても柔らかくて羨ましいです」



プリームスは居心地よさそうに瞳を閉じると言った。

「そうか? フィエルテも十二分に美しいと思うがな。それにお前に触れられると不思議と安心する」



そう言われて少しドキッとしてしまうフィエルテ。

そして今気になった事が口を突いた。

「プリームス様は女性が好きなのですか?」



「うん? う~ん・・・そうだな男よりは女の方がいいな」

と少し考えた後、プリームスは答える。


それは詰まりフィエルテを”そう言った目”で見ると告げているように聞こえた。

ドキドキしっぱなしのフィエルテは尋ねずにはいられない。

「で、では、私のような者でも、プリームス様の夜伽のお相手は可能と言う事ですか?」



瞳を開いたプリームスはゆっくりとフィエルテの方に身体を向けた。

それから半身でフィエルテに密着したプリームスは、片手でフィエルテの頬に触れる。


「今日出会ったばかりだと言うのに気が早い奴だな。まあそんな気分になったら頼むとしよう・・・」

そう言ってプリームスはフィエルテに優しく口づけした。



そうして何も無かったようにフィエルテの胸に背を預けるプリームス。



フィエルテは顔を真っ赤にして呆然としてしまった。

口づけされた事でそうなってしまったのだが、自分が夜伽を買って出るような事を言ってしまったからでもあった。



『恥ずかしい・・・』



そのフィエルテの気持ちは、元王女であるという誇りからくるものでは無い。

プリームスに色情的な女だと思われる事への羞恥心から来るものであった。

そして自分がプリームスと言う超常で絶世の美少女の虜になっている事に気付く。



これが本当に自分を必要とされ、自分も必要とする”身内”と言う関係なのかとフィエルテは知った。

気持ちが満たされ恍惚とする中、フィエルテは更に追い打ちを貰う事になる。



「フィエルテに贈り物をやらねばな。私の”身内”となった証といっても良いだろう」

そうプリームスは言って、2cm程の”只の石”を指で摘まんでフィエルテに差し出した。



「これは・・・何でしょうか?」

不思議に思ったフィエルテはプリームスに尋ね、その石を受け取った。



するとプリームスが自身の右手にはめた指輪を見せる。

「それを5分程握っていろ。それでフィエルテ用の収納道具を作ってあげよう。同じような指輪で良かろう?」



収納道具・・・。

恐らく収納魔法が付加された道具の事を言っているのだろうと、フィエルテは直ぐに気付いた。

しかも”それ”が小さな指輪で可能らしいのだから驚きだ。



自分の知る常識を覆し続けるプリームスに、フィエルテは只々尊敬の念と愛しさが募るばかりであった。





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