第46話・隣国の陰謀(1)

プリームスがフィエルテを連れて食堂に来ると、既にクシフォスとスキエンティアが席についていた。



スキエンティアが嬉しそうな表情でプリームスを見ると、

「あぁ~、やはりその衣装は良くお似合いですね。それを選んで正解でした」

そう言ってウットリした。



『やはりこれを選んだのはお前か!』

と内心でプリームスはぼやく。



クシフォスはチラチラとプリームスを見たり見なかったり。

どうも目のやり場に困っているようだ。



フィエルテがプリームスの為に椅子を引く。

王女だったと言うのに仕える側の所作を良く心得ていると、プリームスは思い席についた。



旅先で給仕する者が居ないというならいざ知らず、ここはクシフォスの屋敷なのだ。

侍女もいて執事に相当するナヴァルもいる。

そう言う訳でプリームスは、フィエルテに自分の傍の席に座るように言った。



すると少し畏まった様子でフィエルテが答えた。

「え・・・いえ、主と席を並べて食事など滅相も有りません。それに私は奴隷として、プリームス様の護衛として買い上げられたと思っていますので、食事は皆さま方が済まされた後に別室で頂きます」



クシフォスが呆れたように言う。

「その奴隷と言うのは成り行きだろ・・・奴隷商に身を隠すためのな?」



スキエンティアも諭すようにフィエルテへ話し出す。

「元の身分を捨て己の立場を良く理解している・・・と言いたい所ですが、そのような振舞いはプリームス様が喜ばれませんよ」



2人にそう言われてフィエルテは恐る恐るプリームスへ視線を向けた。

するとプリームスは残念そうな、そして不満そうな、とても微妙な表情をしていた。


フィエルテは戸惑いプリームスへ訪ねてしまう。

「私は・・・どうしたらプリームス様が喜ばれるのか分からないのです。申し訳ありません」



少し呆れた様子でプリームスは溜息をつくと、

「当初の目的は、スキエンティアの提案で護衛探しだった。だが私はそんな事は関係なく、フィエルテが気に入ったのだ。お前は私の従者ではあるが、私はお前の事を”身内”だと思っている。ならばそれに準じろ」

そうぶっきら棒に言った。



そう言われてもフィエルテは戸惑ったままだった。

「・・・・」



今度はスキエンティアが溜息をつくと話し出した。

「つまり、プリームス様は貴女を家族だと仰ってくれているのです。そして私も同じ家族です。私はプリームス様を主として仕え、師として崇め、そして親の様にお慕いしています。貴女もそうすれば良いのです」



自分の命を超常の魔法で救ってくれたプリームス。

フィエルテからしてみれば神に等しい存在なのだ。

その上、新しい人生まで与えてくれた。

そんな人物に対してスキエンティアは、只の主として更に親の様に接しろと言うのだ。



奴隷のように、そして只の従者として扱われる事をフィエルテは覚悟していた。

それなのにこんな言葉をかけられるとは思いもしなかった。

故にその優しさに触れて泣きそうになってしまう。



しかしグッと堪えてフィエルテは恭しくお辞儀すると、プリームスに指定された通り隣の席に着いた。



皆が席に着くと侍女達が給仕作業を始めた。




取り合えずは軽く食前酒としてワインを一口含み、プリームスは席に着く全員を見渡す。

クシフォスはプリームスから聞きたい事が有るようで、話し出すのを待っているようである。



「昨日の死神アポラウシウスと、フィエルテの件は繋がりが有るかもしれん」

そうプリームスが独り言のように言った。



驚いて目を見張るクシフォス。

フィエルテはと言うと訳が分からない様子だ。

一方スキエンティアは、思案する様子で何か気付いたようだった。



少し取り乱すようにクシフォスが反論してきた。

「おいおい! それは飛躍しすぎだろう。根拠は有るのか?」



「隣国のセルウスレーグヌムだったか? その王の葬儀はこの国から誰が参列するのだ?」

とプリームスはクシフォスの問いを問いかけで返した。



逆に問われて戸惑うクシフォスは少し考えた後答えた。

「確か・・・我が王の代理としてレクスアリステラ大公が向かった筈だ」


プリームスも一瞬思考した後に言った。

「確かクシフォス殿と対になる政治の最高管理者だな? 宰相になるのかな?」



再び問われて今度はすんなり答えたクシフォス。

「ああ、宰相だ。葬儀に出向いている間は、後継ぎの息子が代役をしていると思う」



するとプリームスはニヤリと笑みを浮かべた。

「もしフィエルテの父を暗殺するよう指示をした者と、死神アポラウシウスへ死熱病原虫に感染した蚊を、この町へ放つように指示した者が一緒なら・・・どうなる?」



「んんん?!」と思考が混乱気味のクシフォス。



フィエルテはそもそも昨日のアポラウシウスの件を知らないので、よく分かっていないのは仕方ない。



いつものようにプリームスとスキエンティアは互いを見つめて、

『脳筋だな・・・』

『脳筋ですね・・・』

と内心で通じたように呟いてしまった。



仕方なくプリームスは、クシフォスが分かり易いように説明してやる事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る