第45話・プリームスとフィエルテ(2)
フィエルテがプリームスの為に持ってきた衣装は、確かに涼しそうである。
しかし、何と言うか・・・露出?が凄いとプリームスは思ってしまう。
『これは下着姿より卑猥な気がしてならないのだが・・・』
その衣装は黒のレース布地で、下着と肌が薄っすらと透けて見えてしまうのだ。
形もフィエルテが今着ている物と同じワンピースドレスで、裾丈も同じように短い。
背中やデコルテ部分も同じく開いていて、プリームスが着ると更に扇情的に見えてしまった。
フィエルテが嬉しそうに、
「プリームス様、良くお似合いです。それにお揃いで何だか嬉しいですね」
と少し興奮した様子で告げる。
プリームスとしては涼しくて、しかも着心地も悪くないので問題は無かった。
しかし周りがどう見るかは若干心配である。
まぁ下着姿で屋敷内を徘徊されるよりはマシだと思うだろうし、取り敢えずは体面も保てる?だろう。
食堂は一階にあるので、プリームスはフィエルテを連れ立って向かう。
何度か食堂を使用しているので場所を把握していたプリームス。
特に案内は必要無く、先々と屋敷内を進んで行く。
それを付き従うようにフィエルテが後を追う。
何だか非常に視線を感じでプリームスは足を止めた。
背後から刺す様に鋭い視線を送っていたのはフィエルテであった。
プリームスは背後のフィエルテを見やると、
「済まんが、お前の視線が気になって仕方ない。何か私に恨みでもあるのか?」
そう冗談まじりに問いかけた。
慌てて否定し頭を下げるフィエルテ。
「滅相も無いです!」
そして恥ずかしそうに俯き言った。
「プリームス様の後ろ姿が余りにも可愛い・・・いえ美し過ぎて、それで見惚れてしまったのです」
訝しむように自分の後ろ姿を確認するが、前なら未だしも後ろは良く見えなかった。
当たり前の事に今更気付いて舌打ちをするプリームス。
そんな様子を見てフィエルテが小さく笑った。
それから慌てて居住まいを正すと、
「失礼いたしました・・・どの部屋にも姿見があると思われるますので、確認されますか?」
とプリームスに提案した。
プリームスは少し気になってしまったので、フィエルテの提案に乗る事にした。
頷くとフィエルテは直ぐ側にあった部屋の扉を開けて中を確認しだす。
「姿見がございました。どうぞこちらへ」
そうプリームスに告げるフィエルテは、恭しく誘うように手を差し出した。
何だか色々と様になっているな・・・とフィエルテの所作にプリームスは感心する。
『やはり王女であった事が関係しているのだな。スキエンティアにフィエルテの爪の垢でも飲ませてやりたいくらいだ』
しかしスキエンティアは生まれ持っての王族な訳でも無く、プリームスの腹心であり軍師なのだ。
しかも叩き上げであり、フィエルテのように振る舞えと言うのが無理な話であった。
そして少し考え直す。
『まぁあれはあれで洗練された所作だし、私の思いは我儘なのかも知れんな・・・』
部屋の中に入り入り口付近に有った姿見で、プリームスは自身の後ろ姿を確認する。
「むむ・・・」
プリームスは少し驚いて声が漏れてしまった。
着る時には特に何も意識していなかったのだが、このワンピースドレスは後ろがスケスケだった。
背中部分は元々割と大きく開いていたのだが、腰辺りからスカート部分の裾先辺りまで何故か極薄のレース布地で出来ている。
その為、肌も下着もスケスケなのだ。
フィエルテは楽しそうにプリームスを褒めた。
「この出で立ちで装飾品と合わせれば、グッと引き立ちますね。会合や夜会などに出れば注目の的ですよ」
それを聞いてプリームスはげんなりした。
夜会などプリームスからすれば以ての外である。
以前いた世界では否応なしに参加したり催したりしたが、それも最小限に留めていた。
そもそも武人気質であるプリームスが、"社交界"など好きな訳が無かった。
それに折角新たな世界で新たな人生を歩むと言うのに、嫌いな事をするなど馬鹿の極みである。
「別に他人に見られてもどうとも思わんが・・・社交の場で貴族達や王族相手におべっかされるのも、するのも御免被る」
と嫌そうにプリームスは言い放った。
フィエルテは意外そうな表情をした。
「プリームス様はそう言った事も得意かと思っておりましたが・・・社交界はお嫌いでしたか?」
「うん? 何故私が得意だと思ったのだ?」
そう不思議に思いプリームスはフィエルテに問いかけた。
少しおずおずとした様子でフィエルテは答える。
「スキエンティア様がプリームス様の事を"陛下"と呼んでおられましたので・・・。そのような立場であるなら、社交の場も得意かと勝手に判断してしまいました」
プリームスは溜息が出てしまった。
『スキエンティアがうっかり私の事を、"陛下"などと呼ぶからこんな事になる』
今はもう魔王ではないのだ。
ただの一個人にプリームスは過ぎない。
故に傍にいる者に要らぬ勘繰りをされるのは、プリームスにとって迷惑甚だしいのだ。
畏まって身を縮めるフィエルテ。
プリームスが機嫌を損ねたと思ってしまったのだろう。
このように過剰に畏敬されるのも今となっては余り良い気分では無い。
もう少し気を緩めて欲しいと考えたプリームスは、その気持ちを素直に伝えた。
「フィエルテ、私が"王"であったのは以前の話だ。敬ってくれるのは嬉しいが、畏れないで欲しい」
そしてプリームスはフィエルテに近づき、ソッとその頬に口付けすると、
「それにこれから先、長い時を共に過ごすのだ。そんなに畏まっては身が持たんぞ」
そう優しく言う。
するとフィエルテは驚いた様子で固まってしまった。
『やれやれ・・・この程度でビックリされては先が思いやられるな』
プリームスは内心でそうほくそ笑むと、フィエルテの手を取って食堂へ向かうのであった。
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