第38話・新たな仲間は、やんごとなき身分
プリームスがその身を呈して救い出したフィエルテは、非常に美しい女性だった。
まさかそれを見越してプリームスが従者に選んだのではと、スキエンティアが勘繰るほどにだ。
美しく輝くような金髪に、整った顔は麗人と呼ぶにふさわしい。
体形も抜群でプリームスやスキエンティア程ではないが胸も大きく、腰も引き締まっていて中々に扇情的だ。
そして身長は女にしては少し高い170cm位で、スキエンティアより僅かに低い程度。
護衛としては取り合えずは及第点の体格である。
一方フィエルテの護衛対象であり主人であるプリームスは、気を失ってからまだ目を覚ましていない。
心配ではあるものの、命の危険性は無さそうなのでスキエンティアとクシフォスは胸を撫で下ろした。
元の姿を取り戻したフィエルテ。
それを目の当たりにしてタクサは驚愕し、何故か涙を流した。
「フィエルテ様・・・」
クシフォスが"フィエルテ"と言う名を聞いて眉をひそめる。
そしてクシフォスの様子がいつもと少し違う事に、スキエンティアは敏感に感じ取っていた。
スキエンティアはプリームスを優しく抱えたまま個室から出ると、後から続いたクシフォスに耳打ちする。
「何か事情をご存知のなのですか?」
「う〜む・・・俺の記憶違いでなければ・・・。兎に角、支配人から話を聞いた方が早いだろう」
とクシフォスは小声で答えた。
個室の中では、奴隷が着る薄布一枚を着て立つフィエルテの前に、タクサが膝をついていた。
「フィエルテ様・・・元の、元の美しい姿を取り戻された!このタクサ、感涙に堪えません」
フィエルテはタクサの前に屈み込み、その顔を見つめた。
「タクサ、ありがとう。貴方が私を助け出し、ここに連れて来てくれねば、あの美しい方に出会う事も無かったでしょう。そして救われる事も無かった」
タクサは小さく首を横に振る。
「礼など必要ありません。私は貴女様の臣下なのです、当然の事をしたまでです」
タクサの肩に手を置くと、
「それでも言わせてほしい。ありがとう」
そう言った後フィエルテは立ち上がった。
心配そうに見上げるタクサ。
「これからどうされるのですか?」
フィエルテはタクサを安心させるように笑顔を浮かべ言った。
「あの美しい方に、プリームス様に付き従うと決めている」
少し俯くとタクサはしょんぼりした表情をする。
「左様ですか・・・」
そして努めいて笑顔を見せて言った。
「私はいつまでもお待ちしております。貴女様のおかえ・・・」
タクサが全て言い切る前にクシフォスが割って入った。
「盛り上がっている所すまないが、ちょっといいか?」
フィエルテは少し慌てて個室の外に居るクシフォスを見やった。
勝手に2人で盛り上がってしまい、クシフォス達を置き去りにしてしまった事が恥ずかしかったのかもしれない。
「は、はい!」
タクサはと言うと、感動の場面を全て表現する前に邪魔をされて、ご機嫌斜めの様子だ。
クシフォスは自分の姿が分かり易いように、個室の入り口から離れ明るい通路に身を晒した。
「俺が誰だ分かるか?」
クシフォスを見つめるフィエルテ。
そして「あっ!」と声を洩らした。
フィエルテは個室から出てクシフォスにお辞儀をすると、恭しく告げた。
「ご無沙汰をしております。レクスデクシア大公爵様・・・」
「やはりか・・・」とクシフォスは呟く。
そして溜息をつくと、少し驚いた様子で言う。
「以前会った時は3年ほど前になるか。まさか幼名を名乗っていようとはな」
スキエンティアが訝しげにクシフォスへ尋ねた。
「お知り合いなのですか?」
困った様子で答えるクシフォス。
「知り合いも何も、隣国の姫だ。しかも王位継承権1位だぞ」
申し訳無く俯いているタクサを、クシフォスとスキエンティアの目が射抜いた。
更にクシフォスがここぞとばかりにタクサを問いただす。
「詳しい話を聞かせて貰おうか、タクサ支配人。何故俺の町に隣国の姫が居るのか? それにその臣下が何故ここで奴隷商をしている?」
クシフォスに気圧されて萎縮してしまい、
「あわわゎ」
としかタクサは言わなくなってしまう。
見かねたフィエルテがクシフォスの傍まで来ると、
「申し訳ありません。レクスデクシア大公爵様、詳しい話は私が致します。ですからタクサの事はご容赦願えませんか?」
そう言い頭を下げた。
「分かった分かった・・・。それよりその堅苦しい呼び方は止めてくれ! クシフォスでいい」
と頭を掻きながらクシフォスは言う。
するとフィエルテはスキエンティアが抱きかかえるプリームスを見つめた。
「我が主人の容態も心配ですし、どこか落ち着ける場所に移動しませんか?」
静かに頷くスキエンティア。
フィエルテはタクサに目配せする。
「承知しました。では皆様方、こちらの方へ」
と落ち着きを何とか取り戻したタクサが、一同の案内を始めた。
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