第12話・大公とリヒトゲーニウス

朝食を済ませた後、プリームス達は一旦この森を脱出する事にした。



元々この混沌の森から出るつもりでいたプリームス。

その前に山頂へ到達して見渡し、全容を出来るだけ目で確認したかった。



しかしクシフォスが村を助けたいと言うなら方針を転換するしかない。

死熱病は待ってはくれないのだから。



クシフォスが言うには混沌の森に隣接する村が、死熱病らしい風土病に見舞われているとの事だ。

急がねば死人が続出するだろう。


問題はどうやって混沌の森を抜けるかだ。



クシフォスの説明によると、南下すればいずれ森を抜ける筈らしい。

何とも大雑把な・・・。


もし混沌の森の北側に自分達が居たなら、大陸を縦断する程の苦労を強いられる事になるだろう。

プリームスはクシフォスの説明を聞いていると、それくらい混沌の森は広大だと認識が出来た。



不安な雰囲気がプリームスから漏れたのか、クシフォスが補足をする。

「心配しなくてもいい。いい道具が有ってな、それで方角と王都までの距離と方向が分かるんだ」



「それを早く言ってくれ・・・無駄に気を揉んだ」

と不機嫌になるプリームス。



クシフォスは頭を掻きながら苦笑する。

「いやぁ〜すまない。とりあえず祖国の王都までの距離は150km程だ。方角は南で問題無い」


そして懐から方位磁石を取り出し話を続けた。

「王都から混沌の森境までは100km程の距離がある。つまり混沌の森を出るには50km南下すればいい」

どうやら良い道具とは、魔法の品らしい。



なるほど・・・と頷くプリームス。

だが目的地は王都では無く、混沌の森に近い位置にある村だ。


しかも1、2ヶ所で済む話でもなさそうだし、どうするつもりなのかプリームスは再び不安になる。

なら問うだけだ。

「村の位置はちゃんと把握しているのかね?迷って時間の無駄はしたくない」



クシフォスは方位磁石を仕舞うとプリームスに笑みを向けた。

「心配ない。そもそもは俺の領地だからな」



「ほほう」

と少し驚くプリームス。

ならば話は早い。



プリームス達は森を南に歩き始めた。

そして目的地に到着するまで幾らでも時間がある。

その時間を利用してクシフォスに話し相手になってもらおう。


そう思いプリームスはクシフォスに疑問をぶつける事にした。

「クシフォス殿、貴方はかなり高い地位にあるようだな。良ければ国の事や、貴方の事を話して貰えないか?」



クシフォスは少し思案すると頷いた。

「俺は特に話せない事も無いしな、構わんよ。ただ、貴殿達の事も正直知りたい。話せる範囲で構わんゆえ」



二つ返事で承諾するプリームス。

「うむ、勿論だ」



プリームスは鬱蒼としげる木々を巧みに躱しながら軽やかに進んで行く。

しかも方位磁石はクシフォスが持っていると言うのに、プリームスは先頭を進むのだ。

まるで方角が分かっているかの如く。



それもそのはず、プリームスは地磁気を探知し方角を示すブレスレットを身につけていたのだ。

訳を知らない者からすれば不思議でならないだろう。



隊列としては、何故か先頭がプリームス。

真ん中にクシフォス。

そして索敵魔法を使用しながら最後尾を務めるスキエンティアとなる。



勿論プリームスはアナライズの魔法を使用しながら進むのだ。

今のところ魔物も出現しておらず、スキエンティアの索敵にもかからない。


危険探知はスキエンティアに任せて、プリームスはクシフォスと先程の会話を進める事にした。

「クシフォス殿・・・さっきの続きだが、領土を持っていると言う事は爵位持ちな訳か?」



いきなり会話を始められて、不意を打たれた様子のクシフォス。

「うん? ああ・・・うむ、実はこれでも偉くてな、大公だ」



予想を上回る返答に少し驚くプリームス。

彼が大公爵だという事よりも、大公爵位持ちが何故こんな所に居るのか、そちらの方が驚きだった。



「う〜ん」とプリームスは、歩を進めながら唸る。

「大公か・・・なら王族だな。では、そのクシフォス大公閣下が何故このような場所に出向いたのかな?」



苦笑いしながらプリームスの後を進むクシフォス。

「おいおい、止めてくれ。この混沌の森では爵位など何の意味も持たない。それに命を救われた恩もあるしな・・・今後も立場や地位に縛られない、同等の"友人"関係で居よう」



背後のクシフォスを一瞥し「フッ」と小さく笑うプリームス。

「クシフォス殿がそう言うのなら、私は構わないが」



クシフォスはそんなプリームスを感心した様子で見つめた。

「俺の地位を知って物怖じしないところを見ると、貴殿は止ん事無い身分の人間なのだろうな」



プリームスは少しとぼけた仕草ではぐらかした。

「さて、どうだろうね。それで、クシフォス殿の祖国は何と言う国なのかな?」



体格が大きいせいか、生茂る木々が邪魔なのだろう。

クシフォスは短剣で枝を払い切りながら答えた。

「リヒトゲーニウスと言う国だ。南方連合の議長国で、国力は南方最大と言われている」



リヒトゲーニウス・・・古代マギア語で"光の守護神"と言う意味だ。

何故、魔界マギア・エザフォスでも忘れられた古代マギア語が、この世界で使われているのか?


謎が有れば興味も絶えない。

ようやくプリームスは別の世界へ来たのだと実感し始めたのだった。

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