第13話・もう一人の大公
クシフォス・レクスデクシアが属するリヒトゲーニウスは、王国である。
つまり王が治める国だ。
そしてクシフォスは王の次に序列が高い大公の地位にある。
混沌の森に隣接する危険と隣り合わせの領土ではあるが、最も広大な領土をクシフォスは所有しているらしい。
プリームスは気になった事を率直に訊いた。
「クシフォス殿は、どういった役職に就いているのかな? それに大公もクシフォス殿以外に居るのかい? あ~あと、政の運用構成は、どういった感じなのかも気になる」
矢継ぎ早に問われ、困ってしまうクシフォス。
「まぁ~まてまて・・・説明できる範囲で順に話そう。まずは俺の役職か・・・」
最後尾で笑いを堪えるスキエンティアが見えた。
クシフォスは咳ばらいを1つすると、徐に説明を始める。
「一応、王国で軍部の最高責任者を務めている。軍階級は大将で、統帥権もある・・・凄いだろう?それから役職は軍司令になる」
プリームスは少し考えながらクシフォスへ振り向いた。
「最高軍司令でないのは、国王がその責にあるからかな?」
クシフォスは頷く。
「まあそう言う事だ。国王陛下は建前上、元帥位にあるからな。実質、俺が最高軍司令と言う訳さ」
視線を前に戻し軽快に森の中を進むプリームス。
その声は少し感心した雰囲気を含みつつも、からかう様相も含んでいた。
「クシフォス殿は、思ったより凄い人なのだな。なのに、こんな所で油を売っているとは・・・」
苦笑いが板について来たクシフォスは、弁解をグッと堪え説明を続ける。
「その事は後で詳しく話す。まずは順を追って・・・え~と、他の大公か。俺以外にもう一人だけいる」
プリームスの嬉しそうな声がした。
「当てようか・・・その大公はクシフォス殿とは真逆の、国政を司っているのだろう?」
感心したように驚くクシフォス。
「お~、良く分かったな。どうしてだ?」
後ろからスキエンティアが笑いつつプリームスの代わりに答えた。
会話に突っ込みたくて仕方なかったのかもしれない。
「序列2位不要論ですね。最高権力者の下に、次に権威を持つものを置かない・・・争いの原因になるからです」
それを聞いたクシフォスが首を傾げた。
「うん? 変じゃないか? 実際に俺は陛下の次に権威?、権力を有しているぞ」
苦笑するスキエンティア。
「いえ・・・ですから、貴方と相対するように国政ですが同等の権力を持っているでしょう? その大公が・・・」
補足するようにプリームスが続けた。
「国王の下に、同等の権力を持つ大公を2人置く。こうすれば権力の分散が起き、国王を脅かす力にはなり難い。逆に国王に何かあった場合役割を分担している為に、大公2人が権力闘争せず協調するしかないと言う事だ」
頭を抱えるように納得するクシフォス。
「う~む・・・なるほど。感覚で分かっていた事だが、いざ言葉で説明されると己が立場の重要性が身に染みるな」
振り向くプリームスとスキエンティアの目が合った。
『こやつ・・・脳筋だな・・・』
『この方、脳筋ですね・・・』
そして笑いそうになったが我慢する二人。
クシフォスに優れた用兵の才がありそうだが、、政治的な能力は皆無に見える。
故にプリームスが思うに、もう一人の大公はかなりの切れ者の筈。
でなければ国を運営していく上で均衡が取れないからだ。
恐らく2大大公がそれぞれ歴代に渡って軍部と政治を司って来たのだろう。
つまり大公の家に生まれれば、国の為に英才教育が施されるに違いない。
そうして血と家柄が国を支える機構に組み込まれ、国の繁栄につながるのだ。
プリームスとしては、もう一人の大公がどう言った人物なのか気になった。
「政治を司っている大公は、どのような人物なのかな?」
クシフォスは少し思案するような顔をした。
「う~む・・・まあ一筋縄ではいかん御仁だな。名はノイモン・レクスアリステラと言う。歳は俺より10は上だった筈ゆえ、50歳をまわったくらいか」
「ふむ・・・」
プリームスはもう一人の大公ノイモンに興味が沸いた。
優秀な人物に対して興味が沸く。
それは元魔王として、そして統治者だった者としての職業病のような物なのかもしれない。
しかしここは興味本位で首を突っ込むべきではないだろう。
プリームスは歩みを進めながら意識は過去を思い返す。
100年もの間、
正直、疲れたし飽きてもいた。
だからこの世界ではのんびりしたいと思っている。
まさにジレンマであった。
急に無言になったプリームスを心配して、クシフォスが声をかけて来た。
「プリームス殿? 何か気がかりな事でも?」
我に返ったプリームスが自嘲するように笑む。
「いや・・・自分の欲望と希望を、同時に満たすのは難しいと思ってな」
するとクシフォスがプリームスに笑い返した。
「あぁ~それは人間にとっての永遠のテーマだな。欲望が無ければ生きれんし、かといっていつも満たされる訳でもない。それに希望が無ければ生きる意味が無いし、これもまた必ず叶う物でもない・・・」
そしてクシフォスも自嘲する。
「まさに人とは矛盾の塊だな・・・」
クシフォスが同じような気持ちを持っていて、笑いが漏れそうになるプリームス。
その後、国政に関する詳しい事を聞こうと思ったが止めにした。
軍人であるクシフォスでは要領を得んだろうし、何より首を突っ込み過ぎるのは良くないと思ったからだ。
そう思った矢先、クシフォスが首を突っ込んできた。
「次は、貴殿達の話を聞いてみたい」
まあそうなるよな・・・とプリームスは溜息をついた。
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