第2話・終幕の決戦
それは自身の髪の様に赤く燃え盛っていた。
魔王プリームス・バシレウスの代名詞とされる神器──”炎魔剣”。
只の武器や防具で受けようものなら、簡単に切り裂き熔解させてしまう恐ろしい剣だ。
プリームスはそれを掲げると、
「さあ来るがいい・・・全身全霊をもって!」
ディケオスニーが美しい装飾が施された、純白のバスタードソードを脇構えに持つ。
騎士ベーネは兜のフェイスガードを下ろすと、腰に下げていた黒いロングソードを抜き、左に盾を構えた。
魔導士のペンシエーロは2人の後方で微動だにせず、プリームスを見つめている。
いつでも援護し、攻撃も出来るように様子を見ているのだ。
プリームスは一歩踏み出す。
「そちらから来ぬなら私から行くぞ」
炎魔剣が振り下ろされ、紅蓮の炎を纏った斬撃が床を伝い勇者達を襲う。
そして先頭にいたディケオスニーに直撃する。
鉄や岩石をいとも容易く溶解させる炎魔剣の斬撃を受ければ、いかに人類最強の勇者でもひとたまりも無い。
しかしそうはならなかった。
紅蓮の斬撃がディケオスニーの目前で四散したのだ。
魔導士ペンシエーロが何かしたのか?
いや、そうでは無かった。
彼は未だ微動だにしていない。
ディケオスニーは自身の持つ純白のバスタードソードを床に突き刺し、それを盾にして紅蓮の斬撃を防いだのだ。
プリームスは静かに言った。
「聖剣か・・・」
床からバスタードソードを引き抜くディケオスニーは、不敵な笑みを浮かべた。
「教会の至宝、サクロ・エスパーダだ。防御に徹さえすれば、あらゆる攻撃を無効化する事が出来る」
「ならば、直接斬るだけだ」
そう言い放ち勇者達へ猛進するプリームス。
瞬時に間合いを詰め振り下ろされたプリームスの刃が、ディケオスニーに迫った。
咄嗟に聖剣で受け止めるディケオスニー。
受け止めた一閃の重さに右足が石の床に沈む。
次の瞬間、プリームスの左側面を黒い斬撃が襲いかかった。
プリームスが攻撃した直後を、ベーネが間髪入れずに斬りかかったのだ。
それはプリームスにとって完全な死角であり、防御も回避も不可能な完璧な”間”だった。
しかしベーネのロングソードの刃はプリームスには到達しない。
ガラスの様に薄い障害物が、ベーネの攻撃を受け止めていたのだ。
突如出現したそれはベーネの一閃が強力だったせいか、その直後にガラスが割れるような音と共に四散する。
ベーネは舌打ちすると呟いた。
「魔力障壁か!」
プリームスが一瞬、ベーネを一瞥し笑ったように見えた。
危険を感じ咄嗟に盾を構えるベーネ。
同時にプリームスの左手がベーネへかざされる。
「
超至近から放たれた火炎魔法が、ベーネの盾に直撃し爆煙と炎を巻き上げた。
盾の性能のお陰か、なんとか消し炭に成らずに済んだ。
しかしベーネは爆圧で、後方に大きく跳ね飛ばされてしまう。
一方、ディケオスニーはプリームスの炎魔剣を受け止めたまま動けずにいた。
女の細腕とはとても思えない膂力で、ディケオスニーは押さえ付けられていたからだ。
ディケオスニーが耐えかねて、膝を付きそうになる。
その時、青白い5つの光弾がプリームスに迫った。
ペンシエーロが
プリームスは膝を付きかけて姿勢が低くなっていたディケオスニーに鋭い蹴りを放つ。
咄嗟に聖剣をずらし蹴りを受け止めると、ディケオスニーはもんどりを打って後方へ5m以上も吹っ飛んでい行った。
そしてプリームスは飛来する
「その程度か・・・?」
プリームスは残念そうに呟いた。
ディケオスニーは立ち上がると、唖然とした様子で告げる。
「恐ろしい人だ・・・見た目はこれ程に可憐で儚そうなのに、驚愕する程の膂力と戦闘技術・・・」
「それに強大な魔力だ」
とベーネが立ち上がり続けた。
渋い顔をしながら顎を触るペンシエーロ。
「全く魔王てのは化け物なのか? 3人がかりで子供扱いとはな・・・」
不服そうにプリームスが顔をしかめた。
「失礼な事を言う・・・まるで私が筋肉女のようではないか」
苦笑するディケオスニー。
「そう言う訳では・・・ただ自分が知る魔族とは根本的に強さが違い過ぎる。貴女と直接剣を交えるのは初めてだが、魔王とはこれ程のものなのか?」
プリームスはディケオスニーを見つめて静かに語る。
「私は武術を極める為に100年を費やした。次に魔術を極める為に再び100年を費やした・・・。人間である卿らには理解出来ぬだろう。到達した武の極致、解き明かした魔術の本質」
そしてプリームスは炎魔剣の切っ先をディケオスニーに向けた。
「だが私の強さを理解出来ぬからと言って、尻尾を巻いて逃げる訳にもいくまい? ならば見せてみよ・・・人間には神とやらから得た奇跡の力があるだろう」
ベーネが盾を前にかざし、黒いロングソードをまるで弓の弦を引くように構えた。
「我らを侮るなよ、魔王!」
プリームスは直ぐに見抜いた。
大騎士はシールチャージから剣の突きを連携させるつもりだと。
大魔導士ペンシエーロが杖を掲げて言い放つ。
「我らは死を覚悟してここに来た。命を燃やす一撃を思い知らせてやろう!」
ペンシエーロのまとう魔力の性質が変わったように見え、次の刹那、彼は静かに呟いた。
「
突如プリームスの足元におびただしい漆黒の茨が出現する。
危険と判断したプリームスは即座の後方へ跳躍するが、出来なかった。
その漆黒の茨は、瞬時にプリームスを覆い尽くしてしまったからだ。
「む!? これは・・・固有魔法か?」
ペンシエーロが更に魔力を注ぎ込む・・・顔面の穴と言う穴から血が滴るほどに。
自身の限界を超えたその行動は、ペンシエーロの肉体に極端な負荷をかけてしまったのだ。
その甲斐があってか束縛するだけに止まらず、強烈に締め上げ食い込んだ茨がプリームスの肉体を傷付け続ける。
苦痛の余りプリームスから少女のような小さな悲鳴が漏れた。
「くぅ、ぅ」
大騎士ベーネは、この機会を見逃さなかった。
魔法の盾をプリームスにかざし特攻したのだ。
ベーネの凄まじい速度のシールドチャージが、漆黒の茨に覆われたプリームスの腹部に直撃する。
鈍い衝撃音が辺りに響き渡った。
どこか内臓の一部を損傷したのか、プリームスは吐血しその血がベーネの盾に降りかかる。
だがベーネは攻撃の手を緩めない。
即座に剣による突きをプリームスの首に放つ。
甲高い金属音がした。
ベーネの突きは重厚な魔力障壁によって阻まれたのだ。
プリームスは苦痛に顔を歪めながら口角を吊り上げた。
「残念だったな・・・弱点である場所に何の備えもしていないと思ったか?」
拘束されていた筈のプリームスが、茨の中から左手を突き出した。
その手は無防備なベーネを掴もうと襲いかかる。
だがプリームスの手は虚空を掴んでいた。
身体が何かの力に押され後退したのだ。
「!?」
何が起きたか直ぐには理解できなかった。
プリームスを覆っていた漆黒の茨は四散し、右の胸に熱い衝撃が走る。
確認すると、ディケオスニーの聖剣がプリームスの右胸に突き刺さっていたのだった。
『この程度の傷!』
プリームスはその強大な魔力で自己修復を行うために、左手で聖剣を掴み引き抜こうとする。
しかし身体に力が全く入らなかった。
ディケオスニーはプリームスに聖剣を突き立てたまま呟いた。
「我々の勝ちだ・・・」
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