飛翔
「そういえば私たちが初めて会ったときマーシャは何でこの泉に来ていたの?」
「ああ、臣下の中にも私が女だと知らない奴がいてな。 落ち着いて水浴びもできんのでここによく来ていたのだ」
そうマーシャは言う。
そっか、まだ水道設備もしっかりしていないのか。 屋敷ではお風呂も共用なのかな。
「じゃあ毎日ここに?」
「そうだな。 それにここは戒めでもあるし忘れないためにも来る必要があるのだ」
やっぱりここに長居するのはやめよう。 マーシャに悪い気がする。
「ナミ、休んでるところ悪いんだけどもう一回跳べる?」
「いけるニャよー」
ナミはいまだに魚を眺めている。
もう三時間くらい眺めているけど飽きないのかな……
「ちょ、ちょっと待て! まだ心の準備が……」
「じゃあマーシャ、目をつぶってみたら?」
そう言うとマーシャは目を瞑った。 けれど膝は明らかに震えている。
どれだけ怖いんだろう…… 私たちは落ちすぎてもう慣れちゃったんだけどなあ。
「じゃあ、いくニャよー」
『水よ、私たちを包み込まん』
私たちは手をつなぎ水をまとう。
さっきマーシャが気絶している間にいろいろと試行したからシャボン玉のようまとわすことができた。
泉の水を使おうか迷ったけどマーシャに悪いかなと思ったから使わないことにした。
「いついくのだ!? 跳ぶときは合図を」
「いくニャよ」
「今なん…… きゃああああああああああ!」
マーシャが言い終わる前にナミは跳んだ。 一瞬にして木々が豆粒ほどに見える高さまで上がってきた。
「駄主人様ー。 どこに降りるかニャー?」
私が景色を楽しんでいるとナミが話しかけてきた。 マーシャはというと私の手を握りしめながら震えている。
本当に女の子なんだなあ、とついつい思ってしまう。 そういえば何歳なんだろう? 見た目は二十代前半くらいなんだけどなあ。
そんなことよりどこに降りるか、だったね。
どこかにいい場所がないかと考えていると少し遠くに小さな村が見えた。
「ナミ、あそこの村まで届く?」
「少しきついニャね。 その手前の草原なら下りられそうニャ」
「じゃあそこまでの位置調整お願い」
「あいニャー」
ナミは周りの大気を蹴り始めた。 そんなことできるの!? と最初は思ったけど実際にできているからきっと蹴ることができているのだろう。
「マーシャ、もうそろそろ着くからねー」
「うう、早くしてくれないか……」
「あはは…… もうちょっと待ってね」
マーシャはもはや虫の息となっていた。 顔は真っ青で今にも気絶しそうになっている。
そんなに高いところが苦手なのかな。 次に跳ぶときはナミに低空にしてもらうように言ってみようかな。
ボヨヨーン
そんなことを思っていると目的の草原にたどり着いた、と思ったら。
「ガルルルルゥ」
下りてすぐのところになんとも狂暴そうな狼がよだれを垂らしながら私たちを見ていた。
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