けっとしー?

「駄主人様も聞こえたのかニャ?」


 洞窟の外からだんだんと足音が大きくなっている。


 音からして二足歩行の人型のなにかだと思う。 まだ力を使いこなせるわけじゃないしむやみに戦おうとするのは危険かな、と私は考える。


「うん、まっすぐこっちに向かってきてるね。 どうする?」

「駄主人様に任せるニャ。 私はそれに従うニャよ」

「任せるって言われても……」 


 アイコンタクトをして私たちは洞窟の最奥にある岩の陰に隠れた。

 

 モンスターかもしれないし、人だった場合も考えて防具兼服は着なきゃね。

 私の能力は水だからナミに浸かって大丈夫かな……


「ナミ、少し我慢してね」

「ニャ??」 


 私は自分の手を組み祈ってみる。


『水よ、わが衣になり給え』


 願うと同時にあちこちから水が集まっていき、私とナミを包み込んでドレス風の衣服になった。

 

 感触は水そのものだが重くはない。体の動きに合わせて形を変えているようだ。 

 そのことを考えると私の能力は分子レベルで水を操れるようだ。 ただし水以外の液体になると操れなくなるみたい……

 でも透明ではなく肌の色を隠すくらいの青色をしていることから光の屈折まで変えられるみたい。 便利だなぁ。 とりあえず水の羽衣って名づけようかな。


「感触は嫌ニャけど駄主人様の能力は結構便利なんニャね」

「そうみたいね。 いざとなったら相手を窒息させて倒せそうだし」

「その使い方は惨いニャね……」


 その直後、何かが洞穴に入ってきたため私とナミは身構える。

 いくら暗視が効いているとはいえ洞穴の入り口で明るすぎるため大まかなシルエットしか見えない。

 しかしそのシルエットを見る限り普通の人のように思える。


「あのー、誰かいますかー?」


 突然の呼びかけに驚いたがすぐに私とナミは目を合わせてどうするかを考えている。


(一応、村人みたいな人だけどどうする?)

(だからさっきから駄主人に任せると言ってるニャ!)

(う、うん。 わかった……)



「は、はいー。 いますよー」


 返事をしてみた。 これで敵だったら戦うしかないけどこっちは二人だし何とかなると思う。


「さっき空から何かが降ってきたみたいなんですが大丈夫でしたかー?」


 どうやら私たちのことを被害者側だと思っているみたい。

 このまま街かどこかへ連れて行ってもらおうかな。


「さっきのはびっくりしましたがケガとかはないです。 ご心配ありがとうございます」


 そう言いながら私たちは岩陰から出ることにした。


「あ、あなたがたは……」


 そこにいたのは白髪のオールバックでいかにも執事、のような服装の男性で気のいいおじいさんみたいな雰囲気を醸し出している。

 まずは、怪しまれないようにしなきゃね。


「驚くかもしれませんが旅をしている者です。 突然で申し訳ないのですが、ここの近くに町かなにかはありませんか?」


 今気づいたけど日本語が通じるんだね…… 最低限はやってくれるんだね。 あの死神。


「驚くなって言われても驚きますよ…… 水を操る猫人族ケット・シーなんて聞いたことないですし……」


 けっとしー? 何それ? もしかして私たちのこと、なのかな?

 と、とりあえず話を合わせておこう。


「ま、まあ珍しいですよね……」

「珍しいどころか歴史上にすらいませんよ! 猫人族ケット・シーは魔法に特化しているとは聞いたことはありますが水の魔法だけは使えないはず……」


 使えないって言っても私の力って魔法って分類になるのかな? じゃあこの世界では目立たないためにもあんまり使わない方がいいのかも。

 変に力を使って騒がれたら厄介だし。

 

「め、珍しさゆえに旅をしているのです。 変な輩に目をつけられては面倒なので」

「なるほど! もしかしてそちらの方も?」

「私はノーマルニャよ」

「そうですか、でも猫人族ケット・シーなのに猫巫女キャット・ウィッチに似ている雰囲気なんですね。 それもまた珍しい……」

「へえー、そうニャのね」


 ナミはあんまり興味がないのか、返事が雑だった。


「お二人にとても興味が湧いてきました! もしよろしければ私が仕えている主人の城でお話を伺ってもいいですかな?」


 うーん、悪い人じゃなさそうだしお城って言うくらいだからきっと安心だよね。

 一応ナミにも聞いてみよう。


(ナミ! ついて行っていいと思う?)

(怪しい感じもあるニャけどたぶん大丈夫なニャね)


 ナミがそう言うなら、きっと大丈夫だろう。

 それに城と聞いたら行ってみたくもなるわよね。


「お邪魔してもかまわないんですか? 私たちもゆっくりしたかったのでありがたいです」

「全然かまわないですとも! そこまで遠くないので私がご案内いたしますね」


 少し不安ながらも私たちは執事風の男性について行くことにした。

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