3 椚角柄

昼休みに、机と椅子の回収に向かった。


保護者会は大好評だったらしい。どうでもいい話題ほど、盛り上がる。なんとも人間らしい。


下駄箱。椅子。


回収せず、残しておいた。


体育館からの帰り道。


あの女子生徒が、椅子に座っていた。


こちらを見て、立ち上がる。


「あ、椅子はそこに置いとくんで、使ってください」


俺を分かったのか。珍しいな。

影が薄いのが利点であり欠点だった。人から、まず覚えられることはない。遠足のときなんか、思いっきり山に置いていかれたこともあった。


昔から、こうだった。

親もしょっちゅう俺を忘れる。だから、ひとりぼっちで泣かないようにスーパーで親がいる場所を把握したり、家の回りの地図を覚えたりしていた。

遠足のときも、少々時間がかかったけどひとりで下山してそのまま帰った。親も先生も気付かないうちに。


そんな自分を、ちょっと会っただけで、覚えてくれた。すこし、うれしかった。


「あの」


椅子に座らず、こちらに来る。


「お弁当、食べませんか?」


意図を図りかねた。女子生徒のお弁当を食べるのか、それとも、別のお弁当を同席して一緒に食べるという意味か。


「ぜひ」

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