友は彼女を寝取る

武州人也

「来て……」

「うん……」

 

 スマホの画面には、少年少女が一糸まとわぬ姿で折り重なっている様子が映っていた。やや髪の長い、白い肌をした眉目秀麗の少年が、少女の豊かな双丘に舌を這わせている。

 俺は、この二人のことを知っている。だから、画面の中のこの出来事は、他人事ではない。

 なぜなら、今この画面の中で体を重ねているのは、俺の彼女と、俺の昔の友だからだ。

 二人の体が、桃色に色づいていく。荒い息遣いは、そのままイヤホン越しに熱い吐息をこちらまで届けて来そうに感じさせる。交合を果たした二人が体を揺らす度に、聞き慣れた甲高い嬌声がイヤホンを伝って鼓膜を震わせる。

 やがて、上に覆い被さっている少年の体が小刻みに跳ねた。恐らく果てたのだろう。暫くして、少年はそっと一物を引き抜き、透明な液体で濡れた避妊具を取り去った。

 暫く気だるげに少女の髪を撫でていた少年が、突然カメラ目線になった。


「ごめんねぇ、すぐる。こいつももうオレのもんだからさ」


 それを聞いて、俺は思わずスマホを床に叩きつけそうになった。彼女の不義理も腹立たしいが、それ以上に彼女を寝取った少年の方に激情が向かった。


 ――お前はどうして、いつも俺の彼女を奪っていくんだ。


 こいつ――矢島夏樹やじまなつきが俺の彼女を横からかっさらっていったのは、これが初めてではない。

 一度目は、俺が小六の頃であった。俺の告白に対して首を縦に振ってくれたクラスメイトの女子。俺のファーストキスの相手でもある。その彼女は、三か月後には夏樹と手を繋いで歩いていた。

 二度目は中学二年の時。その彼女は俺がバスケの試合で勝利した後で告白した相手であった。彼女は二か月後、俺の通学路の途中にあるマンションの廊下で、夏樹とキスをしていた。

 三度目は、高校一年の秋であった。夏樹は高校進学を機に引っ越していき、俺とはもう会わなくなった。だから、もうあいつに彼女を奪われることなどない。そう高をくくって、俺はポニーテールのよく似合う可愛らしい彼女との逢瀬を楽しんでいた。

 だが、あいつは再び、俺の前に姿を現した。部活を終えた俺の目に、彼女の肩を抱き寄せて歩く夏樹の姿が飛び込んできた。その時、悔しさのあまり俺の頭の中が煮えたぎった。怒りをあいつにぶつけようとしたが、あまりにも怒りすぎて、二人を追いかけようとした時にはすでにもう彼らは何処かに行ってしまっていた。


 そして、これが四度目である。まさか寝取りビデオレターのようなものを送られることになるなんて思わなかった。実際に送られてみれば。なるほどこれは腹が立つ。画面に映る二人が憎らしくて仕方がない。


 三度目の寝取り劇の後、俺は夏樹に直接会って文句を言おうとした。けれども。俺はあいつが今何処に住んでいるのかも知らない。電話番号なども変わっていて、連絡の取りようがなかった。


 元々、俺と夏樹は、園児の頃からの友達であった。親友といってもいいほど、俺たちは仲良しだったのだ。今となってはもう酷くぼやけた記憶になってしまったが、確かにかつての二人はいつでも一緒だった。

 けれども、小六の時に彼女と呼べるような存在ができてから、夏樹と過ごす時間はめっきり減った。そして、夏樹が最初の彼女を奪い去った時、俺とあいつの関係は壊れてしまった。もう、口をきくことさえなくなった。

 

 あいつは身長も高くはないし、何処か男子らしからぬ中性的な顔立ちをしているけれど、あいつは匂い立つような麗しい容姿を持っている。絶世の美少年といってよい。その上に女子受けする立ち振る舞い方も身につけている。男の俺でさえ惚れ惚れしてしまうぐらい、あいつは性的魅力に満ち溢れているのだ。

 俺はあいつに、男としては完全敗北している。そのことが何よりも悔しい。悔しいが、あの夢魔のような男にどうして勝てようか。


 これからまた、自分に新しい恋があったとしても、夏樹はまた寝取りに来るであろう。何があいつを突き動かしているのかは分からない。腹立たしくもあり、同時にその執念深さに不気味なものを感じた。


 

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