第3話 導かれる先
他の生徒がまだ寝静まっている、修学旅行三日目の深夜。私は一人宿を出た。もちろんこんな行動は許されていない。下手をすれば停学だろう。しかし、それでも私はこの時間帯に宿を出なければいけなかった。
「……こっちなの?」
猫のような格好の妖に導かれるまま、夜の嵐山を歩く。
深夜の嵐山は不気味だ。いや、他の町でも深夜は不気味だが嵐山は特に不気味だと言った方が正しいだろうか。
ここ嵐山は、夜になると
だが、そんな
「……ここ?」
猫の格好の妖がふと歩みを止めてこちらを向いた。その場所は嵐山でも有名な観光スポットで、昨日の夕方にも来た竹林の道のトロッコ嵐山駅方面側の入り口だった。竹林の小径は夜になってもライトがついていて明るい。暗い中、ライトで照らし出される竹林。そんな幻想的な光景が、目の前に広がっていた。
視線を猫の格好の妖の方に移すと、猫の格好をした妖が私をジッと凝視していた。その視線が私には覚悟はできているのかと私に問うているように見えた。
「……当然、覚悟くらいできてるよ……」
そう呟くと、猫の格好の妖が私に向いていた体を竹林の小径の方へ向け、ゆっくりと歩き出した。私もすぐにその後を追って歩き始める。
この竹林の小径を進めば進むほど、妖の気配がどんどん高くなっていくのが分かる。つまりこの竹林が、私の最後の場所となるのだろう。
……未練がないというわけではない。もっとやりたいこともあったし、もっと生きたいとも何度も思った。
それに、晴人君に自分の思いを伝えずに逝くのが嫌だとも思う。でもこれ以上晴人君に迷惑をかけたくない。私のせいで、晴人君を不幸にしたくない。だから私は、この世界を去ることを選んだのだ。
……過去にこの選択をした人も、同じ気持ちだったのだろうか。もっとも、そんなこと分かるわけがないけど。
そんなことを考えながら歩いていると、猫の格好の妖がまた歩みを止めた。歩き始めてから100mぐらいの地点だろうか。
……まぁ、ここで止まるだろうとは思っていた。
なぜなら、通常ならバラバラに感じるはずの妖の気配が今はここに集中しているのだ。妖の気配が強すぎて、妖の正確な数を感じることができなくなっている。
生まれてから今まで数々の妖を見てきた、感じてきた私にとっても、これは初めての経験だった。
ふと、辺りをぐるりと見渡してみる。
すると、竹林の隙間や竹林の中から数々な妖たちが次々と現れた。いくら気配がとても高いとはいえまさかこれほどまでの妖たちが潜んでいたとは……。流石は
その数々の妖の中から、二日目の夜に話した人型の妖が出てきて私の方に向かってきた。
「……ここに来られたということは……覚悟はできた、ということでよろしいのですね?」
「……はい。もう人を不幸にするのも、それを見るのも嫌ですから」
「……分かりました。では、これより儀式を始めます」
人型の妖がそう言うと、他の様々な形をした妖が私の周りを取り囲んだ。そして、人型の妖が何かを唱え始める。
すると、私の足元に私を中心とした魔法陣のようなものが現れた。
それはどんどんと模様を形成していき、完成したかと思えば、そこから黒い影のようなものがゆっくりと出てきて私の周りを覆っていく。
「倉橋っ!!」
……聞き慣れた声が、あたりの竹林に響いた。私は、背後から聞こえたその声の主を確かめる為に振り向く。
……ああ。なんで、どうして、ここに――
「晴人、君……」
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