反転 猫耳症状は引き篭もる

真姫(まひめ)

理不尽な世界

 この世界は理不尽だ 神様が居るのだとしたら少なくとも僕には優しくない、僕に優しいのならこんな理不尽な事は起きないはずだ、何か神様に嫌われる様な事でもしたのだろうか もしそうだと言うのなら謝らせて欲しい 謝ったらこの理不尽な出来事は夢で終わるはずだ そう思いながら僕は鏡に映る自分を見つめていた


           ◆◇◆◇


 世界はVR技術が発展しとあるゲームが覇権を握った ゲームの名前は「Valhalla」、このゲームは数年前に突如リリースされたゲームだ といってもリリースされた時は誰も知らなかったし知っていてもやった事がない人が大勢だった だが一度プレイした者はそのゲームの魅力に憑りつかれていった結果爆発的に広まった このゲームの魅力はその自由度の高さといくらでも拘れるキャラメイクにある 一応の方向性としてはソロでもパーティでも楽しめる様にギルドがあり、クエストがありこの仮想空間の中で生活をする事に重きを置いている...らしい 実際にゲーム内で結婚をするようなプレイヤーまで居るらしいから実際自由度はかなり高いだろう


 僕の名前は柊 士郎 年齢は16歳で現在このゲームを始めたばかりだ


 実際僕も友達に勧められた時は怪しいゲームだと思っていたがいざ初めて見ると最初のキャラメイクで拘れる所に惹かれてしまった 僕はこういうキャラを作るのが好きなのでどんどん沼に入ってしまった こういうのは案外最初は自由度が高くても後からキャラを変更する時にお金がかかってしまうものだから最初に凝って完璧なデザインにしておけば後々後悔せずに済むって思っている 


 何時間かかったが分からないが取り合えず自分のモデルのキャラは完成した 最初は性別を男にしようと思っていたがなんだかんだで女の子の方が可愛く作れたりするので女の子にした、僕だって男なのだ このゲームは最初にキャラが選べてそのキャラに準じてある程度初期ステータスが決まってくる 種族は基本4種類あって 人族、獣族、エルフ、魔族の4つだ この中から選ぶことが出来るがここをランダムにすると極稀にレア種族に選ばれる事がある そういう種族はよくインターネットの掲示板とかにも上がってはいるが今の所完全ランダム要素みたいだ 僕はどうしようかな...キャラメイクである程度凝った形にした後に種族で少し変わるのも嫌だけど 完全運要素に任せてもいいと思う自分が居る 


 結局悩んだ結果種族はランダムにして選ぶことにした、どうなっちゃうのか気になるけど直視出来ないので選んだ後に目を瞑っていた 瞑っていたら気持ちのいいBGMが流れ始めて目を開けるとレア種族出現と書いてあった  やった!運要素は昔から強かったらと思い期待してみたけど本当に当たるとは思ってもいなかった 当たった種族は何だろうと思い見てみると...


 『ハーフ種族』


 やった!割と当たりな奴だ!確か掲示板の評価だと二つの種族のいいとこどりが出来るみたいな...割とレアって聞いてたけど案外出るもんなんだね...


 ハーフ種族...何と何を組み合わせよう? 一番定番なのは人族の何かだけど...出来るならうまく組み合わせて強くしたいよね うーん...ある程度バランスの取れた人族と...獣族を組み合わせる事にしよう 種族を設定するとキャラメイクに新たな項目が追加された それは獣耳と尻尾、そして何処から何処までが獣属性があるかだ ここら辺は完全好みだからね...人型だけどもふもふが好きとか...あえてハーフという事を隠せる様に殆ど人の姿にするとか逆に獣人じみた姿にするとか色々ある 僕なら...こうする


 そうやってキャラメイクをし続けて僕の「valhalla」の一日目が終了していた 朝日が昇って来たので就寝しちゃおう ご飯は起きてから食べるつもりだ


 僕の両親は海外で働いていて僕は現在一人暮らしをしている それに年でいったら高校生になるけど僕は学校に行ってない 正確には高校には在籍しているんだけど行っていない 僕のコンプレックスの問題だ、中学では軽く虐められていたんだけどね コンプレックスっていうのは見た目が中性っぽくて声も女の子っぽいのでそれが原因で人前で喋る事が出来なくなってしまったのだ ただゲームだとそれを気にせず出来るからのめりこんで行って気づけばこの生活になってしまった 時たまに友人とゲームはするがどっちかっていうとソロ専だったりする 喋れるとは言っても怖いのに変わりはないのだから


           ◆◇◆◇


 次の日になってまたパソコンの前に行きキャラメイクの続きをする...と言っても大半は終わっているので細かい調整をした後にステータスの初期値を決めてやっと始める事が出来る このゲームは最初の街は決まっているがそこから先は完全はオープンワールドなのでどこに行くのも自由って寸法だ


 よし、ゲームの中の名前は何にしようかな...士郎をもじって...白とかにしようかな よし、白にしよう これなら特に違和感も無いだろうし 設定はここで終了 後はVRを使って横になるだけで「valhalla」の世界に入る事が出来る 


 よし、初めてしまおう そう思いながらVRゴーグルを顔に装着しベッドに横になる 爽快な起動音が聞こえて僕の視界は闇の中に落ちていった 眠る様な感覚だが意識ははっきりしているので不思議な感覚だ


 少し起動に時間がかかった後電脳空間...としか表現できない空間に立っていた、僕はまだ僕の姿のままだ 矢印が浮かんでおりそこに進めばと言わんばかりに光っている まぁここで引っ掛けとかある訳も無いだろうし進む  すると大きく広がった部屋があったが...特に何かが置かれている訳でも無い...ただ僕が部屋に入るとその部屋の入り口が閉じて出れなくなった 


 「valhallaの世界へようこそ、規約等はちゃんと読んだかな?」


 アナウンスの様な物が流れ始めて利用規約や違反行為についての説明が流れている なるほど、これなら後で聞いてませんは通らないしもし読んでなかったとしてもここで聞けるからこのシステムはいいと思う


 「これで色々分かったね、それでは楽しんでいってね」


 その一声と同時にドアが開きまた矢印が出てきて光始めた うーん、この進めって表現も分かりやすいけどいきなり明るい物が出てくると心臓に悪い... まぁいいか、この最初の部屋だけだろうし


 てくてくと道を歩いているとまた小さい部屋の様な物に入らされた その部屋に入ると光が消え一度暗闇の中で大人しくするハメになったが5分ぐらいで暗闇から解放されたと思ったら何故か違和感がすごい なんというか...身長が低くなっている? 視線がいつもと違う気がする んー...鏡でもあったらと思っていたらちょっと進んだ所に姿見があったのでありがたく使わせて貰おう


 「...おぉ...もう姿も変わったのか...凄い...声も少し違う...凄いなぁ...」


 姿見に移っている姿は...白髪に空色の目 そして頭上に見えるのは可愛い猫耳だ 僕は人族をベースにして姿で言うとちょこっとだけ獣族を入れてみた 猫耳と尻尾が生えている程度だが立派なハーフだ そして身長は少し...まぁ少し小さめにしている 少女とかそういうレベルかな?


 「後は...進めば...始まるのかな?」


 矢印が示す方向へと歩いていくと一気に世界が広がった 草木は生い茂っていて色々な人が歩いている これがゲーム?絶対にありえないレベルのクオリティだ 何も知らずにここに来たら異世界に迷い込んだと思うぐらいには現実感がすごい... これは楽しみだ、チュートリアルとかも無いみたいだし...取り合えず探索から始めた方がいいのかな?


 私が今居る場所は草原だ 最初の街は決まっていると聞いていたけど草原...近くに街でもあるのかなと思い回りをキョロキョロするが全然見当たらない これもチュートリアルなのかな でも掲示板とかで下調べした感じそういうイベントは無かったって聞いたけど...取り合えず歩いちゃおう


           ◆◇◆◇


 体感だけで言うと一時間ちょっとは歩いただろうか? VRの世界だからと侮っていたが走ってみると簡単に息が上がってしまう おかしいな、人族と獣族のハーフにしたから単純な体力はあるはずなんだけどこれだとまるで...現実と同じ体力だ 簡単に息はあがるし...多分力とかも軟弱なんだろう これは...仕様なのかな、最初の街に行くまではそのままとか でもこれも聞いてないけど...もしかしてアップデートでも入ったのだろうか それだとしても引き篭もりの人間の事も考えて欲しい 体力が無さ過ぎてそのまま草原に倒れてしまいそうだ


 「...街に向かおう...マップ機能は...うん、ちゃんと使える...最初から使っていたら楽だった...」


 マップ機能で街を見ているとどうやら今の場所は最初の街の近くの草原だ、ただ一時間程かかる草原を近くに配置しないで欲しい 私みたいに体力が無いと街に着くまでに体力が尽きてしまうのだから...


 やっと街に着く事が出来た、と言ってもどうやって入ろう? 仕様が分からない上に人と話せないから...取り合えず入り口に居る衛兵の様な人に...コマンドとか無いのかな


 「ここは始まりの街ストラ、どういった用ですか?入りたい場合は身分証明書を用意してください」


 最初の段階で詰んでしまった 身分証明...ってなんだ?確かコマンドで...ステータス機能はあったけどこれじゃないだろうし...無い場合はどうしたらいいんだろう...せめて街に入ってセーブした後に運営に問い合わせたい だからどうにかして街に入ってしまおう


 「...あの...えと...身分証明がない場合は...どうしたらいいですか...?」


 「その場合はここで発行していただくか中央会に行っていただき身分を発行して貰います、貴女はプレイヤーですね?」


 「はい...」


 「でしたらここでも発行できますよ」


 よかった もし発行出来ないのなら完全に詰んでいたのかもしれない 取り合えず中に入ったら...最悪裏道に入ってセーブしたら一度ゲームから抜けちゃおう うん、運営に色々問い合わせというか...相談というか...したいよね 始まりの街に居なかったなんて...ド〇クエなら大問題だよね、ただ私だけっていうのがちょっと悲しい...


 という訳でかなり人見知りの割には頑張りました 正直知らない人に話しかけるなんて無理な話なんだけどNPCだと思うから頑張ってみたけど 正直辛かった 


 やっと手続きが終わりとても簡易な身分証を作ってもらった ちゃんとした物を作るにはこの世界に複数あるギルドに参加しないといけないらしい 正直何を言ってるのかちんぷんかんぷんだったけど分からない事はネットで調べる事にしよう それにしても喋っている時といい歩いている時といい本当に現実みたいだ セーブとかマップ機能とかが無かったら本当に現実に見えてくるぐらいグラフィックにこだわっている...現実じゃないよね


 セーブする為にメニューを開ぎその場でセーブをする セーブした後はログアウトを押せば簡単に現実に戻る事が出来る これ以外にも体に何かしらの異常が出た場合強制的にログアウトする様になっている 空腹だったり水分不足だったり 色々だね


 ログアウトを押すと何か警告文の様な物が出てきた


 『現在の状態を移行しますか?』『YES/NO』


 どういう事だろう? 現在の状態を移行する? 何の状態を何に移行するんだろう?主語が無いから全然分からない... まぁやっておいた方がいいのかな? とりあえずYESで...


 YESを押すと目の前が暗転しこの世界に入ってきた時と同じ現象が起きた 真っ暗な世界だ 真っ暗な世界から元の世界に戻るまでのこの時間はちょっと好きかもしれない


     ◆◇◆◇


 目を開けるとVRゴーグルの電源がOFFになっていてただの暗闇が広がっていた 真っ暗な世界と感覚的に違うのが分かる うーん、そういえば夜ご飯買ってきてなかった様な気がする キリがいいしご飯を買って食べながらお問い合わせでもしよう


 あれ?ベッドこんなに高かったっけ?普通に足を降ろしたら地面に着くはずなんだけど なぜかブラブラさせてしまう それにこんな綺麗で小さい足だっけ? 嫌な予感がする 家の脱衣所の前にある姿見まで走る 着ている服はぶかぶかだし走っている時に見える髪の毛は白髪だ


 姿見にたどり着くと僕は認めたくない現実を認めないと行けなくなってしまった この姿は完全に「valhalla」で僕が作ったキャラクターじゃないか... どういう事? ゲーム内だと僕だけに発生するバグもあったしそのバグについて聞こうと思ったら現実でもこうなっている... 流石に理不尽じゃない?

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