129.
「……」
「来た……!?」
「なんだ、あの数……!?」
「怯むな、迎撃だ!」
――ガイラル達が戦闘準備を進めている中、各地では戦闘が開始されていた。落として来たのは雷撃だけではなく、兵士を送り込むための転送装置も降ろしていた。
終末の子を配備した『遺跡』で国の位置を把握しそこへ座標を合わせてモルゲンが配備を決めた。回収だけではなく、地図の把握をするためにも自身で地上へ来ていたのだ。
そして今、地上侵攻の足掛かりとなった『遺跡』付近から武装した天上兵が攻めてきた。
「帝国から譲り受けた装備……いけるか!」
「うおおおお!」
そしてほぼ同時に各国は戦闘に入る。もちろん、ゲラート帝国も戦火に包まれようとしていた。
◆ ◇ ◆
「第四大隊は『遺跡』の方角へ展開! 第三、第四は距離を取って大きく展開だ。通信装置は忘れるな!」
「「「ハッ!」」」
雷撃の後、すぐにディダイトが指揮をとり部隊へ作戦の通達を行った。ここまでの間、カイルに作らせていた通信装置や装備を手に次々と現場へと向かう。
帝国には車両があるため、移動に事欠かないのが強みだ。
「来ちまったなあ、この時が。……前線は厳しいと思うが、アンドレイ、死ぬなよ?」
「お前に借りた金を返すために帰ってくるって! ヴィザージュ、話を聞く限りあいつらはどういう手段をとっても心が痛まない奴等だ。どこも前線ってやつさ」
第三大隊の隊長、ヴィザージュが重火器隊である第二大隊のアンドレイに声をかけていた。軽口を叩きながら戦場は同じだと口にするアンドレイにヴィザージュが肩を竦める。
「カイルの奴が作ったこの『ドラゴンヘッド』がありゃなんとかなるだろ。バズーカっていってたっけ? 試射した時は震えたぜ」
「まあ、な。俺も――」
「ヴィザージュ隊長、準備ができました」
「ああ、行こう。じゃあな」
「ああ。第一大隊、出撃だ!!」
ヴィザージュがなにかを言いかけたところで部下であるオートスが声をかけてきた。彼は言葉は飲み込んで、背を向けて出撃に入る。
「すみません、お話し中でしたか」
「気にするなオートス。お前、そんな気を遣うやつだったっけ?」
「……色々、ありましたから」
「隣国が故郷だったか。いいのか、兄妹がいると聞いているが」
例の事件は知っているヴィザージュがフッと笑いながら尋ねる。するとオートスは特に気にした風もなく、前を向いたまま答えた。
「自分はカイル技術開発局長に救われました。帝国のために、この隊で戦うことを決めています。故郷も帝国からの支援でそう簡単には落ちないでしょうし、避難シェルターもあります」
「……いい答えだ。副隊長として背中を任せるぞ」
「はい」
ヴィザージュがオートスの肩を叩いて前へ出る。
彼はガイラルに着いていくつもりだったが、地上を任せると言われて渋々飲み込んだ。本来ならオートスを隊長にして離れるつもりだったが、それは叶わなかった。
そんなヴィザージュを追おうとしたところで知った顔が手を上げて寄って来た。
「ドグルか。それにダムネ」
「よ! いよいよだな」
「き、気を付けていこう」
それぞれ挨拶を交わす。周囲を見ながらオートスがダムネへ言う。
「ダムネ、お前は第四大隊……タンクだろう。いいのかこんなに悠長に話をしていて」
「う、うん。僕達はずらしながら出撃するんだ第二大隊とセットで動く感じ。その後続にオートス達だよね」
「なるほど。なら第二のドグルはダムネと一緒に出るのか?」
「だな。重火器部隊は辛いぜー?」
そう言ってドグルが煙草に火をつけた。それを見てオートスは肩を竦めながら首を振る。
「お前は緊張感がないな」
「ま、死ぬ時は死ぬし、命令違反と言われても煙草は吸いたいってことよ。……そんじゃ、後詰めは頼むわ」
「……死ぬなよ、二人とも。生きて帰れたら酒盛りと行こう」
「……!? オートスがそんなことを言うなんて珍しいね。カイルさんとかフルーレさんも呼ぼうよ、あの時のメンバーでさ」
「そうだな。それもいいかもしれん。では……行こう」
「おう」
「うん」
オートスが話はこれまでだと告げ、二人も頷き、歩き出す。
生きて帰れるかは分からない。相手の戦力がどれくらいいるかも分からないからだ。皆、それを分かっている。
死ぬかもしれない、というのは誰もが思っていることだ。だからこそ、知り合いには死んでほしくないと考えている。
だが、あまり言い過ぎるのも良くないと未来のことを少しだけ口にして解散するのだった。
◆ ◇ ◆
「始まったな」
「どうする? もう行くか?」
騒ぎが大きくなってきた窓の外を見ながらガイラルが呟き、ゼルトナが質問を投げかけた。窓から部屋に視線を戻したガイラルは小さく頷いてから言う。
「……そうだな。転移装置は使えるか?」
「まだ相互通信は生きているのは確認しました。ただ、どこに行くかは不明ですな」
ブロウエルが帽子の位置を直しながら説明をする。
「モルゲン博士のことだから大陸の端とかに置いてねえか?」
「どうかな……装置が生きている時点で罠かもしれない」
ガイラルがフッと笑って冗談を口にする。しかしあり得ないことではないとゼルトナは肩を竦めていた。
「どちらにせよこれが使えなければ『遺跡』に落ちた転移装置を使うしかない。……よし、準備はいいな、地上部隊の戦いが早く終わるように、奴を……ツェザールを討つ」
「おう」
「ハッ。しかしヴィザージュは良かったのですか?」
「ああ。地上も手練れが必要だろう。家族もいる。僕の始めた復讐に巻き込む必要はないさ」
鎧を着こみ、剣と銃を腰に携帯してガイラルが部屋から出る。その後ろをフル装備のブロウエルとゼルトナが続く。
「……そういえばカイルはどうしていますか?」
「この前、挨拶に行ったときは普通にしていたよ。イリスとエリザ……仲良く暮らしているようだった」
「来ますかな」
「……多分ね。周囲に気配は無いけど、どこかに居る」
「向こうの装置を破壊しますか?」
「場合によっては考えておこう」
ブロウエルの問いに、ガイラルは冷たい目をしてそう答えた。
そしてカイル達は――
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