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101.
「カイル少尉、お疲れ様です!」
「お、おお。技術開発局には入っていいか?」
「どうぞ! ……とはいえ、中はかなり酷いありさまですが……」
エリザと二手に別れて技術開発局へ来たカイルはハキハキと返事をする兵士に敬礼を受けていた。
今まで『万年ダメ少尉』と呼ばれていたのでこの対応はどうしたことだと驚いていた。
それはともかくと、カイルは咳ばらいを一つしてイリスと共に目的の開発局へと入っていく。
『臭いです……』
「火事になるとこんなもんだ。ほら、抱っこしてやる」
『わあい』
確かに兵士が言う通り中は酷い有様になっており、足元にはかなりの瓦礫が落ちていて割れたガラスの破片なども散乱していた。
その中で慎重に部屋を確認していき、机の上や棚など形が残っているものを手袋をして開けていく。だが、ほぼ燃えているか無くなっていた。
「ふん、本気で開発局を潰すつもりで火をかけたか。ここが燃えた日はセボックの奴が最後まで残っていたらしいし、決め打ちして行動を起こしたとみていいな」
『ここはもうダメですか?』
「ああ。目ぼしいものはなにも残っていない。奴が持ち去ったんだろう。もしくは隠滅したか」
イリスにそう言いながら、ここまでなにも無いとは思わなかったとカイルは嘆息しながら探索を続ける。
「チッ……根こそぎか」
そして研究棟に足を運ぶもサイクロプスの皮を使った防具も、新作の銃は形も無く持ち去られたと舌打ちをしていた。
「後は……最上階か」
最後に開発局長室のある最上階へ足を運んでみるかと階段をのぼっていき、かつて自分も使っていた部屋へと入っていく。
そこもかなり損傷しており、他の部屋と同じく期待できるような感じはしなかった。
「……さて」
『お父さん?』
部屋を一通り見渡した後、カイルは局長の机に向かって歩いて行く。そこでなにかを探し始めたところでイリスが声をかけた。
「ん? ああ、もうちょっと待っててくれ。終わったらシュナイダーを迎えに行くからな」
『あ! うん!』
イリスへそう言ってやると彼女は満面の笑みでカイルの首に抱きついた。そのイリスに微笑みながら、机を身体で押し始めた。
局長が使う机ということもあり豪華で大きな机は重量もあり、イリスを抱っこしているので少しずつしか動かせない。
「ふう」
『なにかあるんですか?』
「まあ見てろって」
しばらくして動かしきると、引き出しのあった付近の床に扉がついていた。片膝をついたカイルがその扉を開くとそこには金庫が入っていた。持ち上げて机の上に置くと鍵となっている8桁のダイヤルを回し始めた。
迷わずに8桁を入れるとカキンという金属音の後に蓋がゆっくりと開いた。
『お宝です……!』
「どこでそんな言葉を覚えてくるんだ? ……いや、俺達のせいか。セボックは本気か……」
苦笑しながら自己解決をすると、カイルは中に入っていた一本の鍵を手にしてポケットに突っ込んで局長室を後にする。
『どこの鍵?』
「ま、後でな。ほら、シュナイダーを迎えに行くぞ」
いくつか残っていた書類などをイリスに持たせて階段を下りていき、飛空船の医療施設へと向かう。降ろすには怪我の頻度が高く、魔獣を治療できる技術開発局があんなことになってしまったのでそのままにしていたのだ。
やがて飛空船に到着すると、まっすぐ医療ルームへ。
すると通路に居た男がカイルに気づいて声をかけてきた。
「カイル殿」
「シュナイダーを迎えに来たんだけど、どうだ?」
「歩ける程度にはなっていると思いますが戦闘は難しいかと思います」
「ああ、歩けるならいいんだ。自宅で静養させるし」
「はは、なるほど。……それがいいかもしれませんね」
医療部隊の兵がカイルに困った顔で笑う。カイルはその微妙な表情の意味は分かっているのでなにも言わずに彼の肩に手を置いてからすれ違う。
すると少し歩いたところでカイルの背中に問いかける言葉があった。
「……技術開発局のことは耳にしました。あなたが元局長であることも。ああなってしまった以上、戻られないのですか?」
「……さてな。今さら……俺はそう思っているぜ? 五年前の事件も知っているんだろ? あれで技術開発局員を裏切ったのも同然さ。あいつらはいい奴等だから責めてこないが、色々と大変な目にあっていたはずだ」
「それは、あなた自身が信頼されているからでは?」
「おっと、褒めてもなんもでねえよ」
カイルは振り返らずに片手を上げて振る。
医療ルームに入ると、そこには子犬に戻ったシュナイダーが大人しく丸まっていた。それを見たイリスが歓喜の声を上げた。
『シュー! お父さん、降ろしてください!』
「! きゅん♪」
イリスがカイルにせがみ、その声に気づいたシュナイダーが頭を上げて一声鳴いた。イリスがベッドに寝そべるシュナイダーを抱き上げる。
「きゅんきゅん!」
『くすぐったいですよー』
「やれやれ、もうお前のご主人様はイリスか?」
「きゅん♪」
呆れたカイルが言うと、肯定するように鳴いたのでガクッとするカイル。
「ははは、娘さんが可愛がっているみたいですからね。動物ってのはそういうもんですよ」
「ったく……連れて行っていいかい?」
「ええ。傷は完治しています。……さすがは魔獣といったところでしょうか。それでも――」
「ああ、そういうのはいい。分かってるからな」
「失礼しました」
医療ルームの隊員がなにかを口にしようとしたところでカイルが手で制止て首を振る。察した隊員はため息を吐きながら頭を下げた。
『お散歩に行ってからご飯を食べましょう! シューもハンバーグを食べたいと言ってます!』
「きゅん!?」
「そりゃお前が食べたいだけだろ? ま、体力を回復させる意味でもいいか」
カイルはシュナイダーを抱っこしたイリスと手を繋ぎ町へと向かう。その後ろ姿を見ていた隊員は少しだけ寂しそうな目を向けて二人と一頭を見送っていた。
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