96.


 「……」

 「どうした、勢いが無くなったぞ? 仲間が死んで臆したか」

 

 ウォールが息絶え、カイルの足元に血のカーテンが作られていく。それをガイラルと交戦していたモルゲンが横目で見て距離を取った。

 お互いの攻撃は激しく、両者は頬や腕に傷を負い血を流していた。そんな中、ガイラルは血と白い息を吐き出しながら挑発する。

 するとモルゲンは笑みを消してから首を鳴らす。


「ふん、ウォールめ。カイル相手に敗れるとは不甲斐ない。これは予想外だ」


 悪態をつきながらモルゲンは次に終末の子二人を相手にしているブロウエルの方を向く。


「フッ……!!」

『……!』

『ブロウエル様、こちらも!』

「頼むぞリッカ」


 モルゲンの戦力である終末の子二人は意識が無いため戦いに特化している。その証拠にブロウエルと終末の子に一人であるリッカの二人を相手にしても力負けをしていない。

 

「チッ……正面から同族と戦うのは割に合わないね」


 ――だが、逆を言えば『その程度』なのだ。と、モルゲンは舌打ちをする。地上制圧用に開発をしていた終末の子がこの程度では制圧をするのにどれほどに時間がかかるか分からない、と。


「なにをブツブツ言ってやがる……! 皇帝、挟むぞ!」

『いくです!』

「よし」


 ガイラルの動きを牽制していたモルゲンに怒声を浴びせて回り込むカイルとイリス。そこでモルゲンは片目を細めてから三人の動きを見る。

 

「舐めてもらっては困るよ!! ひゃはっ……!」

「させるか!」


 距離を詰めるカイルとガイラル。するとモルゲンは空いた左手を腰に回し、取り出した銃でガイラルとブロウエルに向けて発砲した。


「む……!」

「野郎!」

『ええーい!』


 発砲の瞬間、カイルはこちらも銃を使うか一瞬考えた、しかし避けられた場合ガイラルに当たる可能性を考慮してモルゲンの背中へ剣を振るう。

 横目でブロウエルを見ると、彼が相手にしていたシオンの首を取れる寸前だった。

 発砲によりそれは叶わず、もし狙ったのだとしたらモルゲンは博士のくせに高すぎる戦闘能力を持っているとカイルは胸中で驚いていた。


「だがこれで終わらせる!」


 モルゲンの背中へ一撃を加えるため全力を出すカイル。そして足元からはイリスのレーヴァテインが迫り、挟んだ向こう側にはガイラル。

 これで倒せると確信したカイルだったが――


「な……!?」

「こういう時は前に出るのが正解なんだよねえ! ガイラル――」

「お前はそういうヤツだよモルゲン! ……なに……!」


 ガイラルが攻撃をしようとした瞬間にモルゲンが踏み込んだので、振動ブレードを咄嗟にガードする形になった。お互いの顔が近づくほどの距離での鍔迫り合い。


「離れろ皇帝! うおおおお!」


 そこへもう一歩踏み込んだカイルの攻撃がモルゲンを狙う。


「邪魔をするなプロトタイプ風情が! しかし、これでは命に届かないか。仕方あるまい。シオン、ウー!」


 流石にこれ以上は避け続けられないと判断したモルゲンは身を低くして凍る地面を滑るように移動して出口の方へと向かう。


『……』

『……』


 声をかけられたシオンとウーの終末の子二人は攻撃を止めてすぐにモルゲンを守るように移動。その際、ウォールの遺体を回収していた。それを追うブロウエルが警戒をしながら口を開く。


「逃げ足だけは昔から速いな」

「お前みたいに前へ進むだけではいずれ何かを失うからねえ? 逃げることで手に入るものも……あるんだよ。ウォールは残念だったが、まだ使い道はある。ひゃははは! この二人は再調整させてもらうよ」

『だけどこっちには半分以上の終末の子が居るのを忘れないで欲しいものだな』


 大剣を突きつけながらヤアナがそう口にする。するとモルゲンは再び笑いながら指を差して言う。


「くっく……意思を持った終末の子など少し強い天上人に過ぎんよ。再調整をして二人でも地上制圧ができるようにするから問題は無い。我らが主は強いしね? なあガイラル」

「……」

「だんまりは面白くないね。ま、いい。これにて失礼させてもらうよ? 早く帝国へ戻った方がいいんじゃないかい?」

「逃がすか……!!」

『……』


 後ずさりをするモルゲン達へカイルが発砲する。だが、ウーのトンファーが難なく弾き返す。そのまま通路の奥へ消えていく三人を見て、振り返らずにカイルが叫ぶ。


「追うぞ皇帝」

「……いや、いい。こちらも消耗が激しい、からな……」

「皇帝……?」

「陛下……!」


 カイルが振り返った次の瞬間、大剣を取り落として膝から崩れ落ちるガイラルの姿が、あった。


『おじいちゃん!』

「くっ……案ずるな、少し血を流しすぎただけだ。モルゲンもああ言っていたが私の剣で脇腹が裂けている」

「血……!? こんなに!?」


 慌てて駆け寄ったカイルとブロウエルが両脇で支えると、太ももからどろりとした血が流れ落ちた。ぎょっとするカイルに口を開くガイラル。


「緊張が解けて痛みを覚え……た、な……。も、戻るぞカイル、ブロウエル……ウォールの言った……ふう……言葉が気に……なる……」

「喋るな! くそ……こんな傷でよく戦っていたな……。あの狂気博士も涼しい顔をしていたが――」


 モルゲンが逃げた方を見ると、血の跡が残っていることに気付く。傷は深いため撤退したのだと。


「すまんが少し、休む、ぞ――」

「皇帝? おい!」

『大丈夫です。気を失っただけです。止血をしたら僕とヤアナで運ぶので、急いで飛行船へ戻りましょう』

「……ああ。大佐、どう思う?」

「分からん。が、嫌な予感がするのは間違いない。急ぐぞ」

『おじいちゃん……』

「大丈夫だ。こいつは簡単に死にゃしねえよ――」



 そう言いながらイリスを抱っこするが、苦悶の表情を浮かべるカイル。最後の終末の子はモルゲンの手に渡った痛手に舌打ちをしながら一行は帝国へ進路を取るのだった――

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