94.
「ひゃはっは! 再調整だなカイル!」
「モルゲン……!!」
最初に切り込んだのはこともあろうかモルゲンだった。一番倒したい相手が間合いを詰めてきたことに対し、すぐにカイルは応戦の構えを見せる。
しかしその前にガイラルがモルゲンの前に立ちはだかった。
「ヤツは私に任せろ。お前は終末の子とウォールを頼む」
「わかった! てか、重要人物のあんた達が最初に斬り合うんじゃねえっての!」
「吠えろ氷晶剣」
「ひっひ、やはり君を殺さないと終末の子は手に入らんか!!」
『おじいちゃん頑張るですー!』
カイルが叫ぶもガイラルとモルゲンは氷の上を滑るように遠ざかっていく。頭を掻きながら続いて攻めてくるウォールに目を向ける。
「よそ見をしていていいのかな?」
「ウォール……!! 今度は逃げるんじゃねえぞ、あの時の借りを返す!」
『やるです!』
カイルが近づいてきたウォールに射撃を繰り出し、足元に居たイリスがレーヴァテインを展開して振り回す。
「この距離で避けるか……!」
「人を見る目はあるんだよこれでも? 小さい子を攻撃したくは無いけど悪いね」
『わ……』
「させるか!」
二発の弾丸を紙一重で回避し、さらにレーヴァテインを避けてイリスを蹴ろうとしたウォール。カイルが激昂して斬撃を繰り出すと涼しい顔で後方へバク転して間合いを取る。
「チッ、フラフラしやがって。大佐、皇帝を助けに行けるか!」
動きを警戒しつつ敵の終末の子とブロウエルへ声をかけると、
『こっちはこっちで手いっぱいだ……! シオン目を覚ませ!』
『……』
「カイル、陛下の剣はここなら有利に働く。私とリッカはシオンを。ヤアナとシチはウーを頼む。生け捕りが望ましいが息の根を止めても不問にする」
ブロウエルが雪と氷が覆うこの地であればガイラルの持つ大剣は本来の力以上の能力を発揮できると言いながら腰のダガーを抜く。
「殺すのかよ大佐らしく――」
「……」
カイルがイリスを抱えてブロウエル達が見える位置へ移動すると、まさかの光景を目にすることになった。
二人の終末の子に挟まれた形の四人。そしてブロウエルが頬に血を流していた。
カイルは彼を小さいころから知っているが訓練はおろか実戦でもケガをしたことなど見たことは無く、この短時間で血を流しているのを見てカイルは身を低くしてウォールへと突撃する。
「なるほど、四人がかりでそれじゃ仕方ねえか……! イリス、離れるなよ」
『はい!』
最悪、リッカあたりにイリスの保護をしてもらおうと考えていたがあの様子では生け捕りはおろか誰か一人が欠落してもおかしくないと判断。
ならば自分がウォールを攻め立ててイリスに手を出させないよう立ち回る方が間違いないと、鋲のついたブーツを踏み鳴らしながらウォールへ接近を試みる。
「さて、それじゃ俺も本気でいくとしよう……」
「好きにしろ、どちらにせよお前は殺すぞ。天上人側の味方をするならな」
「裏切った兵器が口にすることかね……!」
カイルの紅い剣がウォールの頭を捉え勢いよく振り下ろす。しかしウォールはどこからか取り出した長剣でそれをいなすと、バランスを崩したカイルの腹へ膝蹴りを放った。
「うらぁ!」
「おっと、マジかよ!?」
『お父さん凄いです!』
剣をいなされた瞬間に身を捻り膝蹴りはカイルの脇をすり抜けた。そのまま倒れこみつつカイルは銃をウォールの眉間を狙い、迷いなく引き金をひく。
撃鉄の音と共にウォールのこめかみから一筋の赤い筋が流れてくる。
「今のでも避けるとはな……!」
先の二発で超至近距離でしか弾が当たらないだろうと判断しての攻撃で、手ごたえがあったと感じていたが、予想以上にウォールの反応速度が良かったことに胸中で舌打ちをする。
「いや、いい攻撃だったぜ。だけどその体勢から俺の攻撃は避けれまい」
地面に倒れこんだカイルの腹に長剣を刺そうとするウォール。だが、そこへ重い一撃が飛んできた。
『ええーい!!』
「No.4か、大人しくしていろ! チィ!」
「よそ見していていいのかねえ!!」
イリスのレーヴァテインから撃たれるパイルバンカーをバックステップで回避し、剣の柄を彼女の頭へ叩き落とそうと腕を振る。
直後、すぐに起き上がったカイルはウォールの首を狙った。
「いい攻撃だ、俺を殺すという気概が見えるぜ」
「あの時は惑わされたが、なんであれ俺は俺だ。プロトタイプなんぞ知ったことか」
「くっく、そうはいかない。お前はお前であってはいけないんだよ。我ら天上人が地上へ戻るためにな」
ウォールは不敵に笑いながらカイルの剣と撃ち合い、弾丸を避ける。
「天上人なんてそれこそどうでもいい。が、俺達の生きる邪魔をするなら倒すまでだ。お前達の王ってやつもな」
「……それが出来るとは思えんがな。さて、二度も食らわんぞNo.4」
『あう……!?』
「イリス! てめえ……!!」
「む!?」
背後から攻撃を仕掛けたイリスを後ろ蹴りで吹き飛ばしたその時、カイルが怒りの表情で踏み込み紅い剣を薙ぎ払う。
先ほどまでは避けられていたウォールだが、その刃は彼の左腕を切り裂いた。
「速くなった……!? いや、今のはNo.4を蹴ってバランスを崩しただけ――」
「でりゃあぁぁぁぁ!」
「なにっ!?」
偶然の一撃……そう考えていたウォールだが激昂したカイルの剣は胸を一文字に切り裂いた。
「怒りで強くなるなど、こんなデータは無かった……モルゲン博士、あんたの見立てとは違うようだぞ!」
「それは興味深いね! ひゃは、ひゃはは! ぜひ生け捕りにして連れて帰ろうじゃあないか! 君もその方がいいだろうガイラル!」
「お前達が行くのはあの世だけだがな」
ガイラルとモルゲンは移動しながら氷晶剣と超振動ブレードの斬り合いを続けていた。その様子に助けは無理かと目を細めるウォール。
「ま、少し速くなった程度で俺を倒せるとは思わないことだな、プロトタイプ?」
「野郎……」
『お父さんはお父さんです!』
血を吐きながら笑みを消すウォール。
気配が変わった……この寒さの中でさらに肌を痺れさせる殺気を突き付けてきたウォールにカイルは半身に構えて腰を落とす。
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