92.


 

 フェンリルとの激闘が終わりカイル達は"終末の子”の封印を解くため祭壇へ。

 イリスの時と同じくガラス張りの棺を覗きこんだカイルが目を細くしてから一言呟く。


 「……ここも女の子か。イリスとミサ、そしてこいつ。男はヤアナとニック以外にもいるのか?」

 「もう二人居るな」

 「そういや俺もその一人だったか」

 「……」


 皮肉めいた言い方をするカイルに対してガイラルは視線を向ける。無言かと思われたその時、彼はカイルの肩に手を置いて口を開く。


 「その点については間違いないが、今のお前はすでにカイルとして生きている。エリザも娘も居る」

 「引き離したのはあんたなのにか? それに娘は――」

 『?』

 「いや、なんでもない」

 「私はお前の仲が嫌だと言った覚えはないがな」

 「む」


 そう言われてカイルは別に離婚を強要されたわけじゃないなと首を捻る。ならあの時のことはなんだったのか?

 問いかけようと考えるも、今は終末の子かと彼は棺に手を触れる。


 「お……」

 「目覚めるぞ」


 カイルが触れた瞬間、ガラスの棺が音を立てて崩れた。中で寝ている少女はセミロングの茶色の髪を耳のあたりから後頭部にかけて編み込んでいるような感じで肌の色は白かった。

 イリスのようなドレス……ではなく帝国とは違う騎士の服のようなものを身にまとっている。

 白いズボンに赤い上着が良く目立つとカイルが考えていると、少女の目がゆっくりと開かれた。


 『あ、目が覚めました。おはようございます!』

 「お目覚めか、気分はどうだ?」

 『……わ、私……は……? 確か改造されて……』


 上半身を起こしながら少女が呟く。

 カイルが手を貸して棺から立ち上がると、周囲を見渡してからカイルとイリス、それとガイラルに目を向ける。


 『あなた達は……? いや、その顔……あなたはガイラル様か』

 「うむ。封印を施した以来だな、覚えていてくれたか」

 『ええ。では地上掃討作戦が開始された、ということでよろしいか?』

 『ちじょーそうとう?』

 『む、小さな子がなぜこんなところに?』


 少女が足元で声をかけてきたイリスを見て訝しんでいるとガイラルが現状を口にする。

 

 『……なるほど、あの時のことは演技だった、ということですか。地上を征服すると送り込んだ戦力はその実、カウンターだったと』

 「そういうことだ」

 『そしてお前がカイルだったとは。時の流れはざんこ……いや、凄いものだな』

 「あんたも俺を知っているのか」

 『その子と同じかもう少し小さいころから知っているぞ。さて、事情は分かった。ガイラル様のためにこの槌を振るおう』

 「それはいいが名前は?」


 少女がイリスのようにどこからともなく戦槌を取り出してカイルが頭を掻きながら尋ねると、キョトンとした顔で口をへの字にしてから咳ばらいをする。


 『……覚えていないのか。寂しいものだ。私はリッカ。天上では騎士をやっていた』

 「え? まだ若いだろ」

 『……ああ。封印された時はまだ十六だったかな?』

 「え、十六!? いてえ!?」

 『小さいのです!』

 『な、なにを言うか!?』

 「くっく……」

 

 カイルどころか近い歳のフルーレよりも小さく、十三くらいだと思っていたカイルが驚きの声をあげると、イリスが飛び跳ねながら言う。その姿にガイラルが笑いながらお転婆だったからなと肩を竦める。


 『ガイラル様まで酷いですね! あ……』


 リッカがそっぽを向くとその視線の先にブロウエルの背中を発見し慌てて駆け寄っていく。


 『あ、あなたはブロウエル様ではありませんか!?』

 「……ああ。久しぶりだなリッカ」

 『や、やはり……! ああ……しかしお年を召されて……でもカッコいい……。ブロウエル様が居ればこの戦いは勝ったも同然。この命尽きるまで戦いましょう!』

 「ダメだ。死を恐れぬ兵士に価値はないと教えたのを忘れたか」

 『はっ……申し訳ありません! 復唱いたします! 『生き延びることに意味がある。逃げても恥ではない。生きて最後に成し遂げた者こそが強き兵なのだ』」

 「そうだ。この戦い『現在参加している人間』誰が欠けても成功しない。終末の子は切り札中の切り札。我らは生きてヤツを倒さねばならない」


 ブロウエルが帽子のつばを下げながらリッカに目線を合わせると、彼女は敬礼をして頷いた。その様子を見ていたカイルがガイラルへ尋ねる。


 「……あの二人はどういう関係だったんだ?」

 「上司と部下……と言いたいところだが師匠と弟子に近いところもあるな。まあリッカは若いブロウエルに惚れていたと思うが」

 「へえ。大佐も隅におけねえな。不愛想なおっさんなの――」


 カイルがそう言って笑うと目の前にダガーが飛んできた。それを指で挟んで止めてからカイルは激昂する。


 「あぶねえだろうが大佐!?」

 「なに、お前なら止めるだろうと思っていた。それより陛下、そろそろ行きましょう」

 『ええ、あの博士が関わっているなら急いだ方がいいかと』

 「ったく。それじゃ行こうぜ。イリス、抱っこしてやる。それにしても大佐が女の子とねえ」

 『はーい』


 意外な一面が見れたなとイリスに話しかけているとブロウエルから尻を叩かれて飛び上がるカイル。

 ガイラルはその様子に苦笑しながらその後についていき、飛空船へと向かう。


 物わかりのいい人物だったリッカ。彼女という新しい仲間を加えて戦力が増強されるがそれはモルゲン博士も同様だった。


 そしてカイル達がもう一人の終末の子であるシチという男を仲間に引き入れたころ、モルゲン博士もまた二人の終末の子を手に入れようとしていた。


 その現場に再びカイル達は相見舞えるが――

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