12. 

 

 

 地下四階に降りたカイル達はさらに奥へと進む。


 「ここもあまり変化がありませんね。目印は?」


 「大丈夫だよフルーレちゃん。いつでも戻れる。まあ、まだ二日目だ、焦らず行こう」


 カイルが十字路の地面に杭を打ち込み目印にする。カイルは気楽そうにそう言い、オートスが一瞬目を向けてくるが口笛を吹いてスルーした。そこでブロウエルが、そろそろいいかとぽつり呟き、口を開いた。


 「『遺跡』は天上人や地底人が作った、という話が一般的に流れているが、それは知っているな?」


 「そりゃ講義で『遺跡』についてひとつ枠を取っているんだから、勉強が嫌いなお……自分でも流石に知っていますよ。そいつらの作った道具や武器が眠っていてそれを回収して保管するのが自分達なんですよね?」


 ドグルがショットガンを肩に担いで振り返って答えると、ダムネもうんうんと頷き、フルーレも同意見という表情でブロウエルを見る。


 「講義だとそうだな。だが実際は少し違う。『遺跡』にあるものは確かに保管するため回収をする。だが、それは帝国の力を維持するためなのだよ」

 

 「力を……?」


 フルーレが聞き返すと、ブロウエルは前を向いたまま続ける。


 「そう。百年前の『煉獄の祝祭』も講義で知っているな? あれを終わらせたのは『遺跡』から発見された戦闘兵器なのだ。たまたま発見した我がゲラート帝国がそれを使った」


 「あ、あの時、国が一つ吹き飛んだというのは……」


 「史実では相手国が使った兵器の自爆ということになっているがそうではない。『遺跡』にあった”ロストウェポン”によるものなのだ。ゆえに、この作戦は失敗が許されない。いや、失敗しても、何が存在するか確認をするまで探索を辞めるわけにはいかないのだよ」


 「ロストウェポン……他国を抑制させるための作り話じゃないんですかね?」


 ドグルが冷や汗を流しながらそう言うと、ブロウエルは立ち止まりドグルへと返す。しかし目はドグルを見ていない。


 「公開はしていないから当然だ。だが、他国にも『遺跡』は存在する。故に、遺跡へ――」


 「スパイを送り込むんだよな! シュナイダー!」


 「わぉぉぉん!」


 「ええ!? どうしたんですか!?」


 シュナイダーと同時に、ブロウエルが踵を返し一瞬でシュナイダーと並ぶ。次の瞬間、女性と男の子の悲鳴が聞こえてきた。


 「きゃあああ!?」


 「う、うわ!? やめろよぉぉぉ!」


 「今の声は……!」


 「持ち場を離れるな、少尉! ……クソ、これだから下級兵は……!」


 フルーレが何かに気づきシュナイダー達を追い、オートスが呼び止めるも走り去る。隊長の命令を聞かなかったと苛立たしげに吐き捨て、今度はカイルを睨みつけながら質問をする。


 「いつから気づいていた」


 「最初から、ですね。あ、気づかないと思いますから落ち込まなくていいですよ。どうも”EA-312 ギリーフード”を持っているみたいです。あれは姿が風景に溶け込みますが、透明人間になるわけじゃないですからね。気配があったからダガーについたネズミの血を振りまいて気づきました」


 「……わかるもんなのかよ……俺も使ったことあるけど気配も消えるだろあれ……」


 「ぼ、僕は演習で使われたら全然分からなかったです」


 「……」


 オートスが黙ってカイルの説明を聞いていると、すぐに二人と一匹が戻ってくる。チカとビットを連れて。それを見てカイルが困った顔で微笑み、二人へ言う。


 「やっぱりか」


 「……気づいていたの……でも、どうして……」


 「シュナイダー! 逃げないから降ろしてくれよ!」


 「降ろしてやれ」


 「わふ」


 「いて!?」


 ビットが地面に落とされ尻もちをつくと、直後、隠し持っていたナイフでカイルを狙う。


 「兄ちゃんだけでも……!!」


 「よっ! ほっと」


 「うあ!?」


 だが、カイルはひょいっと横に避けて足を引っかけると、ビットは盛大に転びドグルに銃を突きつけられる。ドグルは冷ややかな声でオートスへ問う。


 「殺しとく?」


 「……止めろ、子供を殺すのは寝覚めが悪い」


 「チッ」


 ドグルは不満げにナイフを取り上げると、銃を突きつけたまま今度はカイルへ質問をする。


 「で、どうやら知っていたみたいだがどうして泳がせた? それに――」


 「どうしてわかったんですか……侵入者を捨て駒にして完璧だと思ったのに……!」


 恨みがましくカイルを見るチカにカイルは肩を竦めて説明を始める。


 「侵入者のフェイクは見事だったけど、君たちふたりは最初から違和感があったんだよ。シュナイダーを見て驚かなかった君たちがね」


 チカを抑えていたフルーレがハッとして目を丸くする。


 「そ、そんなところを見ていたんですか……!?」


 「ああ。ウチの兵士ですらびびるのに、ビットは恐れず撫でただろう? チカの横を歩いていたこともあるけど、チカは怖がるそぶりを見せなかった」


 「で、でも、村人は魔獣を追い払うことも――」


 「――あるだろう。だけど、村長はシュナイダーを見て酷くおびえていたろ? だから『ああ、上級の魔獣はこの辺りには出ない』んだろうと思ったわけだ。なら君たちは何らかの訓練を受けているんじゃないか、とね」


 「……そんな……」


 「訳を話してくれるかい? 話さないというなら、俺はここでビットを殺さないといけなくなる」


 「おい、よせと命令したはずだぞ! 隊長は俺だ!」


 「……!? わ、わかった、話すわ」


 オートスの叫びをカイルが手で制すと、チカはぽつりと話し出す。

 気を付けているつもりだった。帝国の情報を集めるため、何年も前から村に入り込み、村人も自国の人間と徐々に入れ替えていたと。そこで『遺跡』が近くに出現し、これはチャンスだと思ったのだと。



 「はあ……ま、今のご時世スパイなんてやってちゃ身が持たないぜ? 女の子なら猶のことだ。すぐに口を割ったからいいようなものの、女の子が拷問されるってことはどういうことかわかるだろ? それにビットみたいな子供は情を誘うには効果的だが、弱点にもなる」


 拷問と聞いてチカがサッと青ざめ、ドグルが口笛を吹いて歓喜する。


 「副隊長、その役目、自分にやらせてもらえませんかね! へへ、満足させ……いえっ必ず情報を吐かせて見せます!」


 「うるさい!」


 「痛っ!? なんでオートス……隊長が殴るんだ!?」


 「その必要はないよ。ウィスティリア国のクーデター派の仕業だろう。侵入者と一緒に帝国へ送って、国と交渉だな」


 「ちぇー。ダムネの童貞卒業できなかったな」


 「ぼ、僕は関係ないでしょ!?」


 するとフルーレが憮然とした表情でオートスへ口を開く。ドグルへは汚物を見るような目を向けていた。


 「隊長、この二人をこのまま連れて行くのは得策ではありません。一度キャンプへ戻るべきです」


 「俺もその意見だ。隊長、一度戻ることを提案する」


 するとオートスは目を閉じて考えた後、信じられないことを口にした。


 「……いや、このまま進むぞ。時間がもったいない」


 「マジか? 今はグリーンペパー領の人間だが、スパイなんだぞ? それに護衛対象が増えるのは――」


 「隊長である俺が責任を持つ。なに、強力な魔獣の餌にすれば隠滅もできよう? それより『遺跡』をしっかり調査するんだ。ブロウエル大佐、俺の提案に何かありますか?」


 「隊長が決めたのなら私は構わん」


 「さいですか……了解。フルーレちゃん、ふたりを縛ってくれ。で、シュナイダーとふたりを護衛頼む」


 「わ、わかりました」


 「あーあー、面倒なことになってきたなあ」


 「無駄口を叩くな。いくぞ」


 ドグルの嫌味をものともせず、オートスは歩き出した。


 「(さて、とりあえずは後ろから撃たれることはなくなったか。『遺跡』の調査に専念できる。しかし魔獣も少ないし、迷路も単純……何か裏が……? ん? これって……)」


 カイルは自分でつくったマップを見ながら、あることに気づく。

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