11. 



 「また行き止まりか。おい」


 「はいはい、目印つけておきますよっと」


 『遺跡』へ侵入してからすでに半日が経過していた。地下二階までは順調に進んでいたものの地下三階から急に分岐路が増え、今のように行き止まりに当たる回数が増えていたのだ。


 「……もう陽が暮れた時間だ。隊長、そろそろ戻りますか?」


 「いや、食料はあるからこのまま野営だ。ダムネとドグルは寝床の準備、フルーレ少尉は火を熾してくれ。副隊長は周辺の調査と先ほどの魔獣除けを設置してくれ。ブロウエル大佐はこの場で警戒を」


 「承知した」


 「了解しました! カイルさん、頑張ってくださいね!」


 「サンキュー、フルーレちゃん。シュナイダーの背中にある木箱を降ろしてやってくれ」


 「わん!」


 わかりましたと元気な声を聴きながらカイルは来た道をいったん戻る。この通路に入る前に曲がったT字路に”タチイラーズ”を設置すればいいかと思ったからである。しかしその時だ。


 「ま、こうなるよな」


 シャァァァァ!


 ビヂュゥゥゥ!


 T字路に差し掛かったところで、カイルは足を止めひとり呟くと蛇型の魔獣とネズミ型の魔獣に囲まれる。カイルは頬を掻きながら腰のダガーに手を添え腰を低くして迎撃態勢を取る。


 「魔獣になると賢くなるのはどの生き物も同じか。そら!」


 長さは二メートル前後で、カイルの胴体くらい太い蛇が飛び掛かってくるが、それをひらりと回避し、抜いた左手のダガーで頭を真っ二つにする。もう一匹は”イーグル”ですぐに打ち抜かれた。


 「次……!」


 ネズミ型の魔獣は三匹。ぐるぐると回り、狙いを定めないように動く賢さを見せているが、低級なのでひとりでも対処は難しくなかった。


 「はは、ネズ公、これならどうだ?」


 カイルはポケットから白い紙のようなものを取り出し、床に投げつけた。ネズミたちはそれを一度は回避するがカイルが無防備でいることに気づき一斉に走ってくる。だが、カイルへ飛び掛かることはできなかった。


 ヂュヂュウ!?


 「特殊な粘着シートだ、動けないだろ? ……じゃあな」


 パンパンパン! と、乾いた発砲音が鳴り響きネズミ型魔獣はぴくぴくとしえやがて動かなくなる。筒を設置したカイルは戻りながら周囲を確認していた。


 「……随分警戒が強い『遺跡』だ。確かに侵入者を阻むもんだけど、ここは奥へと行ってほしくないというのがひしひと伝わってくるな。あまり長居できないか? 流石に脅威級はいないと思うが、なんかまずい気がする」


 ダガーの血を払い、銃は手に持ったまままた部隊の下へ戻ると、食事の用意が始まっていた。もちろん衛生兵のフルーレが担当しているのだが――


 「さ、できましたよ皆さん! って言ってもレーションですけど……」


 「くっく、そりゃ生の食材を持ってくるわけにゃいかないしな! てか料理上手いのかよ?」


 「じ、自信はありますよ! お家ではよく作っていましたし」


 「それはいつか食べてみたいねえ」


 「それはここから帰れたら、だな。生きて戻っても、なんの成果も挙げられなかったらそれは恥だ」


 和やかだった雰囲気がオートスの一言で一気にしらけ、ドグルは口を尖らせて壁に背を預けてレーションを口にする。


 「お前、ちょっと気負いすぎじゃねぇか? まずは死なないことが前提だろうが。今回はダメでも、一回戻ってまた準備すりゃいいだけだろ?」


 「そうはいかない。期限はある。……そうですよね、大佐?」


 黙ってレーションを口にしていたブロウエルが手を止め、オートスに目を向けて口を開く。鋭い目が刺さり、一瞬怯む。


 「……知っていたか。どこで情報が漏れたか分からんがその通りだ。まあ心配するな、一か月ある。全滅をしなければ何らかの成果はあるだろう。全滅をしなければな。私の知る限り、仲間割れが失敗原因になりやすい。それと、独断先行や私欲などもあるな」


 「わふ」


 そう言ってシュナイダーの頭を撫でながらまた、レーションを口にする作業に戻るブロウエル。オートスやドグルにその傾向があるぞと暗に締め上げをしたというところだろう。

 流石に今の空気だと大佐も苦言を言うかと安堵し、食事の続きに戻る。ふとフルーレを見ると、難しい顔でブロウエルの顔をみつめていた。


 「(犬好き……意外……)」

 

 「フルーレちゃん? 大佐に怒られそうなこと考えてない?」


 「ふえ!? いいいいいえそんなことは! さ、見張りの順番とか決めましょう!」


 「くっく、取り乱しすぎだぜフルーレちゃんよう」


 慌てて取り繕うフルーレにオートス以外の全員が苦笑しながら各自食事を終える。筒の効果があったためか、魔獣に襲われるということもなく翌日を迎えることができた。


 そうして地下三階を探索するが、


 「……これで全部の通路を探索したか副隊長」


 「ですねえ。どっかに見落としがあったかな……?」


 「て、手分けして探しますか?」


 ダムネが槍を肩に担いで提案するが、カイルは首を振って答える。


 「今は低級しかいないけど、どこに上級みたいな強力な魔獣と出くわすか分からない。それはダメだ。それにダムネ中尉は盾だから尚のこと単独探索はさせられない」


 「そ、そうですね……」


 「なら地道にやるしかねぇ……な!」


 ボトボト……


 「きゃあ!?」


 天井に張り付いていた蜘蛛型の魔獣もとい魔虫がドグルの撃った弾丸で爆散し残骸が落ちてくる。オートスは仕方なくといった感じでカイルの提案を飲みキャンプを片付け移動を開始する。


 「行き止まりを徹底的に調べましょう!」


 フルーレの言葉で一行は壁という壁を調べつくす。筒のおかげで魔獣とはほとんど遭遇しないが、疲労感はあった。何とかカイルがほんの僅か、色の違う石を見つけて階段を発見することができた。


 「ひゅー」


 「す、すごいですね!」


 「”ナイトスコープ”で魔力の流れを見てみたんだ。一か所、壁の中から魔力が漏れているような場所があったからそこをちょちょいとね」


 「へー。あなたのご主人様、凄いわね」


 「わん!」


 「よくやった。これはきちんと報告してやるからな? さ、急ぐぞ」


 「了解。ダムネ中尉、先頭を頼むよ」


 「は、はい!」


 そして到着する地下四階――

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