願いを叶える記事と、友の願い⑥
昼休みになり給食を終えると、再び友亜の周りには人が集まってくる。 今回は長い休み時間だからか、先輩の姿も多く見えた。
「友亜くーん! 今日も願い事、書いてもらっていいー?」
「あ、はい・・・」
―――凄いな、上の学年にまで記事の噂が広がっているなんて。
昼休みが始まってまだ5分だというのに、行列ができる程である。 だけど友亜はずっと暗い顔をしていた。 まるで作った笑顔を張り付けたようだと、冬弥は思う。
本当に楽しかったり嬉しかったりして、笑っているわけではなかった。
「お疲れ様。 大丈夫か?」
行列をさばき終え、解放された友亜は机に突っ伏している。
「大丈夫だよ・・・」
「そうは見えないけどな。 ずっと浮かない顔をしているし、何か思うことでもあるんだろ?」
そう尋ねると、友亜はゆっくりと顔を上げた。 どこか切なく、泣きそうな表情を浮かべている。
「本当にどうしたの?」
「・・・あまり記事、書きたくないなって」
「どうして急に?」
「だって、よく考えたらおかしいじゃん。 どうして僕が書いた記事は、実現するの?」
「・・・」
―――ついに、そこに疑問を持っちゃったか。
―――千晴さんと話している時には、既に友亜の様子はおかしかったけど・・・。
「もし願いが叶うことによって、誰かが犠牲になっていたら? そんなの、僕は嫌だよ」
―――犠牲。
―――それはさっきの、総合の授業の影響だろ。
友亜の目には涙が溜まっている。
―――・・・友亜、そんな顔をすんなよ。
―――確かに犠牲になっている人はいるけど、それは死んでいる俺。
―――痛くも痒くもないし、俺は構わない。
―――・・・友亜と過ごすのは、今日で最後になるかもしれないんだ。
―――だから、今日だけは笑ってくれよ。
おそらく自分は、今日消えると思っている。 だから、最後くらいは楽しい気分で過ごしたかった。
「どうして記事に書いたことが現実になるのか。 それは俺もよく分からないけど、友亜が神様から選ばれて与えられた力だ。 千晴さんの言葉を気にし過ぎ。
それに、たとえ誰かが犠牲になっていたとしても、俺らには分かりっこないだろ? それはさっきの、いじめの授業が影響し過ぎ」
もちろん、願い事を叶えるというのは単純な話ではない。 願いというものは自分の力で叶えると誰も不幸にすることはないが、幸運によって叶えられた願いは誰かが割を食っているということになる。
だから、願いの重さは軽いものにするよう促してきた。 友亜は感受性豊かだ。 いつかはこういう日が来る可能性も考えていた。
「じゃあ、じゃあ! 犠牲になるのが誰かじゃなくて、自分だったら? 願いが叶った分、全て僕に代償がきたら!? それも嫌だよ!」
「そんなことは俺がさせない。 俺が友亜の代わりに、犠牲になってやる」
「そんなのは駄目! 僕が許さない!」
涙目で訴える友亜に深く息を吐く。
「・・・じゃあ、もう記事を書くのは止める?」
「え・・・」
―――実際、本当にもう記事を書かなくなったらどうなるんだろう。
―――俺はずっと霊として、友亜の近くで過ごせるのかな?
ほんの少しだけ、そのような期待も込めた。 だが元々、時間がかかり過ぎた場合も消滅すると聞いている。
結局のところ、友亜が人気者になるかならないかは関係なく、いずれ冬弥は消えてなくなってしまうのだ。
「・・・ううん。 僕が書かないことによって、みんなの笑顔が減るのは嫌だ。 みんなが悲しむくらいなら、僕は書き続けるよ」
それならもう言うこともない。 願いを叶える力によって、人とのコミュニケーションを取る機会が増えたのは確かである。 おそらく能力を失ってしまえば、人は減るだろう。 ただ残る人もいるだろう。
その人たちと育んだコミュニケーション能力で付き合えば、いずれは信頼できる仲間もできる。
―――俺とは、違って・・・。
寂しいが、自分にはもうどうしようもないことだった。
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