願いを叶える記事と、友の願い
ゆーり。
願いを叶える記事と、友の願い①
高校に入学して、一週間が経った。 登校中に目に入ってくるのは、公園の桜。 今年の冬は例年より寒かったため、四月の中旬を回ってもまだ満開だ。
中学の頃は親友である友亜(トモア)と一緒に登校していたのだが、今は別々。 主人公、冬弥(トウヤ)が寝坊しやすいということで別々にしてもらったのだが、本当の理由は別にある。
友亜も薄々、それを感じていたようだ。
―――うわ、赤だったのか。
―――危ない、またやっちまった・・・。
ぼんやりと歩いていると、赤信号を渡ってしまっていたことに気付く。 幸い車が通らなかったが、警察にでも見られていたらマズい。
慌てて周りを見てみるが、誰一人自分のことを気にしていないようだった。
―――まぁ、いいか。
親友の友亜とは、小学校に上がった時に出会った。 クラスが一緒で互いの苗字が“あ”から始まるとのことで、席が近い。 自然に話すようになり、自然と親友になった。
繊細だが心優しく、話しやすいということもあっただろう。 もっとも最初は人見知りを存分に発揮していて、冬弥から話しかけなければ、今とは関係が変わっていたかもしれない。
友亜は知れば知る程よさが分かる。 仲よくなれば人懐こい。 一つ言うなら“他の友達もできればいいのに”とも思うのだが。
―――ここ、今日も人通りが多いな・・・。
冬弥は人混みが嫌いだった。 何故かよく分からないが、人ごみに紛れると負のオーラを取り込んでしまう。 どうにか避けることができないかと思い辺りを見渡すと、家と家の狭い隙間を見つけた。
―――前も通ったけど、地味に学校への近道だったんだよね。
横を向いてカニ歩きで行けば、ギリギリ通れるのかもしれない。 普通の人なら、そう考えるくらいに狭かった。 虫もいそうだ。
だが冬弥はその体格を生かして、カニ歩きをすることもなく堂々とそこを通っていく。
―――今日も友亜、みんなから人気者になっているのかな。
学校へ着き、昇降口まで歩く。 自分の下駄箱は、出席番号により一番右上。 だけど冬弥の下駄箱には、名前が書かれていない。 他の生徒の名はきちんと書かれてあるというのに。
―――流石に、名前が書かれていないのにはもう慣れてきたな。
別にいじめられているわけではないのだが、そのままにしている。 気にしなければ、気にならなくなってくるというものだ。
自分の下の下駄箱に友亜の靴があることを確認し、そのまま教室へ向かった。 そこには想像通りの光景が広がっている。 窓際にある友亜の席は、たくさんの生徒によって囲まれていた。
入学式の次の日から、友亜は人気者になったのだ。 どうして人見知りの彼が人気者になったのかには、もちろん理由がある。
―――不思議な力・・・。
友亜は新聞部に在籍しているのだが、そこに“書く記事が実現する”という噂がある。 それも新聞部が、ではなくて友亜が、である。
当然、突拍子もないことは無理だし、人に迷惑をかけることも無理らしいが、それでもロマンがあった。 一日、一人一つまでだが。
―――まぁ、友亜が人気者になってくれるならそれでいいや。
あくまで、記事を書いて願いが叶うから人が寄ってくる。 友達とはまた別の関係だ。 冬弥は窓際の、最前列の自分の席へと座る。
友亜が記事を書く手を止めこちらを見てきたため、口だけで“頑張って”と伝えた。 記事は朝のうちに書くことが多い。 邪魔したくなかったのだ。
友亜の周りでワイワイと願い事を口にし、それを聞き取った友亜は記事として仕上げるという形だった。
―――よく全ての願い事が聞き取れるよな・・・。
尊敬しながらその光景を見ること、数分。 ようやく願い事を全て書き終えたのか、周りにいた生徒はみんな散らばっていった。
「冬弥、おはよ!」
「おはよ。 友亜、今日も人気者だな。 朝からどのくらい書いたの?」
「30個くらいかな?」
「マジで? 凄」
友亜が書いた記事を読んでみる。
『スクープ! ○○が先生と二人きりに!? しかも昼食も一緒! これは一歩近付ける予感!』
まず最初に目に飛び込んできた内容。 子供っぽい、おそらく女子の願いだと考えると微笑ましい。
「ねぇ、友亜は人気者になれて嬉しい?」
「嬉しいよ! こんなにたくさんの人と話すの、生まれて初めてだし!」
「そっか」
「・・・冬弥は、僕が人気者になって嬉しくない?」
「そんなことない。 嬉しいよ」
「本当? 僕だけ人気者って、やっぱり不公平じゃない? 冬弥も一緒に書こうよ」
「俺はいいよ。 それは友亜だけのものだから」
そう言うと、体勢を戻し前を向いた。 『寂しくない』と言えば嘘になる。 中学校の時は、何をやるにも二人でやってきたのだから当然だ。
―――友亜の言う“寂しい”と俺の思う“寂しい”は、意味が違うんだけどね。
それに――――
―――友亜が人気者になってほしいって、俺が願ったんだから。
机に上に置かれた、一輪挿しの花瓶を見ながら冬弥は小さく息を吐いていた。
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