第34話 事故。

 そう。


 彼女に初めて会ったのは、事故で死んじゃうあの時の、走馬灯が見えてるまさにその時、だったっけ。




 あたしはセリーヌ・ラギ・レイズ。


 レイズ王家に生まれはしたもののなんの能力にも目覚める事もなく。


 優秀な兄さんの後ろでニコニコしているだけの、そんなちっぽけな存在だった。


 そう。あの事故までのあたしは。




 馬車に乗っていたあたし。セントイプシロン女学院初等科に通う途中の十歳のあたし。


 そんなあたしが巻き込まれたのは、自動人形オート・マタの操作する魔力動力荷車マギアオートカートの暴走。


 暴走して制御の効かなくなったその動力荷車オートカートがあたしの乗った馬車の横に突っ込んで。



 たぶん、あたしはこの時に死ぬ運命だったのかな? そう思った。


 衝撃に倒れた馬車。


 頭を打ったあたしはそのまま白い世界の中で走馬灯を見ていた、筈、だったのだ。




 目の前に天使が現れる、その時までは。










「セリーヌ。貴女は今死にました」


 そう淡々と話す彼女は金色のふわふわの髪に白いやっぱりふんわりとしたワンピース。


 右目は碧い瞳、左目には金緑の猫目。


 顔立ちは何故かあたしによく似たそんな容姿の天使。


 背中には天使の羽がふわふわ羽ばたき、ほんとあたしの目の前をふわんと浮いている。


「ふふ。そっか、あたし、死んじゃったのか」


 なんだか実感があんまりなかった。っていうか生きてるっていう実感も薄かった、から。


「あらら。あんまり動じないんですね?」


「まあ、別に死んじゃうんならしょうがないかなって」


「諦めが早すぎません? ここはほら、女神様助けてとかなんとかそういう場面じゃないですか」


「助けてって言ったら良い事あるんです?」


「うきゅう。ひねてませんか? こんな子でしたっけあなた」


 え?


「あたしの事、しってるんです?」


「そりゃあもう。知ってるなんてもんじゃないですよ? あなたの事なら過去から未来まで!」


「未来って。あたしここで死んじゃったんじゃなかった?」


 死んじゃったのに未来がって言われてもピンとこないよね。


「そこですよそこ。貴女は本来だったらこんなとこで死んじゃう子じゃないんです!」


 本来だったら?


「たぶん、ですけど、とうとうマザーが貴女のことを邪魔だって、そう思考したって事なんでしょうけど?」


「マザー?」


「貴女が未来に戦う事になる宿敵、ですよ」


 えーーーーー?


「どういう、ことですか!?」


「この世界線ではとうとうマザーがこの時代の貴女だったらこうして消してしまえるっていうそんなブロックを見つけたって事です」


 よけいにわけわかんない!


「マザーの思考はチェーンのように複雑に絡まってますからね。常に最適解最適解と辿ってはいるんですけど、この先の未来に破滅があることをシミュレートしてしまったんでしょう。貴女というキーを取り除くことが最適解だと判断されたって言うこと、ナノデスよ」


「うーん。要するに未来のあたしが邪魔になるから今のうちに殺しちゃえ、みたいなはなし?」


「そうそう。そういうことです。で……」


 目の前の女神様、ちょっと瞬きをして一瞬考えて。


「このまま貴女が死んでしまうと色々と不具合が発生するので、それを阻止するために未来からやってきたのです。あたしは貴女の未来の姿なんですよ!」


 えーー!!


 この時は本気で驚いた。


 この女神様があたしの未来?


 未来のあたしなの?


 って。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る