第27話 調整者。

「だからさ、お嬢ちゃん。俺らと一緒に来れば悪い目にはあわせないからさ」


 目の前には3人のガラの悪そうな男の人。


 公園のベンチで座ってたらナンパ? されたのだ。


「連れが居ますからお断りします」


 そう断ったのだけどちょっとしつこい?


「その連れって女の子? だったら一緒に遊ばない?」


「いえ、兄が……」


 一応シルヴァの事はここでも兄で通してる。


 まだこの街に着いて2日目。初日は旅館に泊まって食堂で少し情報を、と思ったけどお店の人も利用者の人もなかなか他所から来た人間にペラペラ話してくれるような雰囲気じゃなかった。


 前の街じゃダントさんがいたからなぁ。


 ダントさんたちだって受け入れられてるとは言い難い状況だったけど、それでも同じ冒険者の人達とのコミニティも出来てて、いろいろ話が聞けたっけ。


 やっぱりコミ障のボクじゃ、難しいのかなぁ。


 そんなことぼんやり考えてた、ら。


「おいおい! シカトしてんじゃねーよ。お前、NPCか? だったら遠慮はいらねーか? どうせ感情なんか無いんだろ?」


 は?


 何?


 何この頭悪そうなヒトタチ。


 もう返事するのもバカらしい。


 ボクはそう彼らのことを無視して手元にあった本を読むことにして。


(そう! この世界にも本があったの! 今読んでるのは御伽話みたいなのなんだけどね?)


 と。


 いきなり。


 バン! と、持ってた本が弾かれた。


「バカにすんじゃねーよ! このくそNPC! 俺たちゃ人間さまだぞ!」


 うー。とうとう完全に怒らせちゃった。


 不思議と怖いって感情は湧いてこなかった。昔のボクだったらこんな時はけっこう臆病に震えてたかもなんだけど。なんだかそんなところも変わってきてるのかな? そう考えるとちょっと怖い、か。自分が自分でなくなるようで。


 顔を真っ赤にしてる目の前のお兄さん。周りの2人の方はちょっとオロオロしてる?


「落ち着けよアキラ、これ以上はまずいって」


「そうだよアニキ、この町で飯も食えなくなったらどうするよ」


「うるせー! そん時はそん時だ!」


 アキラ? の手がこちらにずっと伸びてボクの肩を掴んだ。


 ああ、もう。しょうがないなぁ。


「これ、正当防衛だからね? 恨まないでよ」


 右手でちょんと相手のお腹にさわる。


 アトラスの権能を解放。まあちょこっとだけ? 加減してるよ?


 ボン!


 と、十メートルは吹っ飛んだ彼。ああ、気絶しちゃったか。死んじゃったりはしてないはず?


「アキラ!」「アニキ!」


 駆け寄る両隣のお兄さん達。


「覚えてろ!」


 そうありきたりな捨て台詞を残して気絶してるのを抱えて逃げていった。



 もう、ほんとやんなっちゃう。


 ボクは地面に落ちた本を拾って砂を払うともう一度ベンチに座った。




 この街には若者が多い。それもたぶん、ああした「この世界に紛れ込んだ人」だ。


 ダントさんのように世界に順応してなんとか生きている人はマシ。特別な力も持たずゲームだった筈って未だに思い込んで自暴自棄になってるのも、居るってことなんだろうね?


「ねえフニウ。あの人たちにはフニウのようなナビゲーターは付かなかったの?」


 そう。ボクが一番不思議に思ってるのはそこ。


「言ったろ? ボクは君に頼まれたんだって」


「じゃぁ、どうしてゲームの世界にいた人がこの世界に来ちゃってるの?」


「だね。そこのところに僕は関与してないからさ、まあ、予想はつくけれど」


「教えてはくれないんでしょう?」


「きっとあれは『調整者』がやってる事だとはおもうんだけどね」


「ちょうせいしゃ?」


「ああ。この世界で機械神に代わって世界を調整してるギアだよ。何人かいるんだけどね」


「フニウは?」


「僕は別格。けっこう自由なの」


「って、お仕事してないって事?」


「あはは。今はちゃんと君のナビゲーターやってるよ?」


「ふふ。そっか」



 シルヴァがギルドでここに来る間に狩った獲物を換金してきたら、今日は街の中央に足を伸ばしてみようか。


 あんまり目立つ事はしたく無いけど、図書館みたいなものもあるかもだし。


 もしかしたら何か手がかりが見つかるかも?



 だといいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る