第77話 既成事実一つで逆転は可能!
喫茶店で恐らく二人の忘れ物のなのだろう紙袋に入っていた明日菜の本をパラパラと捲る。
多分涼くんに読ませたいって思い持ってきた本……大切なお父さんの本……それを忘れるなんよっぽどだったのだろう……。その本を私はパラパラと流し読みする。
内容は主に隠している恋、好きだけど好きだと言えない女の子が出てくる恋の物語。自分の気持ちをそうでもしないと伝えられない乙女な明日菜ちゃん、かわいすぐる~~。
全部亡き父、お父さんが若い時に読んでいた本……若い時から死んじゃうまでのお父さんの本。
明日菜は純粋だ……友達もいなかった明日菜はずっとお父さんの本を読み続けている。
膨大なお父さんの本は、そんな純粋な明日菜を形成する一つになっていた。
「さあ、面白くなってきたねえ~~」
これは明日菜の初恋、涼くんは明日菜の王子様……そしてその障害となるのが王子様の妹と幼なじみ。
まるでお父さんの本の様な恋愛譚、ここまで明日菜に火を着けて置けば、消える事は無いだろう。
そして障害が高ければ高い程、物語の様に……燃え上がる……よねえ。
そして一番の障害は涼君あの色々と可愛い妹……。
「切れ者の妹なんだろうけど、ふふふ、ちょっと経験が足りないかなあ」
知識だけでは人は動かない、あの子がやっているのは机上の空論。
多分あの子は理解していない、本人でさえも、自分の事はわからないって事を理解していない。
言葉を交わしその裏を、本人の内心を読む……って所迄は出来るのだろうけど……その内心が本当の事じゃない……それが正解ではない。それは本人でさえもわからない……わかっていない。だから人は簡単に裏切る、簡単に心変わりする……。
さらに……人は自分の記憶を書き換える。最初からそう思っていたと、そう考えていたと言う。
人の記憶なんて曖昧だ、人の考えなんて全く当てにならない。
それを簡単に誘導できるなんて思っているあの子が少し羨ましい。
でもそれが、そう思える事が凄く純粋で……可愛い。
「ふふふ、可愛いねえ……皆……可愛い」
二人の恋の物語が始まる。
でも……終わりは見えない……私でも見えない……ううん……終わりなんて……無いのかも知れない……生きている限り……恋愛に……終わりなんて……無い。
◈◈◈
「畜生畜生ちっくしょう~~!」
屈辱的だった、こんな扱い今までされた事になかった。
家に帰りながら私は一人声を上げる。
全て計算通りだったのに、お兄ちゃん雪乃さんも今まで思い通り動いて来たのに。
想定外は必ずある……勿論そこまで考えての作戦。
でも……あいつは、あの芸能人想定外過ぎた。
経験値が違う……違い過ぎる……。
一体何者なの? いや綾っていう名前で活動しているモデル……インフルエンサーってのは調べていた。
読者モデルを経て、SNSで火が着き、イベントを中心活動を始めた現在売り出し中のモデル。
最近じゃ最近都市伝説にもなっているライブイベントでの歌の披露。
時に大胆に、時に繊細に、まるで何人もいるかの様に変幻する姿と仕草。
飽きの来ない活動スタイルと評判のモデル……。
ちっ……スタイルだけのバカ女じゃなかった……って事か……。
雪乃さんにある意味振られ、落ち込んでいる所で私が帰る。
家族への思いを雪乃さんに向けていたお兄ちゃんは、私が帰る事でその思いを雪乃さんから私に移動させる。
そこで雪乃さんが、お兄ちゃんを見直し、お兄ちゃんも改めて雪乃さんを見直す。
共に周りと客観的比べその魅力を再認識させる。
そして今度は恋人として二人を燃え上がらせれる。
私もお兄ちゃん仲良くなれ、お兄ちゃんは雪乃さんと恋仲になり、雪乃さんは私に感謝をし、将来は3人で家族なる……。
雪乃さんとお兄ちゃんは若くして結婚、妊娠、出産、その子供に私はおばちゃんと呼ばれ、おばちゃんじゃない、楓さんと呼びなさい! っていうのが私の夢なのに……。
「夢だったのにいいいい」
最悪他の人でも可能……私が同じ様に誘導して雪乃さんの代わりにすればって……そう思っていた……けど……。
「あいつが居たら駄目だ……全く思う通りに行かない」
そもそもあいつが家族になったら、私が入り込む余地が無くなる。
私の作戦が全く機能しなくなる。
全部読まれてしまう。
こうなったら……もう……最後の手段だ。
既成事実しかない……仮の恋人から本当の恋人に……。
焼け棒杭火を着ける!
お兄ちゃんの相手はあの芸能人じゃない、ただの同級生、しかもどう見ても奥手のコミ障女。
恐らく同じ趣味で意気投合したんだろう、そしてあの芸能人姉の作戦にまんまと嵌まったんだろう。
でも……つまり二人はまだ何も始まっていない!
ここからがスタートラインだ。
やる、やってやる! もう構ってられない、あらゆる手を使い、雪乃さんとお兄ちゃんをくっ付ける。結婚させる!
所詮お兄ちゃんは、やりたい盛りの高校生、そしてあの真面目な性格……既成事実一つで責任を感じて……。
「フフフフ、あはははは、見てろよ! 芸能人女、私を甘く見た罰だ」
振られた妹と泣け、私をこんな気にさせた罰だ!
「姉妹で一緒に泣かしてやるんだからね!」
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