第73話 なんだこいつ?



 翌日多分ゴスロリ同級生に会いに行くお兄ちゃんの後をつける。


 まるで天国にでも行くのか? ふわふわと地に足を着けていない様な足取り……。

 かなりの距離が空いているにもかかわらず、鼻歌まで聞こえてくる。

 聞いた事の無い心地よいメロディ……あはは、まさかお兄ちゃんの自作?


 私は今回も黒いスーツに黒いネクタイ、勿論懐にはコルトガバメント、調査といったらこの格好だ。

 そうこれは調査なのだ。 決してストーキングではない。

 

 でも、変装の意味が全く無い位にお兄ちゃんは浮かれている様だった。


 そのまま後をつけるとお兄ちゃんは駅近くの喫茶店に入った。

 

 私はお兄ちゃんから少し遅れて店に入り、バレない様に真後ろの席に座る。

 4人掛けテーブルで席がブースの様になっている。背もたれが丁度壁の様になっているので立ち上がれば隣が見える。

 かといってこんな所で覗いてはお兄ちゃんにばれるし、周りに不審がられる。

 私はポケットからケーブル付きのカメラを取りだしスマホに付け、それを使い背もたれ越しにそっとお兄ちゃんの様子を伺ってみた。


 お兄ちゃんは物憂げに外を見つめている。

 切なさそうに、でも嬉しそうに……まるでこれから恋人に会うかの様に……。

 その未だ嘗て見たことの無い、お兄ちゃんの儚げな表情に私は少し寂しさを感じた。


「……そんなに……好きなんだ……」

 スマホの画面に映るお兄ちゃんを見て……お兄ちゃんのそんな表情見て…私の心が揺らぐ。


 するとお兄ちゃんは何か見つけた様に突然立ち上がると一目散に店の外に向かう。

 一瞬出ていったのかと私も店員さんも動揺したが、直ぐに誰かと店内に入ってくる。


「…………は?」

 お兄ちゃんは制服姿で前髪が長くかなり度の強い黒色メガネをかけたもっさい女と一緒に入ってくる。

 あれが……同級生? は? 嘘でしょ?

 何あのもっさい女 あれがお兄ちゃんの想い人? ゴスロリ女じゃなかったの? 私は混乱した。


 席に着くと二人は初め黙って見つめ合う。

 でも、なんとなくいい雰囲気ではない気が……いや、お兄ちゃんの表情しか見えないけど……。

 暫くすると何故かその同級生はうつ向いてしまった。


「いや、なんか話せよ……」

 もっさい上に話もろくに出来ない……なんだこの女? どこが良いんだこんな女?

 お兄ちゃん……おかしいの? 騙されてる? お金でも借りてる? いやいや、うちはそれなりに裕福だし、私と違ってお兄ちゃんは小遣いとか拒否してないし……。


「ま、まさか……身体の関係……とか?」

 ああ見えて脱いだら凄いとか、とんでもないテクを持ってるとか……。

 いいやいや、お兄ちゃんは間違いなく童貞の筈だ。

 なんとなく匂いでそれはわかる。 そもそも雪乃さんに操を立てていたし……キモ……。


 でも……じゃあ……一体……。


 暫くするとその同級生はようやく口を開く。


「あ、あああ、あの、あの、前に言っていた本……も、持ってきたの」

 そう言ってその同級生はお兄ちゃんに紙袋を差し出した。


「……あれ? この声どこかで…………あ、わかった! こ、こいつ……あのゴスロリ女だ!」

 そうか……それでか……。

 普段はこういう恰好で、実は可愛いって奴か……お兄ちゃんの趣味ドストライクじゃん……。

 まるでお兄ちゃんが良く読んでいる本に出てくる様な女の子……なるほど……だからか……。

 いや、でも、それだけじゃない気がする。それだけじゃお兄ちゃんがあんなにも好意を抱くとは……あんなになる程好きになるとは思えない……雪乃さんよりも……好きになった理由としては何か足りない気がする。


 この女子には、なにか秘密が……一体それは? そう考えていると……。


「ふ、ふ、ふふふ、ふええええええええん」


「え? えええ?」


「うええええええええええん、ご、ごめん、なさ……いいい、うえええええええええん」


 突然その元ゴスロリ女の同級生女が人目もはばからず泣き始めた。


「えええええ?」

 まさにお兄ちゃんと同じ反応、だって、会話から泣く理由がわからない。

 本を貸すって言って……ありがとう全部読むよって言ってただけ?

 何故それで泣く? なんだこいつ?

 情緒不安定のゴスロリ女で、その本当の姿がこれって? 一体お兄ちゃん、こいつのどこが良いの? という思いしかない。


 わんわんと泣く同級生、どうする事も出来なくおたおたするお兄ちゃん。

 周りが不審そうにこっちを見ている。


 やばい私がカメラで覗いている事が、私は慌ててカメラを手にした腕を引っ込めると、その時声が。


「ううう、ご、ごめんさない……」

 そう言って元ゴスロリ現制服眼鏡同級生の意味わからなく泣く女は店の外に走って行く……。


「………………は?」

 ちょっと何やってんのお兄ちゃん!? どんな理由にしろ女の子が泣いて走って逃げてるのに、なぜ追いかけないの? バカなの? 死ぬの? 


 でも、これでお兄ちゃんが追いかけなければ、あの女とは終わりになるかも知れない。

 そうすれば再び雪乃さんが浮上してお兄ちゃんと……そう思ったその時……私の脳裏にお兄ちゃんのさっきの顔が、あの物憂げに外を眺めていたあの幸せそうな顔が浮かんだ。


「ちょ!お兄ちゃん! 何故追いかけない! なんなの? バカなの? 死ぬの?」

 私は立ち上がると、ブースになっている壁越しから顔を出し、お兄ちゃんに向かってそう言った。


「! か、楓!! なんでここに?!」


「うるさい! 今はそんな事言ってる場合じゃない! 見失ったら終わりでしょ! はやく追いかけろ!」


「……ええ? い、いや……で、でも……」


「でももへったくれも無い! 好きなんでしょ?! 好きなら地の果てまで追いかけろ~~!!」


「……あ、ああ」

 そう言ってお兄ちゃんは伝票を手にする。


「私が払っておくからはよいけ!」


「あ、ああ、わかったありがとう」

 お兄ちゃんはそう言って慌てて店を出た。



「……まったく世話が焼ける」


「ホント、そうねえ~~」


「!!」

 私が自分の席にずるずると座ると、私の隣に金髪赤眼鏡の女子が座っていた!


「だだだ、誰? いつの間に?!」

 なんだこいつ? 私は胸に手を入れホルスターからコルトガバメントを素早く抜くと、そいつに向ける。

「あ、あんた誰?!」

 するとそいつはガバメントを握った私の手を片手で軽く捻った。


「いたたたたた!」


「あんた危ない物もってるわねえ」

 そう言いながらあっさりと私から奪ったコルトガバメントの銃口を私に向け撃鉄を起こす。


「ああああ!」

 私のコルトが! でも大丈夫……こいつは素人だ。

 コルトガバメントは自動拳銃、しかも今日は弾を薬室に弾を装填していない。

 つまり、リボルバー等と違い、弾を装填しない限り撃鉄を起こして引き金を引いても弾は出ないのだ。


「ふーーん、コルトガバメント1911Aか、あれよね、密林から突然飛び出てくる敵を止める為に作ったって奴よね? 至近距離から相手を吹っ飛ばす為だけの野蛮な銃」


「……く、詳しいわね……でもこんな所で撃ったら大変な事になるわよ」

 金髪女は周りに気付かれない様に私に銃口を向けている。


「大丈夫よ、これじゃ撃てない……ピンが出てないから、弾は装填されてない……」


「!」

 げ! なんだこいつ? なんでこんなに詳しいんだ?

 金髪女はそう言うと、マガジンを取り出し私にコルトを返した。


「装填されてたら一発は撃てるからね、ふふふ、とりあえずこれで撃てない……ってなーーんだ、やっぱりエアガンか」


「あ、ああ、当たり前でしょ!」

 マガジンの中に入ってる弾を取り出しそれを眺めて不敵に嘲笑う金髪女……。

 待って……こいつも……どこかで見た……。


「ああああああ! 芸能人女!」

 そうだ、あいつだ! お兄ちゃんと会っていたあの芸能人女だ。

 何故ここに? 偶然? いや、この間あの同級生女もこいつの後を付けていた……一体どうなってるの? 同級生女と芸能人女の関係って……そしてお兄ちゃんはどうなったの!


 





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