第40話 綾の……ファン?

 

 日下部君との待ち合わせ場所……早く来すぎてしまった私は……またいつもの様に自分の事を考え込んでいた。


 やっぱり……私はお姉ちゃんとは違う……。


 人の目が怖い、人の目線が怖い……。

 奇異な目で見られるのが怖い。


 昔から、まじかに双子であるお姉ちゃんを見ているので、自分の顔が整っているという自覚はあった。

 子供特有の綺麗な肌、大きな瞳、整った目鼻……そしてそれは私の……私達の傷を引き立たせる結果となった。

 目の横にある……醜い痣……それを際立たせる事に……。


 その痣は、可愛い顔に似つかわしくない色と形だった。

 男子からは貶され、女子からは気持ち悪がられた。


 お姉ちゃんは周りを気にせず堂々とすればいいと言っていた。

 でも……私は、耳を塞ぎ目を閉じ口を噤んだ。


 それから……私はずっと殻に閉じこ籠った。

 お父さんの本に逃げた……。


 お姉ちゃんの事もあり、私は顔を隠し、ずっと自分を隠してきた。

 仕方ないって思ってた。


 話かけられても……中々打ち解けられない……。ずっとあの頃の事を、苛めにあっていた時の事を引き摺っていた。

 

 なんとかしないと……ずっとこのままなの? 友達も出来ずにずっと……私はもがいていた。


 でもそんな私に転機が訪れる。


 そう……私は遂に出会った……運命の人に……日下部君に出会った。


 日下部君は、我慢強く私に接してくれた……決して無理強いせずに接してくれた。

 そのおかげで……私は少しずつ日下部君に慣れて行った。


 日下部君は私を尊重してくれる。私を否定しないでいてくれる。

 お父さんの古い本の話も、楽しそうに聞いてくれた。

 

 私は思った……もっともっと知りたいって……日下部君の事をもっと知りたいってそう思った。


 もっと話たい、もっと仲良くなりたいって……。


 そして……私は思った。日下部君の事を知りたいなら、私の事を知って貰わないと駄目だって。

 

 だから私は決めた……今日……告白する……初めて自分の事を明かす。

 私のお姉ちゃんが綾だという事を、そして私も綾になっているという事を。


 大丈夫……日下部君なら大丈夫、なにも変わらない。今まで通り接してくれる筈。

 私は……覚悟を決めた……。


「綾波!」

 時間よりも早く日下部君が待ち合わせ場所に来てくれた。そして、笑顔で私の名前を呼ぶ。


「日下部君!」

 遂に逢えた……日下部君に……ずっと会いたかった、ずっと逢いたかった。


「久しぶりって言っても毎日メッセージ送ってたからそんな感じはしないか? あははは」


「うん! あれ? でも……日下部君焼けた?」


「あ、うん、昨日フェスから帰って来たんだ」


「……フェス?」


「そう、音楽フェス、昨日苗場山から帰ってきたんだ」


「……へ、へえそうなんだ……」

 苗場山って……ええ? 日下部君も行ってたの? でも……そんな事一言も言わなかった。


「あ、そうか、言ってなかったね……俺さ……綾波に言ってなかった事があってさ~~」


「え? な、なに?」


「……綾波は知ってる? 綾ってモデルの事、俺さ、あの人の大大大ファンで、イベントがあればいつも行ってるんだ」


「……え」

 綾って……ええ? ど、どういう……事?


「昨日、まあ、綾が出たのは一昨日なんだけどね、わざわざあやぽん、ああ、綾ってあやぽんって愛称で呼ばれてるんだけど、俺さ、ミーハーかなって思って、ずっと綾波に言えなかったんだ~~」


「……そ、そうなんだ……その……綾って……人の事……好きなんだ……」


「まあ、好きってて言ってもさただのファンなだけで、ああ、でも……俺が悩んでいた時に色々助けられてさ、大袈裟に言うと俺にとっての神様みたいな物かなあ? あはは」


「神……さま……」

 日下部君は……何を言ってるの? 私は……わけがわからない……一体どういう事?


「ああ、でもこの間イベントの後に偶然海で会ってさ、あやぽん怪我してたんだよ、で、手当とかしたんだ。そしたら、一昨日なんとまた偶然会ってさ、一緒に会場とか回ってね……それで……」


 海……会場……それってお姉ちゃんと……私は何がなんだかわからなくなっていた。

 ショックで日下部君の声が聞こえない……それ以上何を言ってるのかわからなくなっていた。


「綾波? 綾波ってば? 聞いてる?」


「え? あ、ああ……うん……そうなんだ……す、すごいね……」

 私は……なんとかそう言って相槌を打った。でも、そこから日下部君との会話は一切覚えていない。

 


「日下部君……ごめん……私ちょっと体調が……」

 最後にそう言った事だけは覚えている。


 そして気が付くと私はいつの間にか自分の部屋に戻っていた。

 

 そしてベットの上で……一人……涙を……流していた。

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