第13話 二人の世界


 綾波は別に喋れないわけではない、ただ人見知りなだけ……なので一度慣れてしまえば、普通の女子と何ら変わり無かった。


 いや、それどころかよくなついている猫の様に、周りに人がいなければニコニコしながら俺に話しかけてくる様になった。


 あの顔を真っ赤にして、もじもじしている綾波はもういない……なんだか凄く惜しい気持ちになったのは綾波には内緒だ。


 ここまで仲良く慣れた要因としては、俺がラノベオタクをカミングアウトした事だろうか? あれがきっかけで話が出来る様になった、

 まあ、最初は綾波よりも綾波の読んでいる本に興味があったという事も綾波には内緒にしておく。


 綾波は本に関しては自らどんどん話してくる。

 曰く、子供の頃から本ばかり読んでいて、かなりバカにされたそうだ。

 

 しかも読んでいる本は父親の物で、昭和の頃に流行った本、故に同年代のクラスメイト達の殆どは皆知らない。


 それに加えて顔の痣だ。勿論その事に関して綾波は何も言わないし、女子の顔の痣というセンシティブな事なので俺もさすがに聞けない……でも、それも恐らく綾波の人見知りの原因の一つだろうと推測出来た。


 痣を気にしているあまり髪の毛と眼鏡で隠し、さらにうつ向いてばかりいるのはそれが原因なのだろう。

 常にうつ向き、顔を隠し、よくわからない本ばかり読んでいる女子……敬遠されるのも仕方がないのかも知れない。


 でも、俺はいつかあやぽんの事を、あやぽんも同じ様な痣があるって事を綾波に話そうって思ってる。

 綾波と、そう言う事まで話せる様になりたいと、俺はそう思っていた。


 そして幸いな事に部活が忙しいのか? あれから雪乃は俺の教室に姿を現さなかった。

 クラスメイトもとりあえずあのイチャイチャ事件の事は今のところ無かった事にして接してくれている。

 勿論表面上は……って事なんだろうけど……。


◈◈◈


「あのあの、日下部君、帰りに本屋に……行きません?」

 放課後帰ろうと綾波に挨拶をして、席を立つと、綾波が俺の制服を後ろから掴んで真っ赤な顔でそう言って来る。


「おお!」

 もう見れないと思っていた綾波のもじもじがまた見れた。

 そしてまさかの綾波からのお誘い、こんな日が来るなんて……。


「え?」


「綾波から誘ってくれるなんて!」

 神よ!あやぽんよ! こんな日が来るなんて、ありがとうございます!

 俺は天に向かってお祈りをする。


「もう……いいです、一人で行くから……」

 綾波はうつ向いて立ち上がると、膝をついて天にお祈りしている俺を置いて教室の外にとぼとぼと歩いて行く。


「待って待って~~」


 俺は綾波を追いかけた。


 校舎を出て、通学路を歩く。

 よく考えたら、誰かと高校から下校するなんて初めてだ。


 しかも女子となんて、小学生の時雪乃と帰った以来かも知れない。

 

「本屋で何を買うの?」


「えっと……」

 そう言って綾波は歩きながら鞄を開け本を一冊取り出す。

 

「この作者さんの新作が出てるみたいなんです」

 昭和のベストセラー作家、勿論今でも現役の誰もが知っている有名人。


「ああ、その人ね、機関銃撃っちゃう人だ」


「か、い、か、ん」


「うははは」

 映画にもなった、何年か前にリメイクしているので俺でも知っている。


「ふふふ」

 若干頬を赤らめ、映画の物真似までする綾波に俺はドキドキしてしまう。

 こんな顔をしている綾波なんて、学校で知ってるのは俺くらいだろう。


 俺と綾波は本屋に着くと別行動を取った。お互い何を買ったか内緒にして、喫茶店で話す事にした為だ。


 初めて女子と喫茶店に入る。しかも趣味の話が出来る、

 夢だった……ずっと夢見ていた。

 初めての趣味友達、お互いのお薦め作品やこうやって買った物を見せ合ったりする事を俺はずっと夢見ていた。


 こんな事ぐらいでって言われるかも知れないけど、でも俺は無性にワクワクした。そして綾波との距離がどんどん近付いている……そんな気がしていた。

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