第2話 どんどんのめり込む、あやぽん活動


「ううう、辛いよおお、涼ちゃん」

 高校生活が始まって1ヶ月が過ぎた。

 避けていたわけでは無かったが、入学してから雪乃とはずっと会っていなかったが、今日、久しぶりに雪乃に会った。

 

 学校から帰り、本屋であやぽんの出ている雑誌を買って、ウキウキしながら家に帰る途中に偶然部活帰りの雪乃と出くわした。


 雪乃は見るからに疲れている様だった。やはり名門高校での部活動は大変なのだろうか……。


「部活……大変?」

 俺は気持ちを、感情を抑え、雪乃にそう聞いた。


「朝練があって、昼はミーティング、そしてメインの夕練、しかもコーチは鬼、今日はインターバルやらされてもうヘロヘロだよ……今週の土日は試合だし、夏休みは合宿で、遊ぶ暇が無いよおお」


「──へーーそうなんだ」

 俺は作り笑顔でそう言った。でも内心ではそんな事に、もう雪乃には全く興味が無い。

 どうせ愚痴をこぼしたい為に……また俺を利用しているだけだろ?


 そんな下らない愚痴を聞くよりも、俺はあやぽんを見たかった、一刻も早くあやぽんの笑顔を、あの恥じらう様な笑顔を見たかったのだ。


「──何? その態度?」


「……え?」


「私……何かした? 今までそんな素っ気ない態度した事無かった……」


「そ、そう?」


「──なんか……涼ちゃん変わったね……」

 雪乃がそう言って不機嫌になる。

 

 雪乃は高校に入り、長かった髪をバッサリ切った。

 黒髪のベリーショート、すっかりスポーツ少女になった雪乃に変わったと言われ、俺は一瞬イラっとした。


 変わったのはお前のせいだって言いたかった。

 でも、そんな事を言った所で、何も始まらない。

 もう俺の中では終わった恋なのだから……。


 俺は作り笑顔を崩さずに、何も言わず家に向かって歩いた。

 隣の雪乃も、何も言わず一緒に歩いている。


 家が近いので仕方がない……お互い先に行く事も後から行く事も出来ず、ただ無言で歩いている。


 でも、俺達はもうただの幼馴染みだから、いや、雪乃にとってはずっとそうなのだろう、ただの幼馴染み、ただ昔から知っているだけの、ただの知り合い。


 俺は今後雪乃には、何もしてやれない、だけど、幼馴染みと言う記憶は、好きだった人、初恋の人と言う記憶だけは残る、それだけはずっと残しておくってそう決めていた。


 あの出来事と共に、俺が雪乃の先輩から聞いてしまったあの言葉と共に俺を影で拒絶していた事実と共に、俺はずっと心に残す。

 

 そしてそれは決して、雪乃には話さないって、そう……決めていた。




◈◈◈


「あああああ、やべえ、可愛い、超絶可愛い……」

 家に帰ってあやぽんの出ているファッション雑誌を見る、

 雪乃に会ってしまった不快感が一瞬で消え失せた。


 あやぽんの新しい笑顔が、さっき見た雪乃の記憶を上書きしてくれる。


 俺はあやぽんに夢中だった。あやぽんの事を知ってから、ずっとあやぽんの事を調べまくっていた。


 でも……あやぽんは謎だらけなのだ。

 

 年齢不詳、住んでいる所も……まあ恐らくは学生なんだろうけど……。

 

 あやぽんは雑誌やイベントに出る時、毎回髪型、髪の色、そして化粧を変えてくる。場合によっては目の色さえ……。

 故にどれが本当のあやぽんなのか? それは……誰にもわからない。

 

 服に合わせているのだろうか?

 中学生に見える時もあれば、高校生にも、大学生にも見える。

 変幻自在、しかもそのどれもが超絶可愛いのだ。


 そしてプライベートは徹底して隠している。

 イベントでもプライベートは一切話さない。

 【インスト】や、【ツイットー】でも学校の事所か、何処に住んでいるのかも書き込まない。

 ご飯の画像も家でのみ、どこかで誰と食べたなんて情報も書き込まない。


 あやぽんは、年齢経歴その一切が謎だった。


「あうう、あやぽんに会いたい……ぽ」


 アイドルではないので握手会とかは無い、雑誌のイベント等で時々人前に出てくるだけ。

 

 俺は行ける時は必ず行っていた。あやぽんに会いに行っていた。

 そしていつもあやぽんを遠くから眺めていた。


 会場は女子だらけなのであまり近くに行くと浮いてしまうから。


 でもそれだけで幸せだった、

 好きな人を眺めるだけで俺は幸せだった。


 ずっとそうしていたから。雪乃と時から俺はずっとそれで幸せだった……。

 

 ──そう……告白しようなんて、雪乃に告白しようと思ったのが間違いだった。


 これからは……好きな人を遠くから、見つめるだけでいい……それだけでいい──


 もう……それだけで俺は満足だから。




 

 


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